沈む沈む

「…………今日も綺麗な顔してるね、ヒーロー名。」


「えぇ、本当に。」


「姉ちゃん初めてヒーロー名の素顔見た時、びっくりしてたもんな。」


「そんなの夏雄だってそうでしょー!?」


「あんなの誰だって驚く。」


「やっぱりそうだよね?…………って言うか焦凍とお母さんは知ってたんだっけ。」


「えぇ、お願いして見せてもらったわ。」


「俺も。」


あの時は本当にびっくりした、見苦しいものを、なんて言ってきたのにこんなに綺麗で。すぐに赤くなって可愛くて。


声だって澄んだ高い声で、恥ずかしそうに目を泳がせる瞳も大きくてなんともバランスの取れた美人だと。


「…………早く、起きてくれねぇかな。」


つい零れた言葉に、皆頷く。


なぁヒーロー名。もうすぐ春が来る。


…………俺、卒業するよ。


サイドキックになる準備出来たよ、…………ヒーロー名の方が準備出来てないなんておかしいだろ。


俺、凄く楽しみにしてた。あなたとの生活。


頼む、想像だけで終わらせないで。姉さんも兄さんもお母さんも、…………親父も。皆ヒーロー名を待ってる。


「…………だから………………はやく…………。」


目を覚ましてくれよ、俺あんたに言わないといけないことまだ沢山あるんだ。


ヒーロー名とやりたい事だって沢山ある、もっと、もっとあんたの事知りたいんだ。


だって、俺ヒーロー名の事全然、全然知らねぇ。俺たち家族は全てを明かして家のどろどろな部分まで見せたのに、ヒーロー名の事は俺たち全然知らねぇんだ。


教えてくれよ、どう生きてきたのか。なんでヒーローになったのか。


話してくれよ、寝てないで。声に出して、…………頼むよ。


「…………ヒーロー名……!!」


「焦凍……。」





「…………ヒーロー名……!!」


名前。……いや、ヒーロー名を呼ばれてる。


なんだろう、なんで家の中に人が?バーニン辺りが勝手に入ってきたかな?


いや違うか。私エンジンを倒して…………病院送りだよなぁあの怪我だと。ならば病室か?


重すぎる瞼をなんとか持ち上げようと踏ん張るが、中々開かない。なんで!?……じ、実は随分長いこと眠ってた、とか?


それなら尚更早く起きないと、心配する。…………心配してくれる人が沢山いる。


家族はもうこの世にいないけど、大切に思ってくれる人は沢山いるんだ。


だから、早く目を覚まさないと。


早く、目を覚まさないと、また心配かけて泣かせてしまう。


俺にとって、どれだけあんたが大事かわかってんだろ、って。泣かせてしまう、綺麗な顔を歪ませて可哀想になるぐらい嗚咽を漏らして。


そんなの、もう嫌なんだ。悲しませんのは嫌だ、笑ってて欲しい。元気でいて欲しい。


叶うなら、家族皆で笑っていて欲しいんだ。エンデヴァーの傍で、彼の過去そして家族に対する想い全て見てきた。


それを経て、皆が歩み寄ろうとしてあと少し。あと少し皆で頑張れば、きっと。きっと皆で笑い合える未来が来るだろうから。


その姿が見たくて、見てみたくて。私はきっと皆の手がどこか遠くへ離れて行ってしまわないよう繋ぎ止める事に必死だった。


でももう、私が居なくても皆は皆で手を取り合っていける。


どうか、自分を許してくださいエンデヴァー。


家族と笑いあってください冷さん。


本当の家族になってね冬美ちゃん。


優しさを持ってこれからも家族と向き合ってね夏雄くん。


…………幸せに、なってね焦凍くん。


…………あれ?何でこんなこと、


焦凍くんは、私と一緒にって、言ってたのに。なんでその手を離すんだ。


彼は、私と一緒にいたいと言ってくれたのに。


…………あぁ、そうか。


もう私は、轟家での役目を終えたから。


だから、もうこのまま、


悲しむかもしれない、……いや、悲しむだろう。それでも、


急激に襲ってくる眠気に逆らわず落ちていく。


それでも、皆で乗り越えて行ってくれるだろう。


……今までお世話になりました。


ゆっくりと沈んでいくような感覚。


最期に、皆の笑った顔が見たかった。


…………最期に、ちゃんと君と話しておけば良かったな。

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