23. 縁は異なもの、味なもの

落とし紙の補充に、先生方への書類配布、荷物の受け取りに、入出門者の管理。
学園の敷地内の掃除に、余裕があれば吉野先生と二人で、小松田さんのどうしてそうなったのか分からない不思議な状況の後始末。
事務員の仕事は多岐にわたっていたが、凡そ日々やる事に変わりは無く、順調に仕事を覚えられているのではないかと自覚している。
それとも、最初のうちは固定した作業を毎日繰り返しやらせてもらっていて、学園内の配置や、先生方の顔とお名前なんかを覚えられるようにしていただいているのかもしれない。
そうならば本当にありがたいお話だ。

物覚えの良さには自信があった。
事実、地図の無い忍術学園まで聞いた話を思い出して、辿り着くことが出来ている。
才能を存分に活かせるって、こんなに楽しいんだと事務員の職にやり甲斐を感じていた。

そんな、働き始めて初めての正式なお休み。
朝から洗濯に勤しもうとする私の周りには、洗濯物が詰め込まれた五つの籠が並んでいる。
もちろん私のものじゃない。
左から、乱太郎くん、きり丸くん、しんべヱくん、そして土井先生と山田先生のものだ。


ことの始まりは昨日の昼過ぎの事。

乱きりしん─三人のことを皆こう呼んでいるらしいと、昨日知った─が外出届を持って門へやってきた。
アルバイトに向かうきり丸くんと、二人はその手伝いだと言う。

「明日のお休みもアルバイト?」
「もちろん!暑くなってくると、どこの茶屋も人手が足らないんで、朝から行ってきます」
「私たち暇してるから、それも手伝うつもりです」
「だってお礼にお店の人が、お団子お裾分けしてくれるっていうから」
「しんべヱ、ヨダレしまって」

この子達のテンポよく進む会話は、聞いているだけで楽しい。
日々の小さな癒しだ。

「きりちゃん、もらったお団子余ったらなまえさんにも分けて…あげちゃう?」
「あげちゃう〜!」
「すごい、乱太郎くんはきり丸くんの事本当によくわかってるね。でも三人のアルバイトのお礼にいただくお団子なんだから、私の事は気にしなくていいんだよ。ありがとね」

この子達の優しさには、いつも心が温かくなる。
気持ちだけをありがたく受け取り、名前と理由と教員のサインが揃っているのを確認して、外出届をバインダーに挟み込んだ。

「サインしていただいた山田先生にも言われてると思うけど、門限は守るように。それじゃあ気をつけて行ってらっしゃい」

遠ざかる背中を送り出し、門の前を掃除しながらふと考える。
朝からいないとなると、あの子達お洗濯どうするんだろう?

「まとめて洗ってあげようかなぁ」

どうせ自分の分を洗ってしまえば暇になる。
終わったら学園を散歩して、あまり行く機会のない場所を覚えようと思っていたくらいだ。
子供三人分くらい、どうということはない。

そうして、門限ギリギリになって夕日を背中に抱えながら走って帰ってきた三人に、洗濯物を引き受けるから籠に入れて出しておくように伝えた。
「洗ってあげる」と伝えてあげれば、きり丸くんはイチコロだった。

その晩、眠る準備をしているところに寝着を纏った風呂上がりの土井先生が現れた。
普段は烏帽子に納まっている髪が下ろされていることに驚く気持ちを何とか抑え込んで、なんのご用かと尋ねると、「駄賃を払うから洗濯を頼んでもいいか」と申し訳なさそうにお願いされた。

聞けば明日はお休みなのに山田先生と出張に行かれるらしく、ここに来る前にきり丸くんにお願いしに行ったみたいだ。
そこで私が引き受けた話を聞いて、駄目元で頼みに来たらしい。

さらに一人分増えたところで、十分時間は余る。
暇な時間が減り、私的には助かる話だ。
それならばと、山田先生の分も井戸の前まで持ってくるようにお伝えした。

もちろん駄賃は断った。
熱を出した時に色々としてくださったお礼と言えば、すんなり引き下がってくれた。

山田先生は私に洗わせるわけにはと渋ったそうだが、何でもお洗濯が苦手で、わざわざ利吉さんを呼び付けて奥様の元へ洗濯物を運んでもらっているんだとか。
利吉くんも暇じゃないですよ、という土井先生の言葉で何とか洗濯物を出していただくことに成功した。


─というような事があり、五人の背中を先程見送ったところだ。

山田先生の溜め込まれた洗濯物の量を見て驚いたが、そろそろ利吉さんを呼ぶところだったらしい。
だとしても籠一つにふんわり積まれた、ではなく、ぎゅっと押し込まれているという表現が近い。

ちょっと臭いが気になるかもしれん…と、籠を置いて行かれる際に口籠もって言われたが、問題ない。
そういうものこそ、洗濯のし甲斐があると言うもの。
でも、この洗濯物を理由に利吉さんはお父様である山田先生と会える訳だから、ちょっと申し訳ないことしちゃったな。
今度利吉さんがいらしたら、謝ろう。

私服の袖を襷掛けにし、裾を捲し上げ、服に水をかけては踏む行為を繰り返していく。
子供の服は小さい分、踏む回数が少なくて進みは早い。
乱太郎くんときり丸くんの分が終わり、しんべヱくんのに取り掛かろうとした時だった。

「私たちもご一緒していいですか?」

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