戦い、そして

「なんだよ、もっと攻めてこいよヒーロー名!!」


攻めれる訳が無いだろう。瞬時に空気中の水分を霧へと変え、それが次の瞬間には針となりこちらを蜂の巣にしようと襲いかかってくる。


その過程を見ていて、簡単に懐へと入れるはずもなく私は防戦一方となっていた。


「早くしねぇと、俺の針がお前を殺すぞ!?」


そう叫んで向かってきた針達を拳を突き出した圧で吹き飛ばし、エンジンへと近づく。


そのまま間髪入れずに拳を突き出すが、今度は針を束にしたものでガードされて、拳は奴の体に届かなかった。


それでも勢いと圧はかかっているので、吹き飛んだエンジン。


「…………貰った。」


拳に圧力を溜めて振りかぶり、未だ地へ尻もちをついている奴へと拳を突き出した。





「いけー!!ヒーロー名!!やっちまえ!!」


「エンデヴァーの仇を!!」


皆と一緒にヒーロー名を応援する、頼むよヒーロー名。必ず元気な姿をもう一度見せて。


なんて、劣勢でもないのに昨日の晩に見たヒーロー名の表情が忘れられない僕は、願うようにしてテレビの画面に齧り付いていた。


『凄い威力です、ヒーロー名!!離れている我々の元へと衝撃波が届いています!!』


「まだヴィラン体制整ってない!!」


「チャンスだヒーロー名!!」


「いけええ!!!」


『大きく振りかぶったヒーロー名!!いつも私達を救ってくれるその拳で、今日もそのいちげき…………で……………………え?』


「……………………え?」


アナウンサーの言葉が途切れた瞬間、ガタン!!とけたたましい音が鳴る。


音の原因は、椅子を倒しながら立ち上がった轟くん。


その表情は悲痛に歪められていて。


その視線は、テレビの、テレビの中の背後から大量の針に串刺しにされたヒーロー名へと向けられていた。





気配は感じなかった、いつの間に。その一言に尽きる。


やはりこの男は。決して万能と言える個性でもない個性。それを操るセンス。肉弾戦において、私が圧倒出来ない瞬発力や洞察力。


この男は、やはり強いんだ。


膝をつき、自分の目下に広がる血溜まりを見て痛感した。


「単純なんだよな、攻撃が。ほら、針も抜いてやるよ。そんな見た目じゃ嫌だろ?」


「……ぅ、あぁ!!!」


針を抜かれて血が噴き出す。…………駄目だな、これ。


ここから持ち直して奴を倒したとしても、失血死は免れないだろう。


…………それなら、尚更。時間が足りない。


ぐらり。視界が歪む中立ち上がる。


「大丈夫?そろそろ死ぬんじゃない?」


「…………まだ、…………し、……ねない……!!」


「そっか。…………じゃあ殺してあげよう!!!」


そう言って今度は先程とは比べられないほどの速さで針が飛んでくる。


……これは、反撃出来ない!!!


反撃のチャンスを伺っていたものの、避けるのに精一杯となる。


しかしながら鈍った体では全てを避けきれず、体を覆うマントや仮面がボロボロになった。


「あははははは!!!惨めな姿だなぁ、ヒーロー名。どうだ?これを生中継されてる気分は?お前に憧れた子供や、エンデヴァーなんかも見てるのかな?あははは!!楽しいなぁ。」


気が狂ってる、気が狂ってるのに攻撃の手さばきは確実で。腹が立つな、ほんと。まだ1発も食らわせてないのにこっちは満身創痍とか。


布切れになってしまったマントを脱ぎ捨て、立ち上がるとぽつりぽつり。


「そうそう、今日は雨の予報だったんだ。…………念には念を入れて、ね。なのにヒーロー名は思ったよりずっと弱くて残念だ、エンデヴァーの方がまだマシだったかな。」


…………雨。


「雨の意味、わかる?俺の個性水を針に変えるんだけどさ………………この雨全部」


っまずい!!!


「針になるんだよね!!」


降り注いでいた雨が突如形をもって襲いかかってくる。


自分の個性を使おうにも、拳で防ぐことで精一杯で。それに針に触れようにもあいつは意のままに操ることが出来る。手が近づいた瞬間刃先がこちらを向くに決まっている。


「…………クソっ。」


拳での風圧で周りの針たちを吹き飛ばし続け、やっと針の雨は止んだ。


「あはは、ヒーロー名に圧勝しちゃうなこれ。ほんと、こんなボロボロになっちゃって。……残念だよ。」


雨と共に血も流れていく。…………ほんと、まずい。早く仕留めないと、時間が、ない、


ふらり、平衡感覚すら失われ、雨と血の上へと倒れ込む。


「あははははは!!!見ろよ、あのアナウンサー達の顔!!!まさかヒーロー名がやられるなんて考えて無かったんだろうなぁ、びっくりだよなぁ、…………怖いよなぁ!!」


皆、見てるかもしれないのに…………ご、めん…………。


「…………なぁ?ヒーロー名。この仮面の下どうなってんの?」


倒れ込んだ私へ近づき、仮面を外すエンジン。


「…………え!?なんだよお前、そんな可愛い顔してたの!?」


…………………………可愛い、顔。


「ちょ、マジ!?おい、皆に見てもらおうぜ!!?」


そう言うと私を担ぎあげ、メディアの目が届く場所へと運ばれる。





『ま、まさかこんな状況でヒーロー名の素顔が明かされるとは……。』


「ヒーロー名…………確かにヴィランが言う通り可愛いな…………。」


「意外だ…………と言うか…………大丈夫かよ?……顔真っ青じゃねぇか…………。」


皆、ヒーロー名の素顔と想像以上の悪い状況に困惑する。


それは僕も例外では無く、あんな可愛らしい人と間近で話してしまったのか。と思う反面、地面に転がされてヴィランに何か言われている様子は、人気ヒーローヒーロー名の面影からは遠かった。


「………………ヒーロー名。」


小さく聞こえた名前。振り返ると、立ち上がったまま食い入るようにしてテレビを見る轟くん。


「…………負けんなよ…………死ぬなよ…………!」


「……そうだ!!死んじゃダメだヒーロー名!!」


その言葉に僕はわかってしまった。昨日どうしても轟くんの顔だけでも見て行きたいと言った真意が。


だからこそ、僕は言いません。轟くんには言いませんよヒーロー名。


必ず帰ってきてください、轟くんが、こんなにも泣きそうな顔をして待っているんだから。





「勿体ねぇな、その顔だったら芸能人にでもなれば良かったのに。」


勿体ない。


「そしたらこんなとこで殺される事も無かったのになぁ。ほんと、勿体ねぇ。」


勿体ない。


「こんな可愛い顔して、ヒーローなんか目指すからこんな事になるんだよ。」


可愛いのに、ヒーロー。


いつだったか、遠い遠い記憶の中そう言われた。


その言葉に私は酷く、…………酷く、……何を思ったんだろう。悲しく……ではない。悲しいなんてものじゃない。


悲しく泣くような、可愛い子じゃない。私は、可愛くなんかない、守られるような守られないといけないような、そんな、そんなものじゃない。私は、私は


…………そうだ、可愛いのにヒーローになるなんて勿体ないわ。その言葉に、私は


酷く怒りを感じたんだ。


「ぉわっ!??」


目の前にいたエンジンに向かって殴り掛かり、そのままかかと落としを食らわせる。……良いのが入った。


「がはっ!!…………んだよ、急に!!」


「可愛いとか。」


「は!?」


「可愛いとか。小柄とか。見た目の事を色々と言われるのが小さい頃大嫌いだった。」


「は?」


「守りたくなる、そんな言葉も死ぬほど嫌いだった。」


「だから、強くなる力を地道に培った。大して強くもない個性の使い方を地道に学んだ。」


「だから、ここに、いる。」


「なのに。……………………見た目?体格?」


言われ続けた言葉たち、投げつけられた言葉たち。


全てが嫌いで憎かった、だってその言葉は私をヒーローから遠ざけ、私を強者から離れさせ、


「…………私を勝手に、…………弱者にするな!!」


可愛いという言葉は私をどん底へと落とす


「それを言って良いのは、私の外見について触れて良いのは」


優しく笑う守りたくて守りたくて仕方の無い家族。


「……あの人たちだけなんだ。」


「…………あっそ。世の中には守られたい人も可愛いと言われたい人もいるってのに。我儘な事だね!!」


向かってくる針達。それに向かって拳を放ち、瞬時に懐へ。


「だからそれは見切って」


「……ファイアにも言ったけれど、」


降り注ぐ雨はお前だけのものじゃない。


「いつ、私の個性は圧力だと言った?」


「は……?」


エンジンへと水を集め、閉じ込める。


「んだ、……これ!?」


体の自由を奪う、でもこれだけでは


「んなもん、俺だって水の!!」


「知ってる、だから」


多くの水。……雨を使って自分の腕が吹き飛ぶ限界まで圧力を溜め、


「確実に仕留める。」


動かない、動けないエンジンに向かって拳を放った。


水をも吹き飛ばし、衝撃波は自分にも周りにも大きすぎる程に広がり、私も地面の上に転がった。


失血と傷の深さから霞む視界で、エンジンが起き上がってこないのを確認すると、そこで私の意識はぷっつりと切れた。

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