お見舞い

「お、今日も来たのか!ヒーロー名!」


「相変わらず子供が泣きそうな見た目してんなぁ!」


病院に入るなり、そんな事を言われまくる休日。辛いよ……。酷いよ……!


ペコペコと周囲に頭を下げながら目的の病室へと向かう。


轟、そう書かれた扉をノックして開くと、


「……あら、ヒーロー名!」


「…………ヒーロー名。」


冷さんと焦凍くんがいて、少しばかり驚いてしまう。


「……本当に来てたんだな。」


「そう言ったじゃない、よく来てくれるのよ。」


ね?と同意を求められ、頷く。


そうなのか、と笑った焦凍くんは少し……いやかなり久しぶりかな?


彼は数ヶ月前に雄英が全寮制になった事もあり、実家から出てしまったのだ。なので朝轟家に行っても姿形も見えなくなってしまっていたので、会うのはかなり久しぶりだ。


「……出てきて、大丈夫なの?」


「……寮?あぁ、外出許可出して貰えれば。」


「わざわざ先生に言って来てくれたの。」


「…………そう。」


本当に良い子だ。轟家の子供たちは皆良い子。彼らと冷さんを見てると心が穏やかになる。エンデヴァーを見ると心が引き締まる。


「…………ふふ、焦凍。ヒーロー名に色々聞かなくても良いの?」


「……い、良い。」


「本当?次会えるのいつになるかわからないんでしょ?」


「??」


何の話かわからなくて、首を傾げる。


すると立ちっぱなしだった私の前に椅子を出してくれた焦凍くん。ぺこり、一礼して座らせてもらった。


「ねぇ、知ってた?ヒーロー名。焦凍ったらあなたの事凄く大好きなのよ。」


「え。」


「お、お母さん!!」


「ふふふ!良いじゃない、こんなに近くに憧れの存在がいるんだもの、チャンスは利用するべきよ!」


「……そ、そもそも今日はお母さんに会いに来たんだから、」


「……ありがとう、焦凍。でもヒーロー名は会いたくても中々会えないわよ?私みたいにずっと病院にいる訳でもないんだから。」


いや、全然言ってくれれば会うけどな。なんて思ったが、見た事がないほどに楽しそうに笑う冷さんを見ていたら、何も言えなかった。


……ただ傍にいるだけしか出来ない私と違って、焦凍くんは冷さんを笑顔にする事が出来るのか。


凄いな。なんて思っていると


「……ヒーロー名!!」


「!?は、……はい?」


急に呼ばれて体を震わせてしまう、な、何でしょう!?


「こ、……この後、時間……ありますか。」


時間。今日は休みなのであるにはある。ので首を縦に振った。


「じゃあ、……俺を稽古付けてくれ。」


「!?」


それは無理だ。無理過ぎる。私は首を高速で横に振る。


「な、なんで、」


「……そ、それは、……お父さんに頼むべき。」


あなたの個性について誰よりも知ってる、あなたの事を誰よりも知ってるお父さん、エンデヴァーに頼むべきだ。私のようなサイドキックに頼むことじゃない。


「……でも俺、あなたに憧れてて……。」


うっ…………イケメンが悲しんでる…………!!


「ぐっ…………。」


「ふふ、あははは!!」


そんな私達を見て、冷さんが笑う。なんて平和な休日なんだ。……ってそうじゃない!焦凍くんには悪いが流石にボスのお子さんに手を出すのは、


RRRRRR……


「……すいません。」


スマホが着信を知らせたので、席を外して画面を見る。すると表示されていたのはイレイザーの名前。


「……もしもし。」


『俺だが。一つ頼みがある、聞け。』


拒否権なんて無いのでは?と言う圧をかけてくる先輩。怖いよ……。


「な、なんでしょうか。」


『この間俺のクラスのHR邪魔したよな?その借りを返しに来い。』


この間って、随分前では。もう忘れ去って貰えたのかと小躍りしてたのに。


「一体何をしたら……?」


『何、難しいことじゃない。訓練に付き合ってくれ。』


「イレイザーの?」


『お前は馬鹿か。』


酷い、酷過ぎる。だって訓練って、


『ヒーローの卵達に決まってんだろ、あいつら鍛えてくれ。』


ヒョエエエエエと言う声が出そうになり、慌ててむりで、と声を荒らげたが、切られた通話。今回もブチィ!!と言う勢いで。


あの先輩は私のことをなんだと思ってるんだろう、本当に。


いつかギャフンと言わせてやる!!いつになるかわかんないけど。


「あ、おかえりなさい。」


「おかえり。」


病室に戻ると、変わらずゆるふわ空間を繰り広げている轟親子。ずっとここにいたいな。あんな先輩のいる学校とかじゃなくて……………………あ。


「……焦凍くん、」


「お?」


「さっきの話、稽古。」


「あぁ、……駄目か?」


「いや、……さっきイレイザーから借りを返せって言われて…………雄英に行くことになったから、……それでも良い?」


私は全然承諾してないんだけどね。なんて言葉は隠して伝えると、焦凍くんはなんとも嬉しそうに首を縦に振った。

top