休んでね、か。
ベッドに横になって考える。とりあえずその日の内にエンデヴァーに少し休みが欲しい。と伝えてみたところ、1つ返事で1週間の休暇を貰えた。
まさかこんなに貰えると思ってなくて、そこまでは、と声上げると、冷さんと同じような事を返されてしまい結局そのまま家へと帰された。
…………そんなに疲れてるように見えたのかな。それともメディアに取り上げられすぎたか。
仕事量はそこまで変わってない自覚があるのだが、ここ最近はヴィラン退治後にカメラに追われる事が多かった。
それのせいで疲れたというのなら、納得も行く。…………人前も、メディアも苦手なんだ。
しかし、とごろん。ベッドの上で転がってみる。………………暇だ。
こんな時仕事以外何も無いんだな、と思い知らされヴッ。と精神的ダメージ。家族も恋人も友達もいないんだ、当たり前か。
…………恋人、かぁ。
焦凍くんは、頑張ってるかな。最後に会ったのは数ヶ月前。あの時もまた背が伸びた気がしたから、次会ったらまた大きくなってるかもしれない。
侮れないな、成長期。どんどん背も伸び、筋肉もついて、顔付きだって大人に近づいていく。
…………プロヒーローになったら、人気殺到だろうなぁ。
そんな彼の未来を、私なんかが縛ってても良いのかな。
………………………………あ、駄目だ。この思想は。焦凍くんに怒られる気配がする。
何かにつけて怒らせがちな私は、段々と彼の怒りポイントが分かってきた気がする。
焦凍くん、怒った顔怖いんだよなぁ…………。
とは言え美形なので、思い出すだけで少しだけ口元が緩んでしまう。笑ったり怒ったり。何をしてても美形なんて凄い。
………………会いたいなぁ。
スマホを開いて連絡先を見る。
いつだったか、割と強引に登録させられた焦凍くんの連絡先。
今は何してるかな、授業は終わって寮に戻ってると思うけど…………皆と過ごしてたら邪魔しちゃうな。
やめよう、…………そうスマホを閉じたが、脳内の私の事が好き過ぎる焦凍くんが顔を出し、なんで電話してくれなかったんだよ。なんて拗ね始めた。
…………5コール。5コールしても出なかったら即座に切ろう。
そう考えた私はなんだか緊張して、正座をして通話ボタンを押した。
◇
「…………?」
ポケットに入れているスマホが震える。
共同スペースから離れてスマホを見ると、ヒーロー名。
「……………………はぁ!?」
「!?ど、どうしたの轟く」
「な、なんでもねぇ。部屋戻る。」
「え!?……お、おやすみ!」
「あぁ、おやすみ!」
慌ててエレベーターに駆け込み、部屋へと戻る。自室の扉を閉じて電話をとった。
「も、もしもし!」
『…………………………。』
「…………え、…………ヒーロー名?」
電話に出たのに、返事が無い。……もしかして緊急事態だったとか、それなら浮かれてる場合では無い。
「ヒーロー名?今仕事中か?何か困って俺に電話を、」
『あ………………ち、ちが…………。』
「え?」
やっと聞こえた声に耳を澄ますと、……違うよ。と返事が返ってきて安堵する。
「それじゃあなんで電話?」
『…………休みを、貰って。』
◇
『休み?』
「そ、そう…………働きすぎって冷さんとエンデヴァーに言われて。…………1週間。」
『……確かに、最近毎日のようにテレビで見たな。……怪我とかは無いか?』
「そ、それは、全然大丈夫。」
流れるようにこちらの身を案じてくれて、ぎゅ。と胸が詰まった。
「それで、その…………時間があって。色々考えてたら…………しょ、……焦凍くん、元気かなって……。」
『……え?』
「ほら、その…………数ヶ月に1回とか…………なんなら半年に1回とかしか会わないから…………会いたいな、とか…………。」
言ってから気づく。……気持ち悪過ぎるのでは……??
「ごご、ごめ!!!ちちち、ちがくて、」
『…………クソ、』
クソですか!?クソですよね!!ごめんね、ほんと、キモイね私……。
『……俺だって会いてぇよ。』
…………へ。
『でも忙しいだろうしって、きっとどこかで頑張ってんだろう。そう思って俺も頑張ってる。……でもそんな事言われちまったら、…………会いたくて仕方無くなる。』
「しょ……焦凍くん…………。」
恥ずかし過ぎて、顔から火が出そう。エンデヴァー顔負けなぐらい発火しそうだ。電話越しで本当に良かった、こんな顔絶対見せられない。
『…………会いてぇよ、名前さん。』
……………………ヴッ!!?
「な、なんで名前…………。」
『…………秘密。』
秘密って!!誰だ彼に名前教えたの!!とんでもない事に使われてるよ!!ここぞと言う時に!!
一体誰が、そう思考を巡らせたが、駄目だ。言いそうな人ばっかりだ、先輩とかボスとか。何がダメなんだ?みたいな顔して教えてそう、馬鹿野郎。
『なぁ、会いてぇ。…………会いに行っちゃ駄目か?』
「だだ、駄目!!」
『なんでだよ。』
「なんて言って…………外出許可、……なんて言って貰うつもりなの。」
『…………お見舞い。』
いつの間に私はお見舞いされるような人間にされたんだ??
「う、……嘘は、駄目だよ。」
ギラリ。先輩の眼を思い出して震える。
『じゃあどうしたら…………。』
そう言って悩んでしまった焦凍くん、なんだか申し訳ない。彼は彼で欲求を抑えてくれていたのに、私が中途半端に電話なんかするから。
でもだからってどうにかしてあげようにも、彼が学校を出るのも私が学校に向かうにも理由が必要なんだ。そんな簡単に会える人じゃない、彼は大切なヒーローの卵。大事に大事に育てられている。
「…………我慢、しよう。」
『…………でも、それだと次いつ会えるのか、』
「元々、私達はそういう間柄。…………それに私はエンデヴァーのサイドキック…………彼のいない現場に行きやすい、から………ここ地域から離れることだって、日常茶飯事。」
『それは…………。』
「だから、…………待ってる。」
『…………え?』
「…………一日でも早く、…………焦凍くんが立派なヒーローになって、……私の元に来る日を。」
そんな日が本当に来たら、その時は、今の分まで一緒にいよう。
「…………背中を預けられるサイドキック、募集してます。」
煽りになっちゃうかな、なっちゃうよね。それでも良いんだ、君が私への恋心より強くなりたいと言う気持ちに目が行くのなら。
『…………すぐ、行きます。』
「……ふふ、……楽しみにしてる。」
『はい、……浮気しないでくださいね。』
「うっ!?」
思ってもみなかった言葉に声を荒らげてしまう、するとスマホの向こうで聞こえた笑い声。
「うう、う、浮気って…………。」
『他の学生とかヒーロー、サイドキックに誘わないでくださいね?』
あ、………………そ、そう、いう……。
『……それとも、別の意味を想像したのか?』
あぁ、絶対、ぜっったい焦凍くんは今、私のことを小馬鹿にしたように笑ってる事だろう。見えなくなってわかる、こんな年下に馬鹿にされて情けない、けど、
「…………はい。…………どっちの意味でも、浮気は……しないよ。」
『なっ……。』
きっとそんな顔でも様になるんだろう、悔しかったから彼に安心という名の過度な愛情をぶん投げた。
「そそ、それじゃあ!!…………おやすみ!!」
しかしながら恥ずかしくない訳もなく、私は慌てて通話を切った。
…………17歳相手に何してるんだ、ほんと。