焦凍くんにあんな事を言われたなんて事は伏せて、冷さんに文化祭の様子を伝えた。
すると酷く嬉しそうに、楽しそうで良かった、ありがとう。そう笑ってくれたので、私も恥を忍んで行ったかいがあった。そう思ってから数ヶ月。
いや、半年以上が経過したか?
「………………やっと…………。」
力無く事務所の扉を開く、するとサイドキックの皆がか、帰ってきた!!おかえり!!と愛のハグと共に出迎えてくれる。
「ヒーロー名!」
「え、えんでばー……。」
「ご苦労だったな。…………本当に。」
彼の心配そうな表情を最後に、私の意識はぷつりと切れた。
◇
そんなこんなで病院生活が始まった。……こんな事になる予定では無かったのにな。
焦凍くんの言葉に翻弄されて、けれどそれとこれとは別だから。轟家をこれからも支えていきたい。そう思っていたのに、
「長期の任務に行ってきてくれ。」
「長期?」
どうやら地方の方でヒーローが不足しているらしく、しかしながらヴィランは活性化し続けて、どうにも手が回っていない状況らしかった。
手練のヒーロー達は手数にやられて、既に何人も病院送り。なので他地方からそれなりに実績のあるヒーローやサイドキック達が派遣される事となった。
「俺はこちらを離れる訳にはいかない。……こちらもヴィランでの事件が連日多発しているからな。」
「……それは…………はい。でも、」
なんで私なんだ。もっと優秀なサイドキックは、
「俺の中ではお前以上のサイドキックはいない。…………本当は向こうに貸してやる気も無いが、仕方あるまい。」
「うっ…………。」
なんだ、それは。親子揃って殺し文句を放ってきて。ほんと、私は直ぐに掌で転がされてしまいそうだ。
「どれほどの期間になるかはわからない、向こうの状況次第だ。それでも行ってきて欲しい。……俺の代わりに、民間人を救ってきてくれ。」
「…………エンデヴァーの代わりが務まるとは到底思ってませんが………………わかりました。」
こうして私の長期任務が決まった。
一応顔を合わせていた冬美ちゃんや夏雄くん、そして冷さんには伝えて、焦凍くんは寮に入っているしわざわざ言うことでも無いかな。その内誰かしらから聞くだろう。そう思い、直接は言わずに任務に出た。
『凄い!凄いです!!派遣されたサイドキック、ヒーロー名!!全てのヴィランをあっという間に捕獲!!流石の一撃です!!』
エンデヴァーからの期待、焦凍くんからの告白。それらから落ち着かなかった私は色々とやり過ぎたようで。
「あっという間に捕獲…………それは、他の人……。」
なんて、地元に戻ってきても流れている任務先のニュースに苦笑いをした。
散々暴れ倒し、中には原型を留めていないようなヴィランも出しながら、色んな骨を折りながら、色んな言い訳を無視しながら拳を奮った。
その結果、私は清々しい気持ちとなったが後始末に追われた他のヒーロー達には頭が上がらなかった。……ほんと、すいません。
それをまぁ、テレビ的には倒したのが私だから。という事でこんな風に流してくれちゃってるが、真実はただ私は暴れただけなのだ、本当ヒーロー失格である。ただのヤンキーである。
そしてそれらを経て、それでも凄い活躍だった。と言ってくれたヒーローの皆さんと別れ、地元へと戻ろうとした際、
私がボコったヴィランの残党が逆恨みで襲ってきて、反省を生かさねば、反省を、反省を。ともたもたしてる間にヴィランに包囲されて、ボコり返された。
結局その後もう知らん。とヤケになって全員見るに堪えない姿にしてしまったが、結果として私もボコボコにされたので許して欲しい。
なので事務所まで戻ってくるまで苦労した、全身痛いし。そんな私の治療は一日では済まず、今日も病院のベッドでごろ寝だ。
向こうに行ってから毎日ヴィラン殴ってたからな、こんなに休むのは本当に久しぶり。充分に休ませて貰おう。そう思っていた目を閉じようとした時、ガラガラと病室の扉が開かれる音がする。
え、だ、だれ、や、やばい!!
勿論素顔を晒して寝ていた為、咄嗟に布団を被って様子を伺う。苗字、と書かれているのでわかる人にしか来れないのだけども。
布団を被りながら扉を見ると、入ってきたのは焦凍くん。
なんだ、焦凍くんか。そう思って布団から這い出ると、
………………え?怒ってる?
「…………しょ、焦凍くん……?……えと、……久しぶり、だね。」
「………………久しぶり、じゃねぇよあんた。」
お、おお、す、凄く怒ってる。眉間のシワが、凄いことに、イケメンが、美形が怒ってる。凄く、怖い……!!
「え、ど、どうし」
「どうしたも何もねぇよ。…………あんた、俺があんたの事どう思ってんのかわかってんのに、…………なんで、俺にだけ何も言わずに行ったんだよ!!」
声を荒らげて激昂する焦凍くん。
「あ………………ご、ごめ、」
「数ヶ月前に最近会えねぇなって思って聞いたら、何ヶ月も前から長期任務出てるって聞いて。頭ん中ぐちゃぐちゃになった。なんで俺だけって、なんで…………そしたらニュースであんたが活躍してるって見て、……」
「…………うん。」
彼の綺麗な瞳から静かに涙が零れた。
「まだ、……まだ元気そうなら、良い。そう思ったのに、そんな傷だらけになって帰ってきて、…………その事も親父から聞いて、心臓止まりそうになっただろ……!!」
「……ごめん。」
「わかってんだろ、…………俺にとってどれだけあんたが大事かって。」
縋るように抱き着いてくる焦凍くんを抱き締め返し、可哀想になるほど泣いてしまっていて、罪悪感が沸いた。
私は、彼にとって酷い事をしてしまった。彼は私の事を大事に思ってくれてるのに、私は。
「…………ごめんね、…………心配、かけて。」
「心配なんてもんじゃねぇよ……!!」
「ほんと、ごめん。」
「もう勝手にどっか行くな、頼むから。」
「……………………うん。」
それは約束出来ないかもしれない。事務所を出て自立。エンデヴァーの期待。焦凍くんの願い。……きっと全てに手は届かない。
それでも今は、縋り泣く彼にトドメを刺すことなんて到底私には出来なかった。