いつか必ず
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無駄だとわかっていても、頑張る気持ち
どうしようもないってわかっていても、抗う気持ち
これ以上は無理だとわかっていても、それ以上に努力する気持ち
全てを失った訳では無いけれど、これらの感情が湧き出すことはかなり減ったように感じる
特に、私は高校生の時に無理だとわかっていたのに好きになってもらおうと卒業するまで努力していたからか
今その情熱を失って空っぽになったような気さえする
◇
私が好きになったのは影山飛雄くんという男の子だった
バレー部に所属していて、基本的にはバレー以外はどうでもいい、そんな感じだった
バレー部は全国大会にも出るくらい強く、何度か応援に行って間あまりのかっこよさにくらくらした覚えがある
そもそも私はバレーをしていない状態の影山くんに恋してしまったから、影山くんが全力でバレーしてる絵面なんてとんでもなかったのだ。
どうして好きになったとか、明確な理由は特になかった
何度か会話して。顔はちょっと怖いけれど性格はそんなに怖くはないんだなぁとわかって。
授業中に白目向いて寝ちゃうのには驚いたけど、何度か見たら笑えてきたし
黒板消されてたからノート見せてくんねぇか。と言われた時はちょっとどきっとして。でも冷静なフリしてノートを貸したっけな
それで次の日になると貸したノートが牛乳と一緒になって私の机の上に置いてある。ありがとう、なんてメモと一緒に。
そんな些細なことが何度か続いて。いつの間にか私は影山くんのことばかり目で追っていた
あぁ、好きになってる。そう気づいた時は少しばかり絶望したものだ
何故なら彼はバレーボール以外はどうでもいい人間だ
恋愛とか、彼女とか。面倒に決まっている。
そう考えた私は想いを告げるのはやめておこう。と恋していると意識した瞬間に決めた。
今思えばあまりにも悲しい初恋だった。
けれどその決意は脆く散ったのだ。あろうことかあと1日で影山くんと離れることになる卒業式の日に
私自身影山くんと仲のいい女子という立場ではないと思っていたが、影山くんは違ったようで。
「今まで色んなことで世話になったから」
なんて言って、何故か学ランの第二ボタンをくれた
えっえっ。もしかして好きだったのバレてたのか。えっまじかえっ、どうしよううう
なんてパニックになったものの。影山くんはモテていたから周りの女子達が自分の第二ボタンを欲しがるのを見て
私に渡せば喜ぶと考えてくれたらしい。嬉しい。嬉しいし知らずに渡そうとしてくれてたのめっちゃ可愛いんですけど…
その卒業するという日の行動で私の決意は儚くも散り、
「あのね、影山くん」
「おう」
「私はずっと影山くんのこと好きでした」
「…おう」
「…えっ、気づいてた?」
「いや、今初めて知った。驚いてる。」
全然驚いた顔してませんけど…
「第二ボタンはね、凄く欲しかった。影山くんのだから欲しかったの。だからありがとう」
「影山くんはバレーが1番だから。気持ちに答えられないのなんて知ってるよ、これからプロの世界に入っていくんでしょう?
「私は伝えられただけで十分だから」
ここまで言い切った途端、涙が溢れ出た。
目の前に立っている影山くんはどんな顔をしているだろう。困らせてしまっただろうか。最後の最後で嫌な女になりたくなかったなぁ。
「……俺は、」
「…うん」
「俺はバレーボールが1番大事だ。これはやっぱり譲れない。だけど、彼女とか恋愛とかが不必要とかそんな風には思わない」
「…うん」
「だけど、俺はまだまだ未熟でこれからすげぇ上手い人達の中に混ざってプレーさせてもらうんだ」
「だから、彼女出来ても時間作れねぇし俺自身もちゃんと周りについていけるように全力でプレーしていきたい」
「……うんっ、」
「海外遠征とかもあるしどこにいるかもわからないやつと付き合っていくのはしんどいと思う…だから」
「俺が1人前のバレーボール選手になって、苗字を養えるようになったら迎えに来る」
「………えっ!?」
「その時は結婚を前提に付き合ってくれ」
「ちょ、ちょっと待って影山くん!?」
「あぁ、迎えに来た時にはもしかしたら仕事辞めてもらいたいとか言うかもしれねぇ…海外チームに移籍してもついてきてもらいてぇし。頭の隅っこ置いといてくれ。」
「ちょっと!?!?待って!?!?」
「なんだ」
「いや、話飛びすぎじゃない!?」
「そうか?俺も苗字のことが好きだ。」
「なっ…。」
「だから、一緒にいたい。でもまだ一緒に来てくれなんて言える状態じゃない。」
「かなり待たせちまうかもしれねぇけど、必ず迎えに来る。待っててくれるか?」
そんな…そんなことまで考えてくれてたとは…わかりにく過ぎる…
必ず迎えに来る。なんてこんなイケメンに言われてときめかない女はいるのだろうか。
「わかった。信じて待ってるね、影山くん」
そう言って私たちは別れた。暫く涙は止まらなかった。
◇
あれから3年。私は影山くんに会ってない。
影山くんはイケメンバレーボール選手として有名人になり、とてもじゃないが手の届かない人になってしまった
あの約束も、もう覚えていないだろう。
しかし私はあれから1度も彼氏は作らず、影山くんを待っていた。健気な事だ。
でも、3年も経ったし、テレビでは見るけど実際には会ってないし
そろそろ諦めるべきかなぁ。
なんて思いながら家路につく。今日も社会人お疲れ様でした。烏野高校に近い私の家は影山くんの家からも近いらしい。
いつだったか話した時にそう言われた。確かあの家の方角が影山くんの家だったような…なんて思いながら辺りを見回してたら
忘れたくても忘れられない。諦めたくても諦められなかった彼がいた。
なんで、ここに。
「…苗字。」
「え…」
あろうことか彼は私に会いに来たらしい
もしかして、
「迎えに、来た。遅くなってごめん。まだ俺の事待っててくれたか…?」
少しだけ心配そうに聞いてくる彼は見た目こそテレビ越しの有名人だが、仕草や話し方は昔のままで。あぁ、本当に迎えに来てくれたんだぁ。なんて他人事のように思ってしまった。
「…うん。待ってた、3年ずっと待ってた」
「時間かかってすまん。でも、もう迎えに来てもいいと思ったんだ。だから、」
「結婚を前提に、俺と付き合って貰えませんか。」
大人になって忘れかけていた感情、情熱が湧き出した気がした。
私は溢れ出る涙を止めようともせず、彼に向かって抱きついた。
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