甘やかす


「……苗字さんは変人コンビに甘すぎますよ。」


「え?」


そんな事無いと思うけど、と目の前で項垂れている頭2つを眺める。


「そんな優しく教えてても、こいつら赤点回避出来ないですよ。」


「わ、わっかんねぇだろ!?それにお前の教え方は怖すぎんだよ!!」


「そうだ。優しく教えて貰える方が良い!!」


「あっ、そーーーう??じゃあ僕はもう教えないから。」


「「ま、待て待て!?」」


慌てて月島くんに泣きつく2人を見て笑う、今日も仲良しだなぁ。


「す、すいません名前さん!!」


すると聞こえる可愛らしい声。振り返ると仁花ちゃん。


「私の代わりに教えて貰ってしまって……。」


「全然大丈夫。仁花ちゃんは片付けとか教わらないとだし、それに私も時間あったから平気だよ?」


「優しすぎ…………女神……?」


「え?」


つー、と涙を流して固まる仁花ちゃん。女神?何が?


「じゃあ仁花ちゃん戻ってきたし、私は帰るね?」


「はい!!ありがとうございました!!」


「あざっした!!」


「いえいえ。」


荷物を手に取り立ち上がる。すると後ろからついてくる大きな影。


「……あれ?月島くんも帰るの?」


「はい、谷地さんいますし。」


「おい、月島!?練習後は教えてくれるんじゃ無かったのかよ!?」


「今日はいいでしょ、先生他にいるんだし。」


「……確かに。……明日は教えてくれるんだよな、コラ。」


「なんで田中さん口調……。教えるよ、今日は帰る。」


「んー……わかった!!じゃあな!!苗字さんもお疲れっした!!」


「ん、お疲れ様。」





「あれ?今日山口くんは?」


「嶋田さんのとこに行きました。サーブの練習。」


「なるほど……。」


なんとなく一緒に帰る我々。普段そんなに話さないから新鮮だ。


「私、そんなに甘やかしてた?」


「……?……あぁ、2人の事?甘やかしてましたよ。すぐ褒めるし、間違えても優しくしてたし。」


「そ、そっかぁ……。」


私としてはそんなつもりは無かったけれど、月島くん基準だと甘やかしているようだ。


「なんか……優しくしてあげたくなっちゃうんだよなぁ、あの2人。可愛くて。」


「………………可愛い……?」


うわ、何言ってんだこの人って顔してる!!隠す気も感じない!潔いね!


「あはははは!!月島くん、顔!!すごい顔してる!!」


「いや、だって……片や180センチ越えですよ?もう1人なんか野生児だし……。」


「うーん、なんか見た目って言うより……中身が?」


苗字さん、教えてください!!って目をキラキラさせながら迫ってくる2人が、なんでかわからないが可愛く見えてしまったのだ。


「…………変わってますね。」


「そう?まぁ、後輩だし可愛く見えるのは仕方ないかもね。」


あははは!と声を上げて笑っていると、くい。制服の裾を引っ張られる。


「え?」


振り返ると、俯いた月島くん。


「ど、どうしたの?どっか痛い?」


何も言わない月島くんが心配になる、急にどうしたんだろう。さっきまで普通に話してたのに。


「……そんな、変わってる苗字さんからしたら、」


「え?」


「…………僕のことも、可愛く見えますか?」


………………え?


何を言って、と彼を見ると耳まで真っ赤になっていて。


それにつられて、なんだか顔が熱くなる。


月島くんが顔をそんなにしてまで伝えた意味、考えなくてもわかる気がした。


そんなの、可愛くて仕方がないに決まってる。


言葉にしない代わりに、大きな大きな彼の頭に手を伸ばして撫でてみた。


すると眼鏡の奥で見開かれる瞳。


「可愛いよ、月島くんも。」


面と向かっては言えなくて、顔を少し逸らしてしまった。


それは、月島くんに対して恥じらっている事を露呈してしまい、彼の口はにやりと弧を描いた。


「…………なら、」


伸ばした手を絡めるように握られ、身を屈められ近づく距離。


「僕のことも甘やかしてくださいよ、先輩。」


至近距離で言われた言葉に、ズギャン。と心臓を射抜かれたのは、彼の思惑通りなのだろうか?

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