未来は明るい

「よおおおお!!!今日も元気そうだな!!ヒーロー名!!ニュース見たよ!!あんたやり過ぎてんなぁ!!」


バシィン!!と背中を叩かれて、痛みに悶える。


「どうしたらそんなパワー出んだよ!!あははははは!!」


「バーニン…………。」


「ん??」


「うるさい……。」


「やだねぇ、活気に満ち溢れてる。って言いなさいよ!!」


そう言ってメラメラと燃えるバーニン。うちの事務所でも有名なサイドキックの1人だ。


「それにね、今日はちょっと気合いも入ってんのよ!」


「……?なんで、」


「あれ?知らないの?今日インターンで雄英生が来るの。」


「…………え?」


何それ、聞いてない。


という事は私は今日待機って事………………でもない。普通にパトロール入ってる。


「ヒーロー名。」


「はい。」


「今日、インターン生が来る。焦凍と緑谷だ。焦凍は俺が見るから、緑谷の方を頼めるか。」


「………………え?」


「頼んだぞ。」


「あ、…………ちょ……!!」


今日も元気に理不尽なボス。なんで?なんでもっと早く教えてくれないの?


「やっぱりあんたか!!去年はあんたいなかったから、エンデヴァーが3人とも見てたけど、」


「え、…………そうなの?…………てっきりバーニンが、」


「私は毎日のように煽っただけ!!」


あははははは!!と笑ったバーニン。毎日煽るとか…………正気の沙汰じゃないな……。





「よろしくお願いします!!」


「お願いします。」


「来たね!!2人とも!!今年はバクゴー……ダイナマイトは来てないんだね?」


「はい、今年はベストジーニストの方に!」


「なるほど!去年はあの人も活動してなかったもんなぁ。」


「……あの、今年も俺達はエンデヴァーに?」


「いんや!今年はショートだけ!デクはヒーロー名が見るよ。」


「え!?」


「……えっ。」


「……よろしく、デク。」


いつかのように手を差し出す。すると慌てたように、よ、よろしくお願いします!と言って握り返したデク。


…………初めて会った時より、また傷も増えて皮も厚くなってるな。


「……頑張ってるね。」


「……え、えっと?」


「手の傷、増えてる。…………皮も厚くなってる。…………初めて手を握った時も、…………頑張ってるんだなって感じる手だった。」


「え……あ!?そ、それであの時、」


「あれから更に…………戦う人の手になってる。…………一緒に頑張ろう。」


「…………はい!!」


「…………ありゃ?ショート、不満かい?」


「……何がですか。」


「ふふ、教わるならヒーロー名が良かった?」


「………………いや。エンデヴァーの元へ来たので。…………でも、」


「でも?」


「……ヒーロー名の仕事ぶりも間近で見てみたかった。」


「あははは!!それが顔に出ちゃってるよ。エンデヴァーさんが来る前にはその顔直しときな!!」


「…………はい。」





「基本的に俺とヒーロー名は別方向のパトロールをしている。」


「え?なんでですか?」


「戦力の分散のためだ。サイドキック達も各地域に配置しているが、ヒーロー名は俺とは別の地域になるようにしている。理由は事件解決するのに時間をかけないところと、1人でも十分に戦える戦闘力を持ち合わせているからな。」


「なるほど……。」


「ヒーロー名は後始末をサイドキックに任せて、すぐに色んなところへ飛び回る。…………置いていかれないよう食らいつけよ、デク。」


「はい!!」


買いかぶり過ぎでは。


言い出せなかった言葉にむずむずとむず痒くなる。


きっとスピードに関してデクは充分な実力を持っている、置いて行かれるなんてことはないだろう。


いつも通り、特に気にせず仕事が出来そうだ。


「……じゃあ、行こう。デク。」


「はい!!」


一緒に所長室を出る。その時目に入ったのは、こちらを静かに見つめる焦凍くん。


いつか、私のサイドキックに。


そんな日が現実になるよう、今はしっかり扱かれてね。そんな意味を込めて、私は彼から目線を外した。





「ありがとう!!助かったよ!」


「誰か!!ヒーロー!…………ってもう来たのか!ありがとう!!」


「今日もありがとう、ヒーロー名!」


は、早い………………。


ぜぇ、ぜぇ。と息切れする僕に対して、息ひとつ乱してない。……ように見えるヒーロー名。


僕は目で追ってるだけで精一杯で、気づけば遥か遠くにいるし、到着すると既にお礼を言われてる。


「次。」


そう言うとまた空へとかけ登ったヒーロー名。


無線で敵の位置情報や、通報の状況などは連絡されてくるが、


情報が入ってくるスピードも、ヒーロー名の処置の速さも尋常じゃない。


エンデヴァーも気づくスピードや処置のスピードは速かったが、移動のスピードや一つ一つの仕事の合間の短さなどはヒーロー名の方が勝っているのではないか、とさえ思わされた。


それに、テレビで見た通り。ヒーロー名は一撃でヴィランをのして行く。


「あ、あの!!」


「?」


「メディア来てますけど、放ったらかしで良いんですか!?」


勿論その現場にはメディアも取材しようと駆けつけるが、ヒーロー名はそれを待つことなんてせず、早々に去ってしまう。


メディア嫌いは知っていたが、置いてきぼりって大丈夫なのだろうか。


「大丈夫。もう、常習犯だと思って諦められてるから。」


それは大丈夫と言えるのか……?僕は内心首を傾げながらヒーロー名の後を追った。





「デク!!」


「はい!!」


インターンの半分程度が過ぎ、僕はヒーロー名に協力出来るほどには彼女の動きに慣れてきた。


ヒーロー名の動きから学べることは多く、僕は多くの収穫を得ている。


それとは別に、今まで知らなかった収穫が。


「…………仮面、取らないんですか?」


「…………恥ずかしいから。」


そう言いつつ、仮面を口元だけ開いて昼食をとっているヒーロー名。


そこから見える小さな口元は、拳ひとつでヴィランを撃退している人には思えない。むしろ、なんて考えてしまい顔が熱くなる。





「お世話になりました!」


「…………凄く、助かったよ。」


そう言ってくれるヒーロー名に、嬉しくなる。


「きっと…………デクは、優しいヒーローになる。」


「え?」


「私の事も、沢山……助けてくれた。…………街の人達にも、凄く…………優しかった。」


そんなの、憧れに近づくために。……ヒーロー名のように強く優しいヒーローになりたくて。


「…………立派なヒーローになる日を、待ってる。」


「…………っ必ずなります!!」


そう言うと、ふふっ、と優しく笑ったヒーロー名。


「……事務所。…………どこに入るか決めたら…………教えて。」


「は、はい!!……でも、なんで……?」


「……チームアップ、要請する時に必要だから。」


チームアップ。


その言葉に胸が熱くなる。嬉しい、嬉しすぎる。ヒーロー名から、チームアップって。コミュ障で人と関わるのが苦手なのに、


ヒーロー名を見ると仮面で表情は見えないが、優しい眼差しで見てくれているような気がして。


「っありがとうございました!!」


僕は零れそうな涙を噛み締めながら、強く優しいヒーローへ頭を下げた。

top