君はあまりに綺麗で

「…………は、はい。」


そう言って扉が開かれる、すると現れたヒーロー名。


声が、出なかった。あれだけ嫌がるから、見せたくない。と言ったからどんな素顔が来ても真摯に受け止めよう。そう思ったのに。


「…………ごめん、見苦しいものを。」


そう言って俯いてしまったヒーロー名に首を横に振る。


「ち、違ぇ!!…………そ、そんな……美人だと、思わなく、て。」


顔が熱い、だってそんなのずるいだろ。あれだけ下げといてこんな綺麗な顔出してくるなんて。


そう言うと、みるみるうちに赤くなるヒーロー名。そ、そうか、仮面してないから顔色がわかるのか。


「う………………あ…………。」


恥ずかしそうに視線をさまよわせるヒーロー名。あぁ、駄目だ。可愛い。心臓が痛ぇ。寡黙で強くて優しいヒーローの素顔がこんなに美人で。そんなの太刀打ちできる訳ねぇだろ。


「……っ!!」


ついに耐えられなくなったのか、両手で顔を隠してしまったヒーロー名。そんな仕草にでさえ、俺の心臓はうるさくなる。


「……ヒーロー名?飯いこう。」


「……や、やっぱ無理だよ焦凍くん…………。」


いつもよりずっと澄んで聞こえる声。綺麗な高い声。そうか、ヒーロー名の言ってた意味もわかる気がする。確かに彼女が素のままで現れても、頼りに出来ないかもしれない。


それほどに、加護欲を掻き立てられると言うか。守られるより、守りたくなるような容姿や声をしている。だからってあの不気味な姿、あそこまでやらなくても。


「大丈夫、俺がいます。」


「…………………………。」


暫く待てば、静かに真っ赤になった顔を見せてくれたヒーロー名。心臓が止まるかと思った、それほどの破壊力。


「行こう。」


「…………うん。……あ、あの、焦凍くん。」


「ん?」


「そ、その…………ヒーロー名って呼ぶと皆にもバレちゃうから、その、…………苗字って呼んでもらえないかな。」


ほ、本名…………………………。


思わず固まってしまう、まさかこんな形で教えて貰えるとは。


「だ、だめで」


「だ、駄目じゃない。……苗字、さん。」


「…………はい。」


苗字を呼べば、それで良い。と言わんばかりに笑ったヒーロー名。………………笑った。


わ、笑えるのかこの人…………あぁまた熱が集まる。顔が熱くなる、冗談じゃなく火が出ねぇか心配だ。


その後一緒に昼飯を食べたが、初めてだ。あんなに蕎麦の味がわからなかったのは。





い、イケメンと食事をしてしまった………………。


しかも素顔を晒して…………!!!


美人、だなんて。そんなお世辞まで言える焦凍くんは凄い。将来女の子には困らないだろうな。


あんな自然にお世辞を並べられるんだ、騙されちゃって舞い上がっちゃう子だっているよね。…………私みたいにね!!!


ゴン。と客間の机に頭を打つ。冷静になれ、ヒーロー名よ。お前今何歳だよ。相手は何歳よ。…………まだ15だぞ……っ!!?


15。衝撃的な数字過ぎる。なんちゅう若さだよ、それであんなイケメンで個性の使い方も上手いし、体力もあるし、それで優しくてお母さんに手紙を送るのを忘れない良い子だし。やばいな、轟焦凍くんは。


そんなやばい子に本気になったらいかん、本当にいかんよ。私。いくら婚期がどんどん遅くなっても彼にだけは手を出してはいけないよ。なんたってうちのボスの息子だぞ?結婚したらボスがパパだぞ!?笑えねぇよ!!!


ゴン。またも頭を打って正気に戻る。……良い加減準備しないと、イレイザーに怒られてしまう。


私は慣れた仮面とマントを羽織って、グラウンドへと向かった。

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