「……またこいつか。」
エンデヴァーの言葉に耳を傾ける、また。ということは、
「……殺害予告……ですか?」
「あぁ、何度倒されたら気が済むんだ。」
そう言いつつも、未だに警察へ身柄を引き渡せていないのが歯痒いのか、若干苛立っている様子のエンデヴァー。
「……次は、もう少し多人数で臨んでみる、…………とか。」
エンデヴァーへ何度も殺害予告をしているヴィラン。そしてその日時になると、エンデヴァーの管轄エリアに現れて暴れる。
そうなると、いつもエンデヴァーが応戦し、対して苦戦することも無くあいつは引き下がる。
しかし逃げ道の確保が上手く、何度も応戦しているにも関わらず未だに捕らえられていない。
「む…………それも、そうだな。」
「そろそろ…………インターン来るんじゃないですか?…………焦凍くんとか、緑谷くんとか……爆豪くんとかも。」
彼らは3年生になった、いよいよ即戦力になるレベルに達してきたのだ。頭数に入れたって大した危険も伴わないし、良いだろう。
「インターンか…………確かに連絡が来てたな。…………捕獲部隊として行かせるか。」
「…………はい、彼らなら…………即戦力になり得ます。」
「そうだな。……捕獲部隊、お前が先導しろヒーロー名。」
「……えっ!?」
今回もまたエンデヴァーが出るのなら、私は事務所で留守番かと思ったのに。まさかの先導って、
「サイドキック達も充分な人数つける。だが、仮にもインターンの高校生がいるとなると、何が何でもそいつらは守らねばならない。…………一応だ。」
…………流石だなぁ、エンデヴァー。決して油断はしない。つけ込まれる隙は作らない。どれだけ相手が脅威で無くとも。
改めて彼の元で仕事出来て良かった、と実感した。
◇
「お久しぶりです!ヒーロー名さん!!」
「けっ、相変わらず情けねぇ面してんな。」
「…………久しぶりだな、ヒーロー名。」
三者三様のご挨拶に笑ってしまう、爆豪くんに至っては仮面のどこを見て言ってるのだろう。
「え、えっと………………エンデヴァーから話があったと思うけど、…………今回は、私と一緒に、捕獲部隊として…………来てもらいます。」
これまた暫く見ない間に成長している3人に、少しだけ感慨深さを感じてしまう。
皆体も大きくなって、落ち着きが見える。
その中でも焦凍くんのイケメン度合いは磨きがかかり過ぎていて、たまにテレビでも見るほどだ。そりゃそうだよな、仮免持ってるしヒーロー活動出来てしまう。その上このルックスだ、メディアが黙ってるわけが無い。
私だって、目の前にいられるだけで顔が熱くなる。イケメン凄すぎる……。
「具体的には、……制圧はエンデヴァーがするので、……良いのですが、いつも逃げられてしまうので…………その、対策で皆と私達が。」
「逃げ道を確保されてしまっているのですか?」
「…………わからない、…………相手はいつも1人だけど、もしかしたら仲間がいるのかも………………そこら辺も突き止めるために、人数多めで。」
「けっ!!制圧の方じゃねぇのかよ。」
「…………そういうのは、…………この件がちゃんと終わったら。」
「現場に出してくれるのか?」
「…………たぶん。エンデヴァー次第だけど…………。」
そう言うと少しやる気も出たようで、3人とも作戦に頷いてくれた。
◇
「では、全体の確認をする。相手はエンジンと名乗る男で、度々俺宛の殺害予告をしてくる。」
…………エンデヴァー相手に殺害予告とか、今思えばとんでもない奴だな。
「そして予告内容に記された日時になると管轄内のエリアに現れる。その度に俺は交戦してきた。だが、アイツを戦闘不能にする寸前でいつも逃げられる。」
「あの、どのように逃げていくんですか?」
「…………霧のような、水のような。…………まるで消化器を撒かれた後のような状態にされ、…………周囲が見えなくなり、エンデヴァーも不利な状況にされて…………逃げられる。」
「なるほど……。」
「なので今回は捕獲部隊を別で用意し、炎系個性ではないヒーロー名を先導として、部隊を構成している。…………次こそ必ず奴を捕まえるぞ。」
エンデヴァーの言葉に皆で頷く。傍から見たらエンデヴァーにちょっかいを掛けたがっているだけに見える。こんなお遊びに付き合ってやれるほど、うちのボスは暇じゃない。
さっさと警察に突き出してやろう、そんな気持ちで予告当日を待った。
◇
…………仕事だ。
待機場所に着き、作戦開始を待つ。
「なぁ、ヒーロー名。」
「うん?」
「もし、仲間がいたらどうすんだ。」
「その場合は捕獲、でも主犯を取り押さえるのが1番だから、その時は臨機応変に。」
「わかった。」
焦凍くんは頷き、緑谷くん達と共に茂みに隠れる。
そろそろだな…………これまで通りなら、そろそろ現れる…………。
『……来たな。』
エンデヴァーの言葉に反応し、場所の詳細を求めるがその必要は無くなった。
何故なら彼は、エンジンは既にエンデヴァーの目の前に降りたっていたから。
「こんにちは、エンデヴァー。今日も来てくれて嬉しいよ。」
「今日こそ貴様を刑務所へぶち込む。」
「とか言って毎回出来てないじゃないですか!!」
「……俺が学ばない男だと思っているのなら、それは間違っている。」
「いいえ?別に貴方を侮ってる訳じゃない。じゃなかったら逃げるなんて方法考えないですし。」
「そうか。…………ならば、」
ゴウッ!!と燃え上がる焔。
「逃げるなんて思いつかせぬ程に、お前をここで打ち倒す。」
「……ふふふ、ひひひ!!!だから貴方は良いんだよなぁ、絶対に正面からやって来る。ほんと、かっこいいですよねぇ。」
「ふんっ!!」
エンデヴァーは殴り掛かり、辺り一帯熱風が吹き荒れるが、エンジンはなんて事ない顔をして避けてみせる。
「…………でも、そんなかっこいい貴方が倒れるとこ。見たかなっちゃったんだよなぁああ。」
エンジンが手を振りかざせば、霧が浮かび熱を引かせる。
「テレビにそんな姿映ったらどう思うかな?屈強なヒーローが倒れたら、次は何が起こるんだって、この街は大丈夫かってね、なるんだよね。た、た、楽しいねええ!!!」
「…………イカレてんな」
爆豪くんが気味悪そうに呟く。本当に、……気味が悪い。
でも、なんだか映像で見ていたよりずっと…………動きが速いような気がする。
「ねぇエンデヴァー。そんな姿を皆に見せてあげてよ!!」
「お前の自己満足に付き合う気なんぞ無い!!」
燃える拳が奴に届いても、すぐにその炎は消されてしまう。
「っくく………………やっぱり力は強いなぁ…………でも、」
エンデヴァーの拳を抑えている奴の手から霧が溢れる。
「炎が無ければ、ただの劣化版オールマイトかな?」
おかしい。映像で見たよりずっと個性の威力が上がってる。
これは、思っていたより戦況が悪い。エンデヴァーと相性が悪すぎる。
「…………先輩。」
「どうした?」
同じサイドキックの先輩に声をかける。
「私、前線出ます。」
「は!?」
「ちょ、ヒーロー名!?」
「あぁ!?なら俺も連れてけ!!」
「俺達はここで待機じゃねぇのか。」
「君達は駄目。エンジンは映像よりずっと個性の威力が高い、…………エンデヴァーとの相性が悪すぎる。」
「でもだからってお前…………。」
「お願いします、私の代わりに彼らを見ていてください。」
「そうはさせないよ?」
殺気。咄嗟に溜めた圧力で周りの人間を吹き飛ばす。
「っヒーロー名!?」
エンデヴァーの声に、ごめんなさい。と心の中で謝る。制圧出来るまで隠れている予定だったのに。でも、これは避けざるを得なかった。
私のマントを引っ掛け奪い去った炎の矢。その炎はマントへと燃え移り、すぐに消し炭へと変わっていく。
「あれ?避けられちゃったか。」
「何してんだよ、ファイア。」
「ごめんって。だってヒーロー名があんたらの邪魔しようとしたからさ。」
そう言って私の前に降り立った女。ファイアと呼ばれていた。
女の手には炎で出来た弓と矢。…………そうか、やはり仲間が。
「ねぇヒーロー名。私と遊ぼう?私貴方のこと大好きなの。」
「……………………。」
どうする、どうする。ここで応戦するか、それとも事態が急変してる為高校生だけでも帰すか。
いや、でも、しかし。
エンデヴァーの方を見ると、やはり苦戦しているようで。簡単にここから抜けられそうもない。
「ねぇ、聞いてんの?」
「っ!!!」
「ヒーロー名!!!」
緑谷くんが叫ぶ中、すんでのところで矢を躱す。
「……ふふ、やっぱり貴方凄い。素敵。」
「………………3人とも、緊急事態だ。」
「緊急事態……。」
「待ってたぜ。」
「……あぁ。」
「とりあえず目の前にいる敵を殲滅。援護をお願い。」
「「「了解!!」」」
私は圧力を込めて、奴に近づく。しかしすぐに距離を取られて、矢を向けられる。
「ヒーロー名に接近戦持ち込まれたら終わりだからね!!なんたって圧力使ってくる個性だろ?そんなのかてっこ」
「おいおい、ヒーロー名だけ見てる場合か?」
「っ!?」
私から遠ざかったファイアは、爆豪くんの爆発によって吹っ飛ぶ。
そこに焦凍くんが氷壁で足を固めるが、
「見てなかったぁ……?私、炎の個性、」
やはり。氷を溶かし始める。しかしながら既にファイアの背後には、緑の閃光。
「…………!?待って、緑谷くん!!」
しかしそのゼロ距離で、ファイアは矢を向けており緑谷くんの目前で
私は圧力を使って弾け飛び、緑谷くんを連れ去った。
「す、すいません!!」
「いや…………今のは危なかった。」
「見てるねぇ、ヒーロー名!!流石だよ!!」
氷も溶かしたファイアはまたもこちらへ矢を向けてくる。
…………時間をかけてられない、エンデヴァーの援護へ向かわないと。
「…………攻撃は自分達で捌いてね。」
「あぁ!?舐めてんのか!?」
「はい!!」
「あぁ。」
足に圧力を込めて、弾け飛ぶ。
「ふふ、捌くも何も。私の狙いは貴方よヒーロー名!!」
3人には目もくれず、接近する私に向けた炎の矢。
私は自分の左腕に触れて、拳に纏わせる。
その拳に矢が飛んでくるが、
「…………え?」
じゅわああ、と言う音と共に消えていく炎。
再び私は拳に圧力をかけて、彼女の無事なんて考えている余裕もなく、顔面に拳をめり込ませた。
勢い良く吹っ飛んだ後、動かなくなった彼女を見て呟く。
「…………いつ、私の個性は圧力だと言った?」