「……そうか、次はお前を、と…………。」
「はい、エンジンはそう言ってました。」
「…………悪い。俺が仕留められなかったばっかりに。」
「そんな。……相性が悪過ぎたのと…………あいつ、エンジン。今まで本気で来てませんでしたね。」
「あぁ。前回のみ戦闘力の高さが異常だった。…………馬鹿にしおって。」
病室にて眉間に深すぎる皺を刻むエンデヴァー。
エンデヴァーの傷はかなり深く、暫く意識不明の重体となっていたが3日前やっと目を覚まし、それより数日前に退院していた私は安堵した。
「それで、奴の個性に関する事なのですが、調べてみたところあの針は霧からの派生。要するに水分で出来ている物でした。」
「水…………ならば、」
「はい、私の個性で多少は防げます。エンデヴァーよりは相性悪くないのと、向こうは私の個性を圧力だと勘違いしているので、前回よりは勝算があるかと思います。」
まぁとは言え私の戦闘力がエンデヴァーとは比にならないから、実際死ぬかもしれないけども。なんて思ってガタブル震えてます。なんて事は彼には言えない秘密だった。
「…………すまない、お前に背負わせることになって。」
「……もう、謝らないでくださいエンデヴァー。…………あなたのサイドキックになって何年も経ちました。たまにはあなたの役に立ちたい。」
「お前はもう充分役に立ってくれてる。」
「……それだけじゃ、駄目なんです。」
あなたの元を離れても、しっかりと自分の足だけで歩いていくには。
「…………あなたをも超える、覚悟と勇気がいるんです。」
怖い、死ぬかもしれない。
それでも前を向かなければならないのだ、私たちの後ろには、助けを求める人達がいるのだから。
「……………………成長、したな。」
「……口だけです、精神的にはまだまだ。」
「それでも。お前は口だけでも何も言えない奴だった。」
それはそうだ、今でも人とは上手く話せないままだけど。
……こんなコミュ障、飽きもせず育ててくれたエンデヴァーには感謝しかない。
「………………見ててください、必ず仇は打ちます。」
「……あぁ、任せたぞ。」
◇
なんて言ってみたが、実際に殺害予告がやって来たら普通に怖いしビビった。
殺害予告の日時が明日へと迫っている中、私はなんとも言えない気持ちを抱えて、1人空の下を歩いていた。
…………普通に死ぬかもしれない。なんちゃってボコボコにされるかもしれない。
もちろん私はエンデヴァーより遥かに弱い。だから万全を期して、サイドキック達には出来るだけ来てもらうこととした。何よりエンジンの個性は周りを巻き込みやすい、なので民間人の保護の為に。出来ることなら加勢のために。
人数や信頼のおける彼らを見てれば安心もできるが、それでも私は死への可能性を拭いきれずにいた。
それは本能だったのか、なんだったのか。
気づけば私は、雄英高校の前にいて。あれ?なんでここに、そう思った時に気づいてしまった。
最期に、会いに来たんだ。
誰になんて言うのは野暮だ。そんな彼に。
「…………ははっ。」
死ぬ気満々じゃないか私。笑ってしまう、全然生き残ろうとしてない。それは嘘。
生きたいし生きるために、戦う。
でも、脳裏に過ぎるのは、屈服したエンデヴァー。
何より高い壁。師であり憧れ。そんな彼の血を流す姿。
たったそれだけで、私は酷く怯えるようで。こうして本能的に、焦凍くんへと会いに来た。
「………………情けない。」
負けるわけが無い。必ず刑務所にぶち込んでやる。それぐらい言えたらどれだけかっこいいか。
でも言えないのが、怯えて怖くて、泣き出しそうなのが現実で。
こんな自分を見せたら、きっと周りの人は心配するだろう。だけど、取り繕う余裕も無ければ、何も言わずに戦いへ臨む事すら出来ない。
だって、後悔したくないから。自分に何かあった時、焦凍くんが前に進めなくなるのは嫌だから。
私は学校のインターフォンを押して、私のことを雑な扱いしかしない先輩を待った。