書類整理をする傍ら、閻魔殿を掃除する唐瓜さんの純粋な疑問に私は答える。
「彼女、ファッションにおいて浪費癖がすごいんですよ。前の職柄仕方無くはあるのですが、辞めても気付けばそれは趣味に転じてしまったようで、今も変わらず」
茄子さんが納得したように声を漏らした。
「花街の元トップだもんなー。服装は確かに気を使ってそうですもんね」
「最近は落ち着いてたみたいですし、子供服だからいいかと思ったら、まさかカマーカマーの姉妹ブランドに子供服があったとは」
出掛けると歩き始めた直後に、どこかへ電話を掛け始めた時点で引き止めるべきだったかと思うが、レシートを捨てた今15万のうちの何割が子供服の価格なのかがわからず叱る言葉は不完全燃焼となった。
現地に行っても、お得意様で優待価格だから行ったとて意味が無いと彼女がドヤ顔で申し出てたのに舌打ちしたのは記憶に新しい。
目を通して判子を押していく作業を繰り返していると、座敷童子のお二人が目の前に降り立つ。
「どうかされましたか」
「鬼灯様、なまえさんにお礼したい」
「なまえさんの好きな物、なに」
「使えるお金は、これだけ」
小銭の擦れる音に差し出された手を見ると、少額の六文銭。
「残念ながらそれで買えるものはありませんよ。落とし物なら私が預かります」
「バレた」
机の上にお金を置かれると、縁に手が乗って目元が覗いている。トト◯のメイちゃんが父親とお花屋さんごっこをしていたアレみたいだな、と思った言葉は我慢できずに口から出ていたらしく、茄子さんが本当だと言った。
「そうですね。彼女にお礼をしたい、というのであれば、一つ提案があります」
鬼灯が出張でいないというので、まっすぐ自分の部屋に帰ると、部屋の中に座敷童子ちゃんたちがいた。
暗闇の中、深淵のように深い瞳がぎょろりと私を見る。
人がいるとは思ってもいないので、扉を開けて驚きのあまり数歩下がった。心臓無くなるかと思った。
「びっくりしたあ。一子ちゃん二子ちゃんこんばんは」
「こんばんは」
「こんばんは」
私のベッドに座っていた二人は同時に床に降りると、とたとたと私の手を引いて部屋に招き入れる。
招いてくれてありがとう。ここ私の部屋だけどね。
「今日は、なまえさんにこの間のお礼持ってきた」
「この間?」
「お洋服くれたお礼」
あぁ、鬼灯に怒られたあの洋服か。随分と気に入ってくれたようで、時々着ているのを見かけている。
スカートで天井走ると丸見えだから、中に履くものでも買ってあげなきゃなと思ったの思い出した。こっそり買いに行かないとまた怒られちゃうかな。
「そもそもあの服が私からのお礼なんだから、返しちゃダメよ」
「でも鬼灯様がね、これならきっと喜ぶって」
「鬼灯が?」
そういって私の机の上から紙を2枚運んできて差し出してくれる。
何の紙だろう、と白紙を受け取って裏を向けると、なまえさんへと書かれた私らしき似顔絵だった。
「これ、私?」
「なまえさんと、鬼灯様。二人が話してるところじっと見て、頑張って描いた」
「二人ともお話ししてるの楽しそうだった」
子供らしいテイストで描かれた私と鬼灯の口元は、半月を描いた笑顔で。
何よりも、二人が鬼灯に相談して、私にお礼を伝えてくれたことがあまりにも嬉しくて、涙ぐむ。
「ご、ごめんなさい」
「嫌だった?」
あたふたと手を動かして私を囲む二人を目一杯抱きしめる。
「違うの。とっっても嬉しくて!こんな素敵なもの貰えると思ってなかったから。明日額縁買ってきて飾っちゃう」
顔を見合わせた二人が、ふふふと笑うと私の背中に手を回してくれる。なんて幸せなんだろう。
二人の体温を堪能していると、背中でガチャリと扉が開いた。遠慮がなくなってきて最近はノックもなく合鍵で勝手に開けてくるのは、あの世にこの人しかいない。
「…貴方たち、何してるんですか」
「愛を伝えてるところ。出張は?」
「トラブルで交通手段が無くなったので、延期です」
二人から手を離して、振り返って鬼灯に抱きつく。
おお!と騒ぐ二人をおいで、と呼ぶと、駆け寄ってきて足元で私と鬼灯に抱きついた。
「何ですか、急に」
「もう嬉しくて嬉しくて嬉しくて」
「辛いんですか?」
「エアバンドしないでね。後で鬼灯も二人が描いてくれた私たちの似顔絵見てよ」
お互い気乗りしなくて子供なんてまだいいと二人の生活を楽しんでいるが、きっと子供ができたらこんな事があって毎日嬉しいんだろうなあと、遠い未来を思い描いた。
啜り泣いて鬼灯の胸元を濡らす私の頭に、鬼灯の温かくて大きな手が乗る。
腕に力を入れて泣き顔を見られないように鬼灯に抱きつく私には、三人がアイコンタクトを取って親指を立て合っていたのは、知らないお話。