チームアップ

「…………………………遠慮したいです。」


「気持ちはわかるが、任務の内容がお前に適任なのだ。頼んだぞ。」


「いや、あの、」


「頼んだぞ。」


バタン。所長室に取り残されて、項垂れた。


渡された資料に書いてあったのは、チームアップの要請。


それは別に良いんだ、日頃からよくある事だし。ヒーロー同士だって協力するのは当たり前のこと。


だけど…………メンツが…………。


資料が涙に濡れる前に、私は資料を読むのを辞めた。





「わー!!本物!!先輩方、今日はよろしくお願いしますー!!」


「こちらこそ、よろしくお願いします!いやぁ俺も初めて会いました!ヒーロー名!!あれですよね?エンデヴァー事務所の中でも珍しい炎系の個性じゃないサイドキック!!」


「確かに!!いつもテレビで見ててもう拍手送っちゃいますよ!いつもワンパンで終わらせちゃって!そんでもってメディアが駆けつける前にはもういなくなっちゃうんですもん!!」


「仕事が早いっすよねー!俺も速すぎる男とか言われてますけど、ヒーロー名だって翼無いのに色んな現場飛び回ってて、」


ここが…………地獄か…………?


延々と話し続ける2人ことMt.レディとホークス。


この若手2人と共にチームアップをしてこい。なんて言われて、コミュ障の私が首を縦に振るはずも無く抵抗したが、ボスは今日も理不尽だった。


あああああ、なんか色々褒められてんだかなんなんだか分からない言語を沢山話しているが、もうなんか人種が違うよ2人とも。だってあれじゃん、カメラ向けられたらしっかりキメ顔する感じの人種じゃん。


違うんだよなああああ!!!私なんかとは生きてる世界から違うんだよなああ!!やっぱ帰った方が良いなこれ、マジで。下手すりゃ2人に巻き込まれて私までメディア露出することになる。そうなったら私は恥ずか死だ。


「でも今回、ヒーロー名が来てくれて本当に良かったです!私も物理攻撃主体ですけど、狭いとこだと戦えなくて。」


「俺もです。速さと救助は得意ですけど、特に硬い相手とか武闘派ヴィランとかだと太刀打ち出来ないんですよね……助かります!」


ヴッ…………お…………おす…………。


ああああ、帰れないじゃん!!そんな事言われたら!帰れないじゃん!!


泣きそうになりながら、蹲りたくなる足をぷるぷる震わせながら、この陽キャ2人の話を聞く。つら、早くヴィランボコって帰ろう……。





「いました!!ヒーロー名!!北東!!計5名!!」


「了解。」


今回の作戦は、組織化しているヴィラン達の大量捕獲。


殲滅ではなく、捕獲なのでやり過ぎ注意。…………ほんと、注意。


基地に立て籠っているので、それにMt.レディが特攻しホークスが翼を使って捕獲していく。


私は最初に基地をMt.レディが壊してから逃げ出した連中の捕縛。ここからはMt.レディには狭過ぎて出来ないのと、人数が多過ぎるので一人一人に時間を掛けてられない。


なので基本的には一撃で仕留める私が派遣されたらしい。一撃で仕留める、と言うのに無傷とか意識があるとかその辺まで調べて欲しかった。私結構やらかしてるんですよ。


とは言え後輩2人が頑張っているのに、足を引っ張る訳にもいかず、ホークスからの無線を聞きながら言われた方角に飛んでいく。


すると情報通りやって来たヴィラン達。


「げっ…………!!ヒーロー名までいんのかよ!!」


「クッソ…………逃げ切れるかと思ったのに……。」


「諦めんな!!こっちは5人、あっちは1人だ!!全員でボコす」


まず1人拳をめり込ませて、吹っ飛ばす。そこへやって来たホークスの羽根がヴィランを連れ去った。


「…………や、やべぇよ、こいつ…………。」


「一瞬で、吹っ飛んでった…………。」


「こ、殺される……!!」


「殺しはしないよ。…………抵抗したら、わからないけど。」


そう言うと何人か失禁してしまっていて、これじゃあどっちがヴィランかわからないな。





「次はその路地を左!!」


「そこの建物の屋根上!!」


「後ろから来てます!!」


ホークスの言葉を聞き取りながら、迅速に片付けていく。案外一人一人は大したこと無く、個性を使われる前に仕留められているので、中々早く終えられそうだ。


目の前にいたヴィランの顔面目掛けて蹴りを入れたところで、とりあえずホークスからの指示が止む。


「ホークス?」


「あとは……1人です!!Mt.レディが応戦中のデカブツ!!」


「デカブツ……?ならMt.レディに任せられそうかな。」


「いや、相当硬い。…………苦戦してます、駆けつけてください!!」


「了解。」


Mt.レディも相当の実力者、そんな彼女が苦戦するなんて。


少し焦りを覚えながら駆けつけると、Mt.レディよりは小さいが、普通の人間の域は完全に超えているデカブツがいた。


「ヒーロー名!!」


見たところ、個性はこの異形化だろうか。Mt.レディが取っ組み合いで勝ててない。それ程のパワー。


それなら加勢するべきだろう、私は圧力を溜めて飛び上がり、


「Mt.レディ!!離れて!!」


「は、はい!!」


Mt.レディに急に離され、バランスを崩したデカブツの脳天目掛けて拳を奮い、


…………いや、流石に意識不明とかならないよね?こんだけ硬そうだし。大丈夫大丈夫、たぶん一撃でも立ち上がってくるさ……。


ほんの少しひやりと思ったが、既に遅く。私の拳はデカブツの脳天に衝撃波と共にぶち込まれ、


ぐらりと揺れたデカブツはそのまま倒れて個性も解けた。


…………え?


地に降り立ち、ヴィランに駆け寄ると完全に白目を剥いてしまっている。


……………………ごめんなさい、警察の皆さん。


またも小言は免れないかもしれない。そんな悲しみを堪えながら、ホークスの羽根によって運ばれ行くヴィランを見送った。





「今回の活躍も素晴らしかったです!Mt.レディ、ホークス!そしてインタビューを受けるのは非常に珍しいヒーロー名!!」


は???


もう既に逃げ出したくて、もう世間の目とか良いから逃げようと思って体を動かすと、力を込められる私の両腕を掴んでいる2本の腕。


「ずばり、今回の勝因はなんだったと考えますか?」


「それはもう!!ヒーロー名の活躍です!」


「俺がヴィランの位置を伝えると、次の瞬間にはもう制圧してるんですよ!!ほんと、速すぎて。」


「速すぎる男から見ても速すぎるとは!!ヒーロー名は圧倒的攻撃力を誇る武闘派ヒーローですが、コミュニケーションが苦手と言うのも有名な話です。その点も含めて、3人のチームワークは如何でした?」


「正直、チームワークを発揮する前に全員ヒーロー名が気絶させて、ホークスが捕獲して……と言う感じでしたので、私は今回全然……。」


「いやいや、Mt.レディが主格を足止めしていたから俺達は他の連中の制圧が出来た。ですよね、ヒーロー名?」


ホークスの言葉に頷く。あのデカブツをもっと早く私が相手していたら、何人か取り逃していたかもしれない。Mt.レディがあいつを足止めしてくれたから、今回は成功した。


「なるほど!!最後に捕獲した主格は、Mt.レディから見ても強敵でしたか?」


「はい、何度か攻撃を繰り出しましたが、あまりの硬さにダメージを与えられず、パワーは私と同等にあったのでかなりのパワー系ヴィランでした。」


「そうなのですか…………しかしながらそれをヒーロー名は今日も一撃で!」


「「そうなんですよ!!」」


何とも嬉しそうに声を揃える2人に肩を揺らす。あの、いい加減離して、


「いやもー!生で見ると本当にかっこよくて!!痺れました!!」


「テレビで見るよりずっと迫力あって、衝撃がかなり離れた俺の所まで届くほどの拳!!かっこよ過ぎましたね!!」


「今日も変わらず、拳ひとつで私達を守ってくれるヒーロー名!!その勇姿は後ほど放送致します!!それでは最後に…………ヒーロー名!!何か一言頂けますか?」


「!?」


は………………は!!?


咄嗟に体を動かすと、またも逃がさん。と言わんばかりに力を込めてくる若手2人。こ、この…………せ、先輩をなんだと思ってぇ…………!!


「ヒーロー名?」


「ヴッ。」


向けられたマイク。カメラ。


緊張で冷や汗が止まらない、何を、何を話せば。


続く沈黙に、罪悪感に、焦りに、そして少しのイラつきから心臓がばくばくとうるさい。


話さないと、何か、なんでも良いから、…………何を。


困りに困り果て、唇を噛み締めると浮かんだのは、私に憧れていると言ったヒーローの卵達。


…………彼らも、見てるかもしれない。


そう考えると、無様な姿は見せたくない。なんて思って私はマイクに向き直り、


「…………いつも、応援…………ありがとうございます。…………これからも、……守ります、」


腕を離してもらい、マントの中から先程脳天にお見舞した右手を、グローブをつけたまま出して見せつける。


「…………この、拳で。」


この小さな拳で、小さな体で守ってみせる。守りたいもの全てを。


自分らしくない発言だなんてわかってる、現に目の前にいるアナウンサーや、ホークス、Mt.レディは目を見開いて、そして賞賛してくれている。


こんな言葉、自分の本心ではない。本当はいつもいっぱいいっぱいで、ヴィラン相手への力加減だってわかってない。ろくにコミュニケーションも取れない。守りますなんて、とんだ虚勢だ。でも、


そんな事を出来るヒーローがいたら、きっと私は憧れる。


憧れ続けられるヒーローに。そんな意識が私を変えた。


この言葉が嘘にならないように、私は努力を続けよう。


私は、有望なヒーローの卵達が辿り着く先にいたいから。

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