scherzando
影山くんが毎日送ってくれる、と決めてから数日。私達は欠かすこと無く毎日一緒に帰っていた。
大体毎日同じ時間に会えるので、今日も校門で待ってれば来るだろう、そう思って待っているのだが、
「…………来ない。」
一向に来る気配が無い。
練習中は携帯をあまり見れない影山くん。たぶんまだ体育館にいるのかな。
どうしよう、体育館まで行ってみようか。で、でもそれで何しに来たんですかって言われたら困ってしまう。影山くんと帰りたいんですけど、なんてまるで彼女じゃないか。
………あれ?もしかして、毎日一緒に帰っているここ最近の私達は、第三者から見たら恋人同士に見える…?
そそそそ、それは大変な事だ。非常にまずい。影山くんに失礼過ぎる。
うわあ、うわあああ!!とパニックになったが、その間も、そしてそれからしばらく経っても影山くんは来なかった。
………仕方無い。意を決して私は体育館へと歩みを進めた。
◇
バシーン!!とボールが打ち付けられる音がする。
え、バレーってこんな音する程激しいスポーツなんだ……?
体育でのバレーボールしか経験した事ないので、有り得ない音たちにひいいと怯える。
居残って練習してるのは影山くんだけじゃないんだ、沢山人の声がする。
ふぅ、と深呼吸をして扉を開く。ガラガラと体育館の扉は音を立てて開いた。
ひょこ、と顔を覗かせると皆さん練習に夢中なようでさほどこちらに気づいていない様子。有難い。
影山くんはー………あ、いた。
その光景は、二度と忘れられないだろう。そう思わせるほどの衝撃を植え付けた。
小柄な日向くんがまるで羽があるかのように舞い上がり、
素人目から見ても美しい形でボールを上に放る影山くん。
そしてそれを最も高い位置から振り下ろす日向くん。
「す、凄い………!」
「………お?あれ?苗字さん?」
思わず呟くと同時に、こちらに気づく日向くん。
そしてその声を聞き、こちらを見て、!!!と驚く影山くん。
「どうしたの?谷地さんならもう帰っちゃったけど……。」
「あ、いや、私が用事あるのは仁花じゃなくて…。」
「悪ぃ、苗字!!すぐ片付ける。」
「え?え?どういうこと?」
「今日いつもより長くやり過ぎた。帰んぞ。」
「え?……ほんとだ!?もうこんな時間じゃねぇか!!」
日向くんの声に、周りの人達も時計を見て焦り始める。
皆さん時間を忘れて練習に没頭していたのですね……わかります、わかりますよ、忘れますよね。
「すぐ、すぐ片付けるから待っててくれ!!」
「あ、慌てなくて大丈夫だよ!校門で待ってるね?」
「外暗いから、体育館の近くで待ってろ!」
いいな!?と大声で言われ、はい!!と頷く。それを確認した影山くんは急いで日向くんと片付けに取り掛かった。
「なぁなぁ、」
「っ!?」
「あ、ごめんごめん、脅かすつもりは無かったんだけど、」
へらりと笑った人。泣きぼくろが特徴的だ。
「君は、影山の彼女?」
「え、えぇ!?ち、違います!!」
「え?そうなの?てっきり一緒に帰るために待ってるのかと……。」
「あ……そ、それは、そうなんですけど……。」
「え、そうなの?一緒に帰るの?」
「う、あ、は、はい。」
「えぇ?なんでなんで??」
「あ、あの、貴方は……?」
「おい、スガ!!何女子困らせてんだ!!」
「こ、困らせてる?ごめんな??」
「い、いえ!!」
「俺は菅原。3年だよ。こっちは澤村大地。うちのキャプテン!」
さささ、3年……せ、先輩じゃないか!!
「せ、先輩………。」
「ね、なんで影山と一緒に帰るの?」
「え、えっと、私が暗くなるまで居残って練習してるから帰り道危ないからって……毎日、送ってくれてるんです。」
「「はぁ!?」」
「ひょえっ」
「あ、すまん。影山って…あの影山か?」
そう言ってキャプテンさんが指さすのは日向くんとうおおおお!!と叫びながらモップがけしている影山くん。そうです、あの影山くんです。
「へぇ……影山が、自分から送るなんて…」
「…………えっと、苗字さん?だっけ?」
「え、は、はい。」
「さっき日向が叫んでるの聞こえたんだ。その、影山のことよろしくな?」
「え?」
よろしくって、どういう意味、でしょうかキャプテンさん。
◇
「悪い、待たせた。」
「全然大丈夫だよ、影山くんが練習し足りない時は待つって話だったし。」
「にしても今日はやり過ぎた。さっさと帰るぞ。」
「うん。」
そう返して、影山くんと校門へ歩き出したところで
「待て待て待て待て影山ぁあ!!」
「!?!?」
「うわ!?んだよ!?」
ずさあああ!!と音を立てながら登場した日向くん。びっくりしたぁ……。
「お、おお、お前!」
「落ち着けよ。」
「おお、落ち着いてる!!お前、苗字さんと付き合ってんのか!?」
ままままま、また誤解を生んでいる!!誤解を生むような距離感なのがいけないのだけども!!
「ち、…………違ぇよ。」
「え?違うの?」
「違うよ、日向くん!影山くんは私が暗い中帰るの心配してくれて、家まで送ってくれてるの。」
「…………え?心配?影山が?………お前誰だ!!!」
「うっせぇぞ日向ボゲぇぇええ!!!」
日向くんの失礼な物言いにキレる影山くん。怖。
「だ、大丈夫?苗字さん、こいつに嫌な事とか失礼な事言われてない?」
「え、え?そんな事言われた事ないけど……。」
「本当に!?お前、女子に優しくとか出来んだな……?」
「そうか、もうトスはあげなくていいんだな。」
「んな!?ずりぃぞ影山ぁ!!」
「お前が失礼な事ばっか言うからだろうが。」
「だってお前俺にはいつもキレてばっかだしよぉー」
「苗字、行こう。」
「え、え!ひ、日向くんいいの?」
「いい。」
少し強く腕を引かれて、日向くんから遠ざかる。
「あ、ちょ!!……じゃあな!影山!苗字さん!!」
「ば、ばいばい日向くん!」
「じゃあな。」
◇
「悪かったな、今日体育館まで来させちまって。」
「ううん、全然。それにバレー部ってことは知ってたけど、実際にバレーやってるの見るのは初めてだったし、新鮮だった。」
ちょっとしか見られなかったのが惜しまれるくらいに。
「そうか?……また、苗字が先終わった時、見に来たら良い。」
「うん、それなら楽しく待てそう!」
あ、でも。今日何回か言われた言葉を思い出す。
「か、影山くん」
「なんだ?」
「えと、その……私と毎日帰ってると、今日みたいに付き合ってるのか、とか言われ易いと思う。」
影山くんが嫌なら、こうやって一緒に帰るのは辞めた方が良いだろう。
「あー……そうだな。」
「い、嫌じゃない?嫌なら私、1人で帰るし…」
「…………別に、嫌じゃねぇよ。」
ふい、と顔を逸らして言う影山くん。本当だろうか、無理してないだろうか。
「ほ、本当?無理してない?」
「してねぇよ。嫌なら嫌だって言う。苗字こそ、……嫌じゃねぇか?」
「わ、私は全然、む、むしろ、」
影山くんみたいなかっこいい人と付き合ってるように見えるなんて、光栄です。なんて言おうとした口は止まった。
光栄ですとかき、気持ち悪くないか……?そもそもかっこいいって本人に言える……?む、無理だ無理無理。
「むしろ?」
「………………な、なんでもない、デス。」
「は?」
「とにかく、私も嫌じゃないから!」
「うぉ、おう。」
「これからもよろしくお願いします!」
「……ん。」
言えなかった影山くんへの気持ち。
以前影山くんが話してくれなかったむしろの続きも、私と同じように恥ずかしくて言えなかった。とかなら良いのになぁ。
そう思って、つい足を止める。
「?苗字、どうした。」
それは、私は影山くんに対してかっこいいなんて恥ずかしくて言えない。って思った。同じようにって言うのは、影山くんに、その、か、可愛いとか、そういう風に思われたいって事?
「おい、苗字?」
今までそんな事考えたこと無かったのに。
立ち止まって私の顔を覗き込む影山くん。サラサラの黒髪に、月明かりに照らされて綺麗なお顔。
「っ!!!!」
「おわっ!?ど、どうしたんだよさっきから?」
急いで距離をとり、ばくばくうるさい心臓を抑える。
も、もしかして私は………影山くんに恋してしまったのだろうか。
(戯れるように)
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