目指したくなるようなヒーローに

なんと言う我儘。いつになるかもわからない自立の話。


それでも、私の隣へ行く。そう言ってくれた彼が、私も欲しくなってしまって。


年齢とか、彼の未来とか。そんな事考えてあげられる余裕も無く、私は必死に彼へと手を伸ばした。


「…………なる。」


「……え?」


「あなたのサイドキック、必ずなる。…………すげぇ、嬉しい。」


そう言ってくれてぶわああ、と嬉しさが込み上げると同時に彼にぎゅっと抱き締められた。


「それ誘ったの、俺が何人目?」


「さ、最初。……いつになるかも、わからないし。」


「…………そうか、絶対なる。必ず、必ずヒーロー名が背中を預けられるようなサイドキックになる。」


なんと頼もしい事か。嬉しそうに弾ませながらそう言ってくれる焦凍くんに、私の心も弾んだ。


「……隣にいるのは、仕事でだけか?」


「…………仕事?」


「プライベートも、欲しいんだけどな。」


プライベート。


意味を理解し、顔に熱が集まる。仮面は取られてしまったので、彼に顔色は筒抜けだ。


「……その様子なら、貰えそうだな。」


「ぅ、あ…………え、えっと…………。」


ストレートな言葉に狼狽えていると、軽く身を離され、綺麗な瞳とかち合う。


「約束、して欲しい。」


「な、…………何を?」


「俺があなたのサイドキックになったら、あなたの事全部俺にくれ。」


ズガン、そんな音で心臓が撃ち抜かれた気がした。


「ぜ、全部…………。」


「駄目か?」


全部、という事は。か、彼女にって…………事、だよ、な。


そ、そんな…………こんなイケメンの彼女、自分に務まるだろうか。私なんか脳筋ゴリラだから可愛げなんて無いし、ろくに会話も出来ないけど、


それでも、……そんな私でも焦凍くんはこんなにも優しい瞳で見つめてくれる。


その優しさに、甘えて良いの?


私はほんの少し悩んで、それでも自分に嘘はつけなくて、彼に伝えた。


「…………わかった、…………た、…………楽しみに、……して、ます。」


「………………あぁ。」


誰の目にも留まらぬ場所で、私たちは未来を結ぶ約束をした。


そのためにも、私も精進しよう。彼が卒業する時、変わらず焦凍くんの憧れであれるように。彼の辿り着く先に、私がいられるように。





「そこだああああ!!!」


「遅い!!」


拳に纏わせた圧力をかけて爆豪くんに拳をめり込ませる。


手加減を多少しているとはいえ、地味に効いてるはずだ。


「ぐわっあぁっ……。」


「……そろそろ休憩する?」


「……し、ねぇ、よ!!!まだやれる!!」


「……そっか、じゃあやろう。」


我武者羅に前だけ向いていく爆豪くん、私も見習おう。私も目標を見つけたんだ、憧れ続けられるようなヒーローでありたい、と。





「うぉ、だ、だいぶ爆豪動き変わってきたな。」


切島くんに今日も僕は頷く。今日で5日目。あと2日でこの訓練は終了だが、かっちゃんとヒーロー名の訓練は他の組と違って熱量も違くて、皆の目を見張るものがあった。


毎日早朝から始まり、休憩中も反省点と改善点の指摘。そしてまた組み手。それを夕方までこなして、夜になるとまたオフモードになったヒーロー名が寮にやって来て、かっちゃんと反省点のまとめに入る。


正直、プロヒーローがここまでしてくれるなんて中々無い。…………羨ましくも思うが、僕達だって決して楽な訓練では無い。僕達もがんばらな


「おらあああああ!!!」


「っ!!!」


派手な音と、派手な爆煙。思わずそちらを見ると、ひらりと舞ったヒーロー名のマント。


も、もしかして……。


「はぁ……はぁ…………一撃、くらわせたぞ!!」


「…………凄いよ、爆豪くん。」


マントを剥がれたヒーロー名は、その筋肉を晒しながらも嬉しそうに弾んだ声を出した。


「でも、ここがスタートラインだ。…………まだまだ付き合えよ?ヒーロー名!!!」


日々動きが良くなっていくかっちゃんの訓練は、ヒーロー名に何度もぶっ飛ばされてもめげること無く続け、彼女に一日の中で3発攻撃を当てられるようになり、終了した。





「1週間という長い間、ありがとう。助かった。」


「い、いえ…………。」


「爆豪の動きは格段に良くなった。…………流石だな。」


「いや…………爆豪くんが、凄いだけです。……プロになる日が楽しみです。」


心からの本心。彼の未来が楽しみで仕方無い、どうか強く人を守れるヒーローになって欲しい。


「それじゃあ、…………私はこれで。」


「あぁ、また何かあったら頼むよ。」


「………………あ、あまり頼まないで頂けると……。」


「悪いな、効率良く行きたいんだ。お前が適任だと思ったらすぐ連絡する。」


そ、そんな……。と項垂れながら校舎を出る。本当に人使いの荒い先輩だ。それにエンデヴァーもエンデヴァーだ。頼りにしてると言う割に、すぐ私を色んな所へ派遣する。


…………まぁ経験の為だ、と言われてしまえば何も言い返せないのだが。


そんな文句を心の中で呟きながら、すっかり暗くなってしまった空を見上げて、家に帰る為足に圧力を溜めていると、


「ヒーロー名!!」


「…………ば、爆豪くん。」


「…………帰るんか。」


「うん。…………1週間、ありがとう。…………本当に成長した。」


「……んなの、こっちの台詞だ。」


「…………え?」


思わず聞き返してしまう、あの暴言王である爆豪くんが、遠回しとは言えお礼を?


なんて仮面してるのにバレたのか、爆豪くんはなんでもねぇよ!!と怒ってしまった。


「……俺は、すぐにあんたも超えていく。」


「……うん、……そんな気がする。」


「少しは抵抗しろよ!!プライドはねぇのかあんたに!!」


「うっ…………。」


「少なくともあんたに憧れてる奴は五万といるんだ、…………んな事はねぇと思うけど、失望させてやんなよ。」


その中に君だって入ってる癖に。なんて言葉は言ってしまうとまた怒号が響いてしまうのでやめておく。


「……うん。…………憧れ続けられるようなヒーローを…………目指すよ。」


いつかは超えられるとしても、その日までは爆豪くんの見ている先に私がいられるように。


憧れ続けられる、目指したくなるようなヒーローに。


「…………見てるからな、あんたの活躍。」


「……ふふ、…………ありがとう。」


「何笑ってんだ!!さっさと行け!!」


彼に頷き、地を蹴った。


最後まで天邪鬼と言うかなんと言うか。ある意味素直で、笑ってしまう。


私は夜を駆けながら、仮面の下で笑みを浮かべた。

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