遺言

「…………ニュース、見たぞ。」


「…………え?」


「エンデヴァーさんの。…………それと、次はお前に殺害予告が来たってのも。」


「…………え!?」


なんでそんな事までニュースに!?報道陣は入れてないはずだ。


「まぁ、噂は勝手に広まってくもんだ。それが真実であれ嘘であれ。」


「……そう、……ですか…………。」


「んで、本当なのか?」


「……はい。」


「…………遂に殺害予告までされるようになったか。」


その言葉の裏側には、遂にの裏側には何が来るのか非常に気になるところだけど黙っておく。


「……エンデヴァーをやられて。…………頭に血が上って、相手を刺激しました。」


「お前、意外と短気だもんな。」


「ヴッ……。」


短気で脳筋。ヤバい奴じゃないか。


「……んで?こんな時間に何しに来たんだよ。」


「えっと…………焦凍くんと、話したくて…………。」


「なんだ、遺言でも残していく気か?」


「……………………。」


「…………はぁ。んなもん言われた方の気持ちも考えろ。あいつはまだ17だぞ。」


「…………わかって、ます。」


それでも、言わずにはいられなかった。


何を言いたいとか、何かを伝えなくちゃ。とかじゃなくて、今、生きてる間に焦凍くんと話さないと。と本能が叫ぶ。


きっと、次が来ないって覚悟してしまっているから。


「……必ず生きて帰ってこいよ。」


「………………。」


「お前が死んだら、エンデヴァーさんどうなる。お前に憧れた生徒達は。……お前を慕う、轟は。」


そんなの、考えても考えても溢れてくる。それでも、それでも私が勝つなんて可能性は、私の中では高くなくて。


私よりずっとずっと先にいるエンデヴァーに膝をつかせて、なんなら死の間際まで追いやった。あと少し、針が多く刺さっていたら。あと少し失血が多かったら。


そんな相手に、私が必ず勝ってきます。なんて言えないんだ、皆に安心を憧れを届け続けるなんて、出来っこないと思ってしまう。


「…………死にかけでも良い、命さえあれば。それで良い。」


「………………はい。」


約束出来ないかもしれない。それでも、イレイザーの言葉には頷いた。





情報が入り次第、俺も向かう。今回のヴィランはエンデヴァーがやられたって事もあって、多くのプローヒーローが来るはずだ。…………狙いはお前だろうが、戦うのはお前だけじゃない。忘れんな。


最後に言われた言葉に、少しだけ気分が上を向く。


大丈夫、大丈夫。味方は沢山いるんだ。なんなら民間人を守ってくれるから、私は好き放題暴れて良いんだ。


いつもなら反省する所を、暴れて良いんだ。そう考えても、結局脳裏から離れないのは血を流すエンデヴァーで。


どれだけ私は彼に憧れているんだ、と中々気持ち悪くて引いてしまう。


それにしても、と歩みを早める。


イレイザーと話していたせいで、そもそも遅くに学校へ来てしまったのに更に遅くなってしまって。


これもしかしたら焦凍くんもう寝てるんじゃ……なんて思って寮に来ると既に消えている電気。


遅かったぁっ…………!!!口をあんぐりと開けて佇む。


ど、どうしよ…………話したかったのに、その為に来たのに。


ぐるぐるとその場を回りながら考える。…………駄目だ、物音を立てて皆を起こすぐらいなら帰ろう。


そう踵を返そうと足を向けたが、もしこれが最期だったら?そう思ってしまって。


会えるチャンスを捨てるのか?と自らに問いかけてしまった。


……………………そんなの、


そう思った時、視界の端で電気が灯ったのが見えて。


誰か起きたのかな、なんて悠長に考えていたら突如ベランダに現れた緑谷くん。


…………これは、チャンスなのかな。


焦凍くんの部屋の場所すら知らない私は、うるさくない程度に圧力をかけて飛び、緑谷くんの目の前。ベランダの柵の上に降り立った。


「…………え!?ヒーロー名もがっ!!」


「しし、し、静かに……!!」


びっくりして声を上げた緑谷くんにびっくりした私は、慌てて彼の口に手を当てた。


「な……何してるんですか!?」


小声になりつつも、驚いたままの緑谷くん。ご、ごめんね……。


「しょ、焦凍くんに会いに来て……。」


「こんな時間にですか!?と、と言うかヒーロー名仮面とか怖いから、夜に現れるのやめた方がいいですよ!!」


そう言って緑谷くんは左胸に手を当てた。ほ、ほんとごめん…………。


「ごめんね…………その、……どうしても今日話しておきたくて…………。」


「……もしかして、ニュースの事ですか?」


「………………うん。」


「轟くんも気にしてましたよ、次はヒーロー名が標的とされてるって聞いて。」


「……………………そっか。」


「でも轟くんもう寝ちゃってると思いますけど……。」


やっぱり、そうだよね。でも、と1度帰ろうとしても動かなかった足でベランダへと降り立ち、私は迷惑とか理性とか全て捨てて、


「…………顔だけでも、見て行きたい。」


だから、部屋を教えて欲しい。そう緑谷くんに頼んだ。


彼は目を見開き、そしてわかりました。と頷いてくれた。我儘な大人でごめんね本当に。


緑谷くんに教えて貰った部屋の前に立ち、深呼吸をする。


起きてないのは残念だけど、…………起きてないからこそ、本心を伝えられそう。


私は意を決して扉を開いた。

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