扉を開くと、やはりと言うかなんと言うか。静かに寝息を立てている焦凍くん。
………………あれ?緑谷くんの部屋は洋室だったのに。…………なんでこの部屋は和室なんだ?
広がる畳に違和感を感じながらも、とりあえず勝手に、誠に非常に勝手ながらお邪魔させて頂く。
「…………焦凍くん。」
控えめに声をかけるが、すぅすぅ。と寝息を立て続ける。
やっぱりそうだよね、とむしろ安心しながら彼の眠る布団を眺めるようにして腰を下ろす。
…………もしも起きた時、緑谷くんのように驚いてしまったら可哀想だから、仮面だけでも外しておこうかな。
不法侵入の遠慮は無かったが、心臓への遠慮はして仮面ととりあえずフードまでは外してみる。
「…………焦凍くん、……………………焦凍くん。」
声をかけても、やはり起きない。……最期になるかもしれないんだから、声を交わしたかったけど仕方が無い。彼に非は無い。
「…………明日、ヴィランが来るんだ。」
エンデヴァーも苦戦し、そして膝をついてしまった相手が。
「……標的が私で。……情けないんだけど凄く怖くて。」
ヒーローは皆、好戦的という訳では無い。皆ミルコさんみたいな鋼の精神と言うか、戦いに臨む者としてこれ以上ない精神を宿せられたら楽なんだろうけど。
とりあえず私はそんな精神持ってなくて、戦う時はやはり少しの恐怖と毎日隣り合わせだ。
それでも、目の前にヴィランが現れれば、こいつは人に迷惑をかけてきたのだと。警察に追われるような事をして来たのだと。そう頭が理解してから、私の拳は奴らにねじ込まれる。
今回に至っても、きっと目の前に現れればエンデヴァーをやられた怒りから体は突き動かされるだろう。……それでも、今は、
「……誰かに、殺したいと思われてるって言う事実に、ただ震えることしか出来ないんだ。」
「…………明日、もしかしたら私は本当に殺されてしまうかもしれない。」
すぅすぅ、眠る焦凍くん。そんな彼の綺麗過ぎるお顔に手を滑らせる。
「……もう二度と、君に会えないかもしれない。」
ぐっ、と唇を噛み締めて堪える。駄目だ、泣くな。
「…………だから、伝えたくて…………っ。」
愛を伝えてくれてありがとう、未来への希望を与えてくれてありがとう。
感謝しても、し切れないや。
「…………大好きだよ、焦凍くん………………っ!」
ぽろり、目から零れた涙は止まらず畳にぽたぽたシミを作る。
あぁ、私はこんなにも焦凍くんの事が。そう実感しながら、涙を零し続けて。…………そして拭い立ち上がる。
「…………必ず、守るから。」
私が死んでも、奴は絶対刑務所にぶち込む。
皆の、……轟家の平和は最期まで守るから。