戦意喪失のプロ

「………………え?私が?」


「あぁ。」


「爆豪くんって、………………この間の体育祭でも、……大暴れしてた子…………ですよね。」


「あぁ。」


「私、教師でも何でも…………。」


「エンデヴァーさんに聞いたら、お前の成長にもなるだろうから是非。との事だ。」


聞いてない、そんなの聞いてないですボス。


イレイザーに用事があってやって来た雄英。そこで言われたのは生徒のレベルアップを図るために、個別訓練として1人で良いから生徒の面倒を見て欲しいとの事。


「でも…………なら、せめて焦凍くんとか……。」


「轟は別の教師が担当する、何も考えずに担当を決めてる訳じゃない。爆豪の戦闘スタイルはお前と似ているからお前に頼みたい。」


「爆豪くんが……?」


そこまで似ている気はしないけれど。とは言え焦凍くんとも違うのは否定出来ない。私と戦闘スタイルが似ていると言うならば、緑谷くん辺りでは無いだろうか。


「お前の攻め続けるスタイル、一撃で相手を戦意喪失させるスタイル。それこそお前らに共通する部分だ。」


「……………………。」


その言い方だと私がかなりの野蛮人に聞こえるのですが。先輩。……否定出来ないのが悔しい。


「…………わかりました。」


どっちみちエンデヴァーからの許可が降りているのであれば、私に拒否権は無い。1つ頷き先輩の頼みを飲み込んだ。





「という事で、お前らにはそれぞれ今言ったプロヒーローに鍛えてもらう。」


「あれ?でも爆豪は?」


「爆豪だけ凶暴すぎて、先生付けられなかったとか?」


「あぁ!?」


「違う。爆豪にもちゃんと担当はいる、だが…………遅刻しててな。」


やばいやばいやばいやばい!!!!!


必死に足へ圧力を溜めながら移動する、前の仕事が押しすぎた。ほんと、相手をボコり過ぎる。その反省を生かそうとすると時間がかかって仕方無い。こんな事になるならさっさと骨折って黙らせれば良かった。


なんて今更思っても遅くて。脳裏にイレイザーの、先輩の怒った顔が過ぎり、ぶるりと身震いした。


「お前につくプロヒーローは、まぁ当たり前だが超攻撃型プロヒーロー。勿論戦闘力も高い。」


急げ急げ、せめて一言でもイレイザーの小言が減るように。


「そして相手の戦意を喪失させるプロだ。お前の戦闘力は既に高いが、」


事前に貰っていた通行許可証を身につけ、正門を潜る。


地に着いた足に圧力を溜めてもう一度跳ね上がる。


グラウンドはどこって言ってたっけ、忙しない脳内で思い出しながら、空を駆ける。


「その上であいつのテクニックや体の使い方を学んで、」


見つけた……!!!私は一際強く空を蹴り、


「更に上を目指せ。」


ダァン!!


「……………………………………す、すいません。」


「……命拾いしたな、これで授業始まってたらお前を説教してた所だ。」


「え!?ヒーロー名!!?」


「まじ!?爆豪の先生ってヒーロー名なの!?」


「静かにしろ、……改めて紹介する。プロヒーローヒーロー名だ。こいつの活躍は先のニュースで知ってるな?」


「見た!!凄かったぜヒーロー名!!瞬時に色んなところへ移動してワンパン!!」


「一瞬でヴィラン黙らせてくの、すっげぇカッコよかった!!」


「あ、……ありがとう……!」


なんだか恥ずかしいな、先輩の小言を免れた安心の次に皆からの賞賛で、別の意味で心臓がばくばくする。


それに、視界に入った焦凍くん。


……散々迷惑と心配をかけてしまった。せめて何か返したかったのに、私は彼の先生にはなれないようで。


力になれず申し訳なく思う。いつかちゃんと、彼の誠意と愛に応えられるような、心配されないようなヒーローになってみせたい。


「ヒーロー名の攻撃力、判断力、そして的確に狙う一撃。それらは爆豪が学ぶべきポイントだ。特別にお前だけを担当するために来てくれたんだ。あんま迷惑かけんじゃねぇぞ。」


「わーってるよ!!…………ヒーロー名に鍛えられるなんてな…………ほんと、ありがてぇこった。」


爆豪くんの不敵な笑みに、ぞぞぞぞ……!!と鳥肌が立つ。なんと言う眼光、君本当に高校生!?お姉さんは怖くて震え上がりそうなんだけど、


「グラウンドは自由に使ってもらって良い、この前も言ったが期間は1週間。出来るだけ戦闘力の底上げを狙ってくれ、頼んだぞ。」


「……はい。」


………………さて、仕事だ。これから1週間彼とマンツーマン。


……………………………………大丈夫、かなぁ。


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