甘やかす
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「え?」
そんな事無いと思うけど、と目の前で項垂れている頭2つを眺める。
「そんな優しく教えてても、こいつら赤点回避出来ないですよ。」
「わ、わっかんねぇだろ!?それにお前の教え方は怖すぎんだよ!!」
「そうだ。優しく教えて貰える方が良い!!」
「あっ、そーーーう??じゃあ僕はもう教えないから。」
「「ま、待て待て!?」」
慌てて月島くんに泣きつく2人を見て笑う、今日も仲良しだなぁ。
「す、すいません名前さん!!」
すると聞こえる可愛らしい声。振り返ると仁花ちゃん。
「私の代わりに教えて貰ってしまって……。」
「全然大丈夫。仁花ちゃんは片付けとか教わらないとだし、それに私も時間あったから平気だよ?」
「優しすぎ…………女神……?」
「え?」
つー、と涙を流して固まる仁花ちゃん。女神?何が?
「じゃあ仁花ちゃん戻ってきたし、私は帰るね?」
「はい!!ありがとうございました!!」
「あざっした!!」
「いえいえ。」
荷物を手に取り立ち上がる。すると後ろからついてくる大きな影。
「……あれ?月島くんも帰るの?」
「はい、谷地さんいますし。」
「おい、月島!?練習後は教えてくれるんじゃ無かったのかよ!?」
「今日はいいでしょ、先生他にいるんだし。」
「……確かに。……明日は教えてくれるんだよな、コラ。」
「なんで田中さん口調……。教えるよ、今日は帰る。」
「んー……わかった!!じゃあな!!苗字さんもお疲れっした!!」
「ん、お疲れ様。」
◇
「あれ?今日山口くんは?」
「嶋田さんのとこに行きました。サーブの練習。」
「なるほど……。」
なんとなく一緒に帰る我々。普段そんなに話さないから新鮮だ。
「私、そんなに甘やかしてた?」
「……?……あぁ、2人の事?甘やかしてましたよ。すぐ褒めるし、間違えても優しくしてたし。」
「そ、そっかぁ……。」
私としてはそんなつもりは無かったけれど、月島くん基準だと甘やかしているようだ。
「なんか……優しくしてあげたくなっちゃうんだよなぁ、あの2人。可愛くて。」
「………………可愛い……?」
うわ、何言ってんだこの人って顔してる!!隠す気も感じない!潔いね!
「あはははは!!月島くん、顔!!すごい顔してる!!」
「いや、だって……片や180センチ越えですよ?もう1人なんか野生児だし……。」
「うーん、なんか見た目って言うより……中身が?」
苗字さん、教えてください!!って目をキラキラさせながら迫ってくる2人が、なんでかわからないが可愛く見えてしまったのだ。
「…………変わってますね。」
「そう?まぁ、後輩だし可愛く見えるのは仕方ないかもね。」
あははは!と声を上げて笑っていると、くい。制服の裾を引っ張られる。
「え?」
振り返ると、俯いた月島くん。
「ど、どうしたの?どっか痛い?」
何も言わない月島くんが心配になる、急にどうしたんだろう。さっきまで普通に話してたのに。
「……そんな、変わってる苗字さんからしたら、」
「え?」
「…………僕のことも、可愛く見えますか?」
………………え?
何を言って、と彼を見ると耳まで真っ赤になっていて。
それにつられて、なんだか顔が熱くなる。
月島くんが顔をそんなにしてまで伝えた意味、考えなくてもわかる気がした。
そんなの、可愛くて仕方がないに決まってる。
言葉にしない代わりに、大きな大きな彼の頭に手を伸ばして撫でてみた。
すると眼鏡の奥で見開かれる瞳。
「可愛いよ、月島くんも。」
面と向かっては言えなくて、顔を少し逸らしてしまった。
それは、月島くんに対して恥じらっている事を露呈してしまい、彼の口はにやりと弧を描いた。
「…………なら、」
伸ばした手を絡めるように握られ、身を屈められ近づく距離。
「僕のことも甘やかしてくださいよ、先輩。」
至近距離で言われた言葉に、ズギャン。と心臓を射抜かれたのは、彼の思惑通りなのだろうか?
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