強く優しい裏側を

『3人そっち行った!!任せたぞ、ヒーロー名!!』


「了解。」


他のサイドキックからの無線に返事をして、既に何人も戦闘不能にした後で温まった体を、ヴィランが来るであろう方向へと向ける。


「…………おい!!こっちだ!!」


「残念、」


「……って!!!おい!!あれ!!」


「ヒーロー名じゃねぇか!!」


「……お、終わった、」


「終わりだよあんたらは。」


拳をぶつける程もない、空を切った拳で放った風圧に彼らは気圧されその場に倒れ込んだ。


「捕獲!!」


そこを周りにいた数名のサイドキック達と共に縛り上げ、警察へと引き渡す。


そこまでの流れを終えて、後始末に追われながら先程叫ばれた言葉を思い出す。


お、終わった、って。いやまぁこちらとしてはあなた達の悪事を裁くのが仕事なので、終わらせないといけないんですけど、


私の姿見ただけで終わった、って。中々傷つくと言うか、遂にここまで来てしまったのか。なんて思ってしまって喜ぶべになのに、素直に喜べない。


姿を見せるだけで怖がらせる、それは実績を伴ったヒーロー達全員に起こりうる事だ、それはわかってる。ある意味光栄だってわかってる。


それでも、複雑な気持ちになってしまうのは、私の心が弱いからか。強さの象徴になり行く自分の女としての将来が心配になったからか。





「大丈夫?」


「…………え?」


「疲れた顔をしているわ。」


冷さんに言われて、首を傾げる。顔なんて見えてない。見せたことだって無いはずだ。


なのに疲れた顔、なんて。


「……ここ最近、あなたの事沢山テレビで見るわ。多くの人を救っているのね、凄い。…………でも、それだけあなたが街を駆け回り、拳を奮っているって事よね。」


「…………仕事、なので。」


助けを求める声の元に駆けつける、それがヒーローだ。力の正しい使い方。


「えぇ、わかってるわ。…………でももう少し休んでも良いと思うの。ヒーロー名はとても優しく強いヒーローだわ、でもそんなあなたがどこかで倒れたりしたら、……きっと多くの人が心配する。」


「………………。」


「それは勿論私も、あの人も。…………子供たちだってあなたの事が大好きよ。だから心配になる。…………もう少し、休んでみたらどうかしら?」


「………………はい。」


冷さんは、やはりお母さんなんだな。そう思わされる包容力。なんだかとても縋りたくなる。


そもそもエンデヴァーの事務所に入ってから、家庭の話を聞いて通い始めたこの病室。


冷さんの話を聞くこと、子供たちとの付き合い方など。ここに来るメリットは沢山あった、だから今も尚ここに通っている。だけど、


私は知らず知らずのうちに、彼女に縋っていたのかもしれない。楽しいだけじゃ無かった、楽にここまで来れたわけじゃない私のヒーローとしての道。


色んな挫折や苦しみの中、冷さんと話す事は私の息抜きになっていたのかもしれない。


「ふふ、…………ねぇ、ヒーロー名?」


「?……はい。」


優しく笑う冷さん、…………この人達を守りたいと思うのは、彼女の彼らの人柄が故だろうな。


「あのね、お願いがあるの。」


「…………?なんですか?」


ほんの少しだけ緊張する、以前はこんな感じで焦凍くんの様子を見るために文化祭へと駆り出された。中々に恥ずかしかったし、…………しょ、焦凍くんに気持ちをぶつけられた思い出すだけで赤面するような一日となったのだ。


今回は何を…………と思っていると、


「……素顔、見せてくれないかしら?」


「……!!?」


な、なんで今更そんな事!?私がここに通い始めてからそんな事言われた事ないのに。


「ふふ、びっくりしてるわね!……実はね、焦凍からの手紙にあなたの話が沢山書いてあるの。その中で焦凍も無意識だったのかしら、ヒーロー名はとても綺麗な人だから……なんて書いてあって気になっちゃった。」


しょしょしょしょ焦凍くん!!!!


つい項垂れてしまう、何も言わずとも他の人に私の容姿の事は言わないでおいてくれているようで、学校に行っても何も言われなかったのに、お母さんには言っちゃったんだね!!


「ねぇ、駄目かしら?」


ふふ、と笑いながら小首を傾げた冷さん。ヴッ…………。


「…………た、対して、面白くもなんとも…………。」


「そんなの期待してないわ、ただ。……ただ、家族でもないのに何も言わずに私へ会いに来てくれる。そんな優しいヒーロー名の素顔が気になるの。」


ヴッッ…………。必死に理性と藻掻くが、私が冷さんのお願いを聞けなかった事は今まで1度も無い。つまり、そういう事だ。この綺麗すぎるお母さんには頭が全然上がらないのだ。


私は早々に諦め、フードを取り、仮面を外した。


「………………綺麗でも、なんでも、ない……ですよ。」


焦凍くんめ、無駄に期待をさせるような言いぶりをしおって。本当に綺麗な冷さんの前に自分の素顔を晒すのはやはり恥ずかしくて、数秒目を合わせたものの、すぐに俯いてしまう。


「…………やだ、」


「…………?」


「凄く綺麗じゃない、ヒーロー名……!!もっとよく見せて?」


そう言われて細く華奢な指先で、顔を上げさせられる。


ヴッ…………ち、近い…………美人………………。


「…………本当、焦凍が綺麗って言いたくなる気持ちもわかるわ。」


「そ、…………んな、ことは…………。」


「本当よ!……もっと自信を持ちなさい。あなたは素敵よ。」


そんな事を言われて、顔に熱が集まる。なんで、こう、轟家の人間はストレートなんだ。私は素早く冷さんから離れて仮面とフードを戻した。


「…………それじゃあ、私は、これで。」


「えぇ、今日もありがとう。…………ちゃんと休んでね。」


「…………はい。」


静かに病室の扉を閉じた。

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