「よおおおお!!!今日も元気そうだな!!ヒーロー名!!ニュース見たよ!!あんたやり過ぎてんなぁ!!」
バシィン!!と背中を叩かれて、痛みに悶える。
「どうしたらそんなパワー出んだよ!!あははははは!!」
「バーニン…………。」
「ん??」
「うるさい……。」
「やだねぇ、活気に満ち溢れてる。って言いなさいよ!!」
そう言ってメラメラと燃えるバーニン。うちの事務所でも有名なサイドキックの1人だ。
「それにね、今日はちょっと気合いも入ってんのよ!」
「……?なんで、」
「あれ?知らないの?今日インターンで雄英生が来るの。」
「…………え?」
何それ、聞いてない。
という事は私は今日待機って事………………でもない。普通にパトロール入ってる。
「ヒーロー名。」
「はい。」
「今日、インターン生が来る。焦凍と緑谷だ。焦凍は俺が見るから、緑谷の方を頼めるか。」
「………………え?」
「頼んだぞ。」
「あ、…………ちょ……!!」
今日も元気に理不尽なボス。なんで?なんでもっと早く教えてくれないの?
「やっぱりあんたか!!去年はあんたいなかったから、エンデヴァーが3人とも見てたけど、」
「え、…………そうなの?…………てっきりバーニンが、」
「私は毎日のように煽っただけ!!」
あははははは!!と笑ったバーニン。毎日煽るとか…………正気の沙汰じゃないな……。
◇
「よろしくお願いします!!」
「お願いします。」
「来たね!!2人とも!!今年はバクゴー……ダイナマイトは来てないんだね?」
「はい、今年はベストジーニストの方に!」
「なるほど!去年はあの人も活動してなかったもんなぁ。」
「……あの、今年も俺達はエンデヴァーに?」
「いんや!今年はショートだけ!デクはヒーロー名が見るよ。」
「え!?」
「……えっ。」
「……よろしく、デク。」
いつかのように手を差し出す。すると慌てたように、よ、よろしくお願いします!と言って握り返したデク。
…………初めて会った時より、また傷も増えて皮も厚くなってるな。
「……頑張ってるね。」
「……え、えっと?」
「手の傷、増えてる。…………皮も厚くなってる。…………初めて手を握った時も、…………頑張ってるんだなって感じる手だった。」
「え……あ!?そ、それであの時、」
「あれから更に…………戦う人の手になってる。…………一緒に頑張ろう。」
「…………はい!!」
「…………ありゃ?ショート、不満かい?」
「……何がですか。」
「ふふ、教わるならヒーロー名が良かった?」
「………………いや。エンデヴァーの元へ来たので。…………でも、」
「でも?」
「……ヒーロー名の仕事ぶりも間近で見てみたかった。」
「あははは!!それが顔に出ちゃってるよ。エンデヴァーさんが来る前にはその顔直しときな!!」
「…………はい。」
◇
「基本的に俺とヒーロー名は別方向のパトロールをしている。」
「え?なんでですか?」
「戦力の分散のためだ。サイドキック達も各地域に配置しているが、ヒーロー名は俺とは別の地域になるようにしている。理由は事件解決するのに時間をかけないところと、1人でも十分に戦える戦闘力を持ち合わせているからな。」
「なるほど……。」
「ヒーロー名は後始末をサイドキックに任せて、すぐに色んなところへ飛び回る。…………置いていかれないよう食らいつけよ、デク。」
「はい!!」
買いかぶり過ぎでは。
言い出せなかった言葉にむずむずとむず痒くなる。
きっとスピードに関してデクは充分な実力を持っている、置いて行かれるなんてことはないだろう。
いつも通り、特に気にせず仕事が出来そうだ。
「……じゃあ、行こう。デク。」
「はい!!」
一緒に所長室を出る。その時目に入ったのは、こちらを静かに見つめる焦凍くん。
いつか、私のサイドキックに。
そんな日が現実になるよう、今はしっかり扱かれてね。そんな意味を込めて、私は彼から目線を外した。
◇
「ありがとう!!助かったよ!」
「誰か!!ヒーロー!…………ってもう来たのか!ありがとう!!」
「今日もありがとう、ヒーロー名!」
は、早い………………。
ぜぇ、ぜぇ。と息切れする僕に対して、息ひとつ乱してない。……ように見えるヒーロー名。
僕は目で追ってるだけで精一杯で、気づけば遥か遠くにいるし、到着すると既にお礼を言われてる。
「次。」
そう言うとまた空へとかけ登ったヒーロー名。
無線で敵の位置情報や、通報の状況などは連絡されてくるが、
情報が入ってくるスピードも、ヒーロー名の処置の速さも尋常じゃない。
エンデヴァーも気づくスピードや処置のスピードは速かったが、移動のスピードや一つ一つの仕事の合間の短さなどはヒーロー名の方が勝っているのではないか、とさえ思わされた。
それに、テレビで見た通り。ヒーロー名は一撃でヴィランをのして行く。
「あ、あの!!」
「?」
「メディア来てますけど、放ったらかしで良いんですか!?」
勿論その現場にはメディアも取材しようと駆けつけるが、ヒーロー名はそれを待つことなんてせず、早々に去ってしまう。
メディア嫌いは知っていたが、置いてきぼりって大丈夫なのだろうか。
「大丈夫。もう、常習犯だと思って諦められてるから。」
それは大丈夫と言えるのか……?僕は内心首を傾げながらヒーロー名の後を追った。
◇
「デク!!」
「はい!!」
インターンの半分程度が過ぎ、僕はヒーロー名に協力出来るほどには彼女の動きに慣れてきた。
ヒーロー名の動きから学べることは多く、僕は多くの収穫を得ている。
それとは別に、今まで知らなかった収穫が。
「…………仮面、取らないんですか?」
「…………恥ずかしいから。」
そう言いつつ、仮面を口元だけ開いて昼食をとっているヒーロー名。
そこから見える小さな口元は、拳ひとつでヴィランを撃退している人には思えない。むしろ、なんて考えてしまい顔が熱くなる。
◇
「お世話になりました!」
「…………凄く、助かったよ。」
そう言ってくれるヒーロー名に、嬉しくなる。
「きっと…………デクは、優しいヒーローになる。」
「え?」
「私の事も、沢山……助けてくれた。…………街の人達にも、凄く…………優しかった。」
そんなの、憧れに近づくために。……ヒーロー名のように強く優しいヒーローになりたくて。
「…………立派なヒーローになる日を、待ってる。」
「…………っ必ずなります!!」
そう言うと、ふふっ、と優しく笑ったヒーロー名。
「……事務所。…………どこに入るか決めたら…………教えて。」
「は、はい!!……でも、なんで……?」
「……チームアップ、要請する時に必要だから。」
チームアップ。
その言葉に胸が熱くなる。嬉しい、嬉しすぎる。ヒーロー名から、チームアップって。コミュ障で人と関わるのが苦手なのに、
ヒーロー名を見ると仮面で表情は見えないが、優しい眼差しで見てくれているような気がして。
「っありがとうございました!!」
僕は零れそうな涙を噛み締めながら、強く優しいヒーローへ頭を下げた。