08. 縁は異なもの、味なもの

小松田さんに連れられ、事務室にて吉野先生と顔合わせした。
昨日は外に出られていたためお会いすることが叶わず今日となってしまったが、えらく特徴的なお顔に、失礼ながら絵に描きやすそうだと思いながら挨拶を交わす。

ゆっくりする間もなく、全校集会のために校庭へ向かえば、様々な色の装束に身を包んだ少年少女がずらりと並ぶ光景が目の前に広がった。
忍術学園にはこんなに生徒がいたのかと驚くが、あれだけ忍たま長屋が充実していれば、それもそうかと納得。
長いと噂の学園長の挨拶も程々に、新職員の紹介をする挨拶の音頭が取られ、吉野先生に朝礼台に上がるよう指示された。

こんな大勢の前で挨拶なんて、当たり前だけど人生で初めて。
心拍が上がるのを感じ、転けないようしっかり足元を見て台へ上がる。
何人いるかわからない少年少女からの視線に少しだけ怯みつつも、受け取った拡声器のボタンを強く握る。

「土井先生のご紹介で、本日より事務員を勤めることとなりました。みょうじなまえと申します。私は忍ではありませんので、ご迷惑をおかけすることもあるかと思いますが、皆様のお役に立てるよう精一杯頑張ります!よろしくお願いします」

こんなに声を張ったのはいつぶりだろう。
ボタンから手を外し、短く息を吐いて深いお辞儀を一つ。
拍手の音に釣られ顔を上げれば、愛らしい笑顔で手を叩く一年は組のみんなが目に入った。
それに続くように、他の生徒たちからの拍手を一身に浴びる。
ひとまず、形としては受け入れられたようで少しだけ肩の荷が降りた気がした。

台を降りれば学園長先生には「やはり硬いのお」と言われたが、大事な第一印象で舐められてはいけないので許してほしい。
また一つ息を吐きながら、小松田さんの隣に並ぶ。
よっぽど緊張していたのか、先程から短いため息をついてばかりだ。

「ちゃんと挨拶できてましたよぉ」
「すっごい緊張しました」

吉野先生も隣でにこやかに頷いてくださっていて、上司と同僚にも恵まれ、この後の仕事がますます楽しみだ。

集会が終われば忍たまも、くのたまと呼ばれる女の子たちもみんな授業へ散っていく。
くのたまの子達の装束、目立つ可愛らしいピンクだったが、みんな着こなしていて驚いた。
絶対私には似合わない色だった。
などと思っている中、一年は組の良い子たちだけは走って私の元へやってきた。

「なまえさん!」
「おはよう。先週ぶりだね」

わらわらと私を取り囲む頭を、手の届く範囲で撫で回す。

「僕たちみんな、なまえさんがここにきてくれるのをずっと楽しみにしていたので、挨拶が終わったら会いに行こうって昨日話してたんです」

庄左ヱ門くんの言葉に、みんな笑顔で頷く。

「そうなの?すっごく嬉しい」

緩みまくる口角に思わず口元を覆って隠す。
こんな顔、見せられるわけがない。
昨日本当は会いたかったが町に出ていて出迎えられず悲しかったとか、この一週間なまえさんの話をしていただとか、乱太郎きり丸しんべヱだけ先に会えたのはズルいだとか。
出てくる嬉しい言葉の数々に、口元を抑える手が離せない。

土井先生の愛しい一年は組は、私にとっても愛おしい存在となってしまいそうだ。
うんうん、と話を聞きながら、そばで私の足にくっついている金吾くんの頭を撫でつける。
そうすれば、ずるいずるい!とみんなが頭を差し出すので、堪らずにわしゃわしゃといろんな頭を撫で回した。

「こらお前たち」

後ろから聞こえた声に振り向くと、土井先生が出席簿を小脇に抱え立っていた。

「もうすぐ授業の時間だから、そろそろ移動しなさい」

えー!と揃う不満な声に思わず笑ってしまう。

「土井先生を困らせちゃダメだよ。私もそろそろ行かないと、初日から吉野先生と小松田さんに怒られちゃう」

それでも嫌々と首を振る子供達に、どうしたものかと頭を捻らせた。
子供が喜ぶこと、か。

「そうだ!今から教室まで競争して、次会った時に誰が一番だったか教えてよ。一番だった人には何かお願い事きいてあげる。走るのは危ないから駆け足ね!はい、よーいどん!」

パン、と一つ手を叩けば、きょとんとこちらを見ていた瞳たちが、一足先に走り出したきり丸くんの「あげる〜!?俺が一番!」の声に釣られて後を追いかけていく。

「駆け足じゃないとルール違反だよ!」

走り出した背中に声をかければ、途端に速度が緩んだ背中が遠のいていった。
土井先生が隣で感心されている。

「なまえさん、一年は組の扱いがお上手ですね」
「みんなが素直でいい子達だからですよ。あの、それよりもごめんなさい。生徒たちを引き留めてしまって…。土井先生も、授業いってらっしゃいませ」

頭を下げて足早に立ち去ろうとすれば、名前を呼ばれ呼び止められる。
振り返ると、私の頭に温かい手が乗った。

「初日だからといって、あまり気張りすぎないようにね。事務の仕事、頑張って」

緩やかに私の頭を数回撫でれば、その手をそのままじゃあと私に向けた。
立ち去っていく背を眺め、先程まで撫でられていた頭に手をやる。
以前まではなかった、最近ちょくちょくされるソレ。

「どう反応するのが正解なんだろ…」

独りごちてはハッとして、駆け足で事務室まで向かった。
初日から仕事が遅いんじゃ、土井先生の顔に泥を塗るも同然。

吉野先生に遅くなった事を詫びれば、まだ仕事が始まるまで少しあったそうで、緊張して喉が乾いただろうと出されたお茶をありがたくいただく。
そこには小松田さんの姿がなく、揃い次第仕事の説明をとのことだったが、待てど暮らせど何故か小松田さんは現れない。
吉野先生の顔に青筋が立っていく様を見て、私の忍術学園の初仕事は、小松田さん探しで幕を開けた。

その頃には、最近気になるソレのことは、もう頭からすっかり抜けていた。

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