甘やかす


▼▲▼

「……苗字さんは変人コンビに甘すぎますよ。」


「え?」


そんな事無いと思うけど、と目の前で項垂れている頭2つを眺める。


「そんな優しく教えてても、こいつら赤点回避出来ないですよ。」


「わ、わっかんねぇだろ!?それにお前の教え方は怖すぎんだよ!!」


「そうだ。優しく教えて貰える方が良い!!」


「あっ、そーーーう??じゃあ僕はもう教えないから。」


「「ま、待て待て!?」」


慌てて月島くんに泣きつく2人を見て笑う、今日も仲良しだなぁ。


「す、すいません名前さん!!」


すると聞こえる可愛らしい声。振り返ると仁花ちゃん。


「私の代わりに教えて貰ってしまって……。」


「全然大丈夫。仁花ちゃんは片付けとか教わらないとだし、それに私も時間あったから平気だよ?」


「優しすぎ…………女神……?」


「え?」


つー、と涙を流して固まる仁花ちゃん。女神?何が?


「じゃあ仁花ちゃん戻ってきたし、私は帰るね?」


「はい!!ありがとうございました!!」


「あざっした!!」


「いえいえ。」


荷物を手に取り立ち上がる。すると後ろからついてくる大きな影。


「……あれ?月島くんも帰るの?」


「はい、谷地さんいますし。」


「おい、月島!?練習後は教えてくれるんじゃ無かったのかよ!?」


「今日はいいでしょ、先生他にいるんだし。」


「……確かに。……明日は教えてくれるんだよな、コラ。」


「なんで田中さん口調……。教えるよ、今日は帰る。」


「んー……わかった!!じゃあな!!苗字さんもお疲れっした!!」


「ん、お疲れ様。」


◇


「あれ?今日山口くんは?」


「嶋田さんのとこに行きました。サーブの練習。」


「なるほど……。」


なんとなく一緒に帰る我々。普段そんなに話さないから新鮮だ。


「私、そんなに甘やかしてた?」


「……?……あぁ、2人の事?甘やかしてましたよ。すぐ褒めるし、間違えても優しくしてたし。」


「そ、そっかぁ……。」


私としてはそんなつもりは無かったけれど、月島くん基準だと甘やかしているようだ。


「なんか……優しくしてあげたくなっちゃうんだよなぁ、あの2人。可愛くて。」


「………………可愛い……?」


うわ、何言ってんだこの人って顔してる!!隠す気も感じない!潔いね!


「あはははは!!月島くん、顔!!すごい顔してる!!」


「いや、だって……片や180センチ越えですよ?もう1人なんか野生児だし……。」


「うーん、なんか見た目って言うより……中身が?」


苗字さん、教えてください!!って目をキラキラさせながら迫ってくる2人が、なんでかわからないが可愛く見えてしまったのだ。


「…………変わってますね。」


「そう?まぁ、後輩だし可愛く見えるのは仕方ないかもね。」


あははは!と声を上げて笑っていると、くい。制服の裾を引っ張られる。


「え?」


振り返ると、俯いた月島くん。


「ど、どうしたの?どっか痛い?」


何も言わない月島くんが心配になる、急にどうしたんだろう。さっきまで普通に話してたのに。


「……そんな、変わってる苗字さんからしたら、」


「え?」


「…………僕のことも、可愛く見えますか?」


………………え?


何を言って、と彼を見ると耳まで真っ赤になっていて。


それにつられて、なんだか顔が熱くなる。


月島くんが顔をそんなにしてまで伝えた意味、考えなくてもわかる気がした。


そんなの、可愛くて仕方がないに決まってる。


言葉にしない代わりに、大きな大きな彼の頭に手を伸ばして撫でてみた。


すると眼鏡の奥で見開かれる瞳。


「可愛いよ、月島くんも。」


面と向かっては言えなくて、顔を少し逸らしてしまった。


それは、月島くんに対して恥じらっている事を露呈してしまい、彼の口はにやりと弧を描いた。


「…………なら、」


伸ばした手を絡めるように握られ、身を屈められ近づく距離。


「僕のことも甘やかしてくださいよ、先輩。」


至近距離で言われた言葉に、ズギャン。と心臓を射抜かれたのは、彼の思惑通りなのだろうか?

▲▼▲

- 9 -
←前 戻次→