大き過ぎて手に入らない

焦凍くんにあんな事を言われたなんて事は伏せて、冷さんに文化祭の様子を伝えた。


すると酷く嬉しそうに、楽しそうで良かった、ありがとう。そう笑ってくれたので、私も恥を忍んで行ったかいがあった。そう思ってから数ヶ月。


いや、半年以上が経過したか?


「………………やっと…………。」


力無く事務所の扉を開く、するとサイドキックの皆がか、帰ってきた!!おかえり!!と愛のハグと共に出迎えてくれる。


「ヒーロー名!」


「え、えんでばー……。」


「ご苦労だったな。…………本当に。」


彼の心配そうな表情を最後に、私の意識はぷつりと切れた。





そんなこんなで病院生活が始まった。……こんな事になる予定では無かったのにな。


焦凍くんの言葉に翻弄されて、けれどそれとこれとは別だから。轟家をこれからも支えていきたい。そう思っていたのに、


「長期の任務に行ってきてくれ。」


「長期?」


どうやら地方の方でヒーローが不足しているらしく、しかしながらヴィランは活性化し続けて、どうにも手が回っていない状況らしかった。


手練のヒーロー達は手数にやられて、既に何人も病院送り。なので他地方からそれなりに実績のあるヒーローやサイドキック達が派遣される事となった。


「俺はこちらを離れる訳にはいかない。……こちらもヴィランでの事件が連日多発しているからな。」


「……それは…………はい。でも、」


なんで私なんだ。もっと優秀なサイドキックは、


「俺の中ではお前以上のサイドキックはいない。…………本当は向こうに貸してやる気も無いが、仕方あるまい。」


「うっ…………。」


なんだ、それは。親子揃って殺し文句を放ってきて。ほんと、私は直ぐに掌で転がされてしまいそうだ。


「どれほどの期間になるかはわからない、向こうの状況次第だ。それでも行ってきて欲しい。……俺の代わりに、民間人を救ってきてくれ。」


「…………エンデヴァーの代わりが務まるとは到底思ってませんが………………わかりました。」


こうして私の長期任務が決まった。


一応顔を合わせていた冬美ちゃんや夏雄くん、そして冷さんには伝えて、焦凍くんは寮に入っているしわざわざ言うことでも無いかな。その内誰かしらから聞くだろう。そう思い、直接は言わずに任務に出た。


『凄い!凄いです!!派遣されたサイドキック、ヒーロー名!!全てのヴィランをあっという間に捕獲!!流石の一撃です!!』


エンデヴァーからの期待、焦凍くんからの告白。それらから落ち着かなかった私は色々とやり過ぎたようで。


「あっという間に捕獲…………それは、他の人……。」


なんて、地元に戻ってきても流れている任務先のニュースに苦笑いをした。


散々暴れ倒し、中には原型を留めていないようなヴィランも出しながら、色んな骨を折りながら、色んな言い訳を無視しながら拳を奮った。


その結果、私は清々しい気持ちとなったが後始末に追われた他のヒーロー達には頭が上がらなかった。……ほんと、すいません。


それをまぁ、テレビ的には倒したのが私だから。という事でこんな風に流してくれちゃってるが、真実はただ私は暴れただけなのだ、本当ヒーロー失格である。ただのヤンキーである。


そしてそれらを経て、それでも凄い活躍だった。と言ってくれたヒーローの皆さんと別れ、地元へと戻ろうとした際、


私がボコったヴィランの残党が逆恨みで襲ってきて、反省を生かさねば、反省を、反省を。ともたもたしてる間にヴィランに包囲されて、ボコり返された。


結局その後もう知らん。とヤケになって全員見るに堪えない姿にしてしまったが、結果として私もボコボコにされたので許して欲しい。


なので事務所まで戻ってくるまで苦労した、全身痛いし。そんな私の治療は一日では済まず、今日も病院のベッドでごろ寝だ。


向こうに行ってから毎日ヴィラン殴ってたからな、こんなに休むのは本当に久しぶり。充分に休ませて貰おう。そう思っていた目を閉じようとした時、ガラガラと病室の扉が開かれる音がする。


え、だ、だれ、や、やばい!!


勿論素顔を晒して寝ていた為、咄嗟に布団を被って様子を伺う。苗字、と書かれているのでわかる人にしか来れないのだけども。


布団を被りながら扉を見ると、入ってきたのは焦凍くん。


なんだ、焦凍くんか。そう思って布団から這い出ると、


………………え?怒ってる?


「…………しょ、焦凍くん……?……えと、……久しぶり、だね。」


「………………久しぶり、じゃねぇよあんた。」


お、おお、す、凄く怒ってる。眉間のシワが、凄いことに、イケメンが、美形が怒ってる。凄く、怖い……!!


「え、ど、どうし」


「どうしたも何もねぇよ。…………あんた、俺があんたの事どう思ってんのかわかってんのに、…………なんで、俺にだけ何も言わずに行ったんだよ!!」


声を荒らげて激昂する焦凍くん。


「あ………………ご、ごめ、」


「数ヶ月前に最近会えねぇなって思って聞いたら、何ヶ月も前から長期任務出てるって聞いて。頭ん中ぐちゃぐちゃになった。なんで俺だけって、なんで…………そしたらニュースであんたが活躍してるって見て、……」


「…………うん。」


彼の綺麗な瞳から静かに涙が零れた。


「まだ、……まだ元気そうなら、良い。そう思ったのに、そんな傷だらけになって帰ってきて、…………その事も親父から聞いて、心臓止まりそうになっただろ……!!」


「……ごめん。」


「わかってんだろ、…………俺にとってどれだけあんたが大事かって。」


縋るように抱き着いてくる焦凍くんを抱き締め返し、可哀想になるほど泣いてしまっていて、罪悪感が沸いた。


私は、彼にとって酷い事をしてしまった。彼は私の事を大事に思ってくれてるのに、私は。


「…………ごめんね、…………心配、かけて。」


「心配なんてもんじゃねぇよ……!!」


「ほんと、ごめん。」


「もう勝手にどっか行くな、頼むから。」


「……………………うん。」


それは約束出来ないかもしれない。事務所を出て自立。エンデヴァーの期待。焦凍くんの願い。……きっと全てに手は届かない。


それでも今は、縋り泣く彼にトドメを刺すことなんて到底私には出来なかった。

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