24. 縁は異なもの、味なもの

いつの間にか話したことのない忍たまが三人、籠を持ってそばに立っていた。
事務員の仕事をしていても意外と生徒たちと交流する機会は少なく、小松田さんに教えていただいた学年色を思い出す。

「五年生の子達、ですよね?洗い場、占領してごめんなさい」

覚えていた事は間違っていなかったようで、三人とも頷いてくれた。
この人数なら四隅に寄れば皆で洗えるだろうと、隅に寄ってしんべヱくんの服を取り出す。
空けたところに三人がやってきて、洗い場は圧迫感を増した。
声を掛けてくれた黒髪の男の子が、気を利かせてか会話を続けてくれる。

「学年が分かるなんて驚きました。まだ誰もお話しした事ないと思っていたんですが」
「小松田さんに教えていただきまして」
「なるほど!私たちの名前は小松田さんから聞いていますか?」

聞いていないと、視線を足元に逸らす。
間者の疑いがあったと知ってから、なるべく在籍者の名前などには、直接話す機会が無い限り触れないようにしている。
思いの外、あの一件は私の中で尾を引いていた。

「でも、確か初日に食堂で声を掛けようとしてくれた子達ですよね?」

特徴のある髪型の彼は記憶に強く残っていて、芋蔓式に両隣の子達も思い出した。
そんな事を覚えていたとは思わなかったのか、銀髪の子がすごいと感動している。

「よく覚えてますね、そうです。私は五年い組の久々知兵助と言います」
「同じくい組の尾浜勘右衛門です」
「五年ろ組、竹谷八左ヱ門です」
「久々知くん、尾浜くん、竹谷くん。新しい事務員のみょうじなまえです」
「あはは、なまえさんは名乗らなくてもみんな知ってますよ」
「勘右衛門、馴れ馴れしいぞ」

私の事を名で呼んだ尾浜くんが、竹谷くんに怒られる。
驚いた。新しい事務員のことなど、関わりがなければ名前なんて覚えていないと思っていた。
だから、毎度相手の名前を聞く時は自分も名乗っていたんだけど、そっか。
思いの外、嬉しいな。

「一年は組もそう呼んでますよね?俺たちも名前で呼んでいいですか?」
「お好きなように呼んでもらって構わないですよ」

やったー!と無邪気に喜ぶ尾浜くんは、すごく嬉しそうにしている。
ただ、私の名を呼ぶだけでここまで喜ばれるとは予想外だった。

「それにしても、大量の洗濯物ですね。しかも一年生の装束じゃないですか」

久々知くんは私の背後に並ぶ籠をずっと気にしていたのだろう。
私が口を動かしながらも手足を休めずにしんべヱくんの服を洗って、絞っている様を見つめている。
水気が切れたら土井先生の籠から服を取り出すと、見慣れた教員の装束に今度は首を傾げていた。

「これは私と、五人分のです」
「五?」

竹谷くんが怪訝な顔をして数を繰り返した。

「お休みの中お仕事に出掛けた五人のお洗濯、暇だったので引き受けまして」
「おほー、噂通り本当に優しい人なんですね」
「噂、ですか?」
「初日から話題になってましたよ。新しい事務員さんがあまりにも優しいって。庄左ヱ門も、しんべヱと喜三太から用具委員になまえさんが手伝いに来たと聞いたって、この間の委員会で話題にしてたし」
「知らない間にそんな事に…」

確かに、新しい職員が入れば話題には上がるだろう。
それは別に構わない。
しかし、これはちょっと良くない方向に話が進んでしまっている。

「可笑しな事をお願いするんですが、洗濯の事はここだけの話に留めてもらえませんか?」
「別に構わないですけど、何でですか?悪い事してるわけじゃないのに」

竹谷くんの言う通り、これは悪い事ではない。
でも………せっかく晴れた疑いを、再び曇らせたくはない。

「良くも悪くも、いつどこで話がすり替わるか分からないので、できればあんまり…」

そう言うと、三人は黙り込む。
すぐにい組の二人が視線を合わせると、口を開いた。

「確かにその通りですね。それにこの話が広まったら、なまえさんに言えば代わりにやってくれるんだ、って考える奴も現れるかもしれないし」
「うわあ、無いとも言えないね。嫌な思いをさせてすみませんでした」

心がずきりと痛む。
謝らせたかったわけではないのに、こうさせてしまったことへの自己嫌悪。
そして久々知くんの憶測に、頭に浮かぶ土井先生のお顔。

「こちらこそ、変な言い方をしてしまってごめんなさい」
「そんな事ないですよ。なまえさんと話せたのが嬉しくて、ちょっと浮かれて考えが回りませんでした」

尾浜くんは爽やかな笑顔で気持ちを伝えてくれた。
そうだ、この子達は純粋にそう思ってくれている…のかもしれない。
立花くんにもう少し砕けてみてはと言われた事、あれから実行に移せないでいる。
それどころか、こんな風に人に気を遣わせて駄目な大人だ。

「てことは、ここでの出来事全部、俺たちの秘密にできるって事だよな?」

竹谷くんが服を踏みつける足を止めて、久々知くんと尾浜くんを見る
三人は無言で見つめ合うと、目をきらきらと輝かせ始めた。

「なまえさんなまえさん!俺たち干すの手伝うので、その間たくさんお話ししましょう!」
「え、えっ?」
「兵助と勘右衛門が干してる間に、先生たちの分俺も洗いますよ!」
「おい八左ヱ門抜け駆けするなよ!なあ、兵助」
「いや、勘右衛門はちょっと馴れ馴れしいから一人で干すの担当で。俺も八左ヱ門と洗うの手伝おうかな」
「じゃあみんなで洗ってみんなで干せばいいじゃん。なまえさん、こいつら意地が悪いと思いません?」

わいわいきゃあきゃあと盛り上がり始めた三人に、何が起こったのかと目を瞬かせる。
学年が一つ違うだけで、六年生とはこうも空気感が違うんだ。
やっぱり、悪い事しちゃったな。
とても仲の良い三人にくすくすと笑いを溢しながら、かごの中にある服を纏めて取り出して、腕に抱えた。

「じゃあお言葉に甘えて、お手伝いお願いします!その間に、皆さんのことたくさん教えてください」

私の気持ちとは裏腹に、静かな忍術学園の井戸に賑やかな声が響いた。

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