未来のために

「ヒーロー名!!そっち頼むぞ!!」


「はい!!」


先輩サイドキックに返事をして、こちらへと逃げてきたヴィランへ1発キツいのをお見舞する。


すると骨が何本か折れたようで、苦痛に呻く声を上げながらお縄に着いた。


「……やり過ぎたな。」


「構わん、確保までの迅速さには替えられん。」


「!エンデヴァー。」


「次の事案がある、ここはあいつらに任せてお前は俺と来い。」


「えっ…………はい!」


珍しい、すごく珍しい。


基本的には私はエンデヴァーとは別行動になりやすいのだ、それが事案の規模が大きくとも小さくとも関係ない。


それだけ自分のいない方を任せて良い。そう思ってくれてるのは有難いし、その思いにも応えたい。


なので今回のように同じ市内で起きてる事件でも、私がこちらに残らずエンデヴァーに付き添うなんて本当に珍しいのだ。


「なんだ?不服か?」


「えっ?」


「そのような顔をしている。」


「そ、そんな事は………………ただ、珍しいと思っただけで、」


「…………俺はな、ヒーロー名。最近になって思うんだ。……未来を守りたいと。」

「……未来?」


「あぁ。未来を、そして未来に生きる子供たちを。……だからその為にもヒーロー名。お前を育て、有望な若者として力を発揮して欲しい。」


……………………?


充分私は出し惜しみなんてせず、ヒーロー活動に勤しんでいると思っていたのですが……?オーマイボス…………?


「……不思議そうな顔をしているな。……分かりやすく言おう、ヒーロー名。」


「は、はい。」


「……事務所を出て、自立しろ。」


「……………………………………え!?」


突然のクビ!?え!?な、なんで、そんな、…………ま、まさか焦凍くんとほんのちょっと仲良くしたのがバレた!?まじ!?


「落ち着け、今すぐという話では無い。」


「お、う、あ、は、はい。」


「それに俺はな、お前を気に入ってる。高い戦闘力、迅速な判断、行動。何をとってもお前になら任せられる。」


「……あ、有り難きお言葉。」


「だからお前は充分やって行ける。俺の下では無くお前自身が中心となり、未来を守れ。」


「…………っでも、」


「何、お前なら大丈夫だ。サイドキックも何人かお前につけよう。…………それに、先程言った通り今すぐという話ではない。」


「は、はい。」


「ただ意識しておけ、数年後にはうちの事務所を出て自立するのだと。これからも今まで通り俺の留守はお前に任せる。……いつかはこれが当たり前だと、自分の力で守り抜くのが当たり前になるよう、意識して日々を過ごせ。」


「………………はい。」


急な話過ぎて、頭が追いつかない。


でも、エンデヴァーが期待してくれてるのはわかった。凄くわかった。それでも、私の中ではでもとだってが渦巻いて。


その後久しぶりにエンデヴァーと共に事件に当たったが、悩みが大き過ぎて、ついつい容疑者を強く殴り過ぎて意識不明の重体にしてしまった。警察に怒られた。そしてエンデヴァーにも怒られた。つ、辛い…………。


今思えば、今回エンデヴァーが一緒に来い、と言ったのはこの話を伝えるためだったのだろう。にしても事務所とかで言ってくれれば良かったのに。なんでこう、仕事中に。お陰でヘマをした。…………こういう所も直せという事なのかな。


「………………はぁ。」


あー!ヒーロー名だー!!ニュース見たぞー!!お前やり過ぎだよ!!なんて声をかけられながら街を歩く。すいませんね、すぐ人の骨とか臓器とかぐちゃぐちゃにしちまって。雑念が多いと力加減も上手く出来ない未熟者な者で。


「……………………………………はぁ。」


「…………ヒーロー名?」


聞き覚えのある声にビクゥ。と身体を震わせる。振り返るとそこにいたのは焦凍くんと緑谷くん、飯田くん。


「こんにちは、ヒーロー名!」


「……こ、こんにちは。」


ああああ、相変わらずのコミュ障が…………ほんと、こんなので事務所立ち上げるとか無理だよ……無理ですボス…………。


「……何かあったのか?」


「え!?」


「な、なんでそう思ったの?轟くん。」


「なんか元気なさそうに見えた。」


「顔も何も見えないのにどうやってだ……!?凄いな轟くん。」


「で、どうなんだ。」


「う……あ………………ちょっと、落ち込んでて。」


いや、正確には悩んでいるのか。こんな自分が事務所を出て1人でやって行けるか不安で。


「落ち込む……?あ、もしかして昼にやってたニュースの事ですか!?ヒーロー名ワンパンにてヴィラン意識不明の重体!!って!!」


「ヴッ。」


「流石ですねヒーロー名!!1発で意識不明まで持ってくなんて!!」


「とは言え回復を待たねばならなくなるので、基本的には意識不明と言うのは良くないのでは?」


「ヴッ!!!」


飯田くんのド正論パンチが染みる…………染みすぎるよ私にゃ…………。


「でもまぁそれはヒーロー名だとよくある話だし、」


「ヴッ!!!!」


「確かにな、常習犯なんて呼ばれてたな。」


「ヴッ!!!!!」


少年たちの猛攻に耐えられず、地面に膝を着いて蹲る。


だ、大丈夫か!?と焦凍くんが心配する声が聞こえるけど、全然大丈夫じゃない。ほんとに大丈夫じゃない。


ごめんなさい、エンデヴァー。あなたの元で働いてあなたの信頼を沢山得たのに、私自身は全然成長出来てない。今も変わらずコミュ障フルボッコマンのままなんだ。


「ヒーロー名……?」


俯いていた顔を上げると、おっ。なんて言って驚く焦凍くんの顔が至近距離にあって驚いてしまう。


………………彼の方が、よっぽど。


そう考えるとついに泣きそうになってきて、私は勢い良く立ち上がった。


「…………私は、これで。」


「え、ちょ、大丈夫ですか!?」


「大丈夫。…………ごめんなさい、心配、……かけて。」


「いや…………本当に、大丈夫なのか?」


焦凍くんの言葉に頷く、大丈夫、大丈夫。1つずつ乗り越えていこう、私のことを憧れだと言ってくれたこの子のためにも。


「…………そう言えば、……皆はなんで、外に。」


基本的には校内で生活するのでは。なんて思って聞けば、文化祭の準備の買い出しに出ていたとの事。


文化祭…………もうそんな時期か。思考を巡らせ、驚いた。


「……気をつけてね、帰り道。」


「はい!ありがとうございます!」


頷いた3人を見送り、私は重たい足を無理矢理にでも動かして事務所へと戻った。

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