甘い甘い

「よし。じゃあ一旦昼休憩。午後からまたヒーロー名も含めてヒーロー基礎学入るからな、コスチュームでここに集合する事。解散。」


終わった…………午前だけだけど…………。


はぁ、と溜息をついて、先輩に剥がれたマントを纏う。


「ヒーロー名!」


「?」


呼ばれて振り返ると、焦凍くん。……の後ろにも何名か。


「昼飯、一緒に食べよう。」


わくわく。そんな効果音でもつきそうな表情で言ってきた、ボスの可愛い息子さん。


「わ、私達も一緒が良いんですけど……?」


「だ、ダメですか!!」


ひょっこり。後ろから現れたのは緑谷くんと麗日さん。うっ、可愛い。可愛い子ちゃんしかいない。


その可愛さにやられて、私は首を立てに振ってしまった。





………………そう、首を縦に振ってしまったのだ。


食堂に着いてから気づく、そうじゃん。仮面取らないとご飯食べれないじゃん。


ヒョエエエエエ。と言いそうになる口を必死に噤んで考える。ど、どうにか、出来るだけ彼らを悲しませずに1人で食べることは出来ぬか、


「ヒーロー名?来ねぇのか?」


くい。マントの袖を軽く引っ張る焦凍くん。


うっっっ…………身長はあちらの方がかなり高いのに、なんでだろう。可愛く見えるのは。


「……そ、その、…………仮面。」


「…………あ。」


恥ずかしながらそう呟けば、合点いったのか固まる焦凍くん。


「……ご、ごめん。やっぱり、…………」


「……それ、絶対付けてないと駄目か?」


「……………………出来れば。」


「どうして?」


優しく身を屈めて聞かれる。これじゃあどっちが年上かわからないな。


「…………顔とか……体とかで、判断されたくなくて。」


「……そんな事しねぇよ。」


「でも、女なら弱そうに見える人もいる。頼りなく見える人もいる。…………だから、少しでも強くて頼りになる人に見えるようにしていたくて…………。」


「…………今は、強さはいらない。」


「……?」


「何かあったら、俺が守ります。だから、今だけは気抜いてくれねぇか?」


真っ直ぐ伝わる彼の気持ちに、あぁ。やはりこの子はエンデヴァーと冷さんの息子なんだなぁ。と感じさせられる。


「………………わかった。」


そして私はつくづくこの家族に弱いなぁ。と痛感しながら、客室へと荷物を置きに戻った。





仮面を外して外を歩くのは、いつぶりだろう。


休日は取っている日もあったが、最近はいつでもヒーロー活動出来るよう外へ出る日はいつも仮面と一緒だった。


…………緊張、するな。焦凍くんは何年も顔を見てきたのに、自分の顔を晒すのは初めてなんだ。


ふぅ。と息を着くとコンコンコン。と音がする。


「ヒーロー名?準備できたか?」


先にご飯食べてて良いよ、と伝えたのに、頑なに私と一緒に食べると言って聞かなかった焦凍くん。


逃げられるとでも思われたかな。……まぁたぶん逃げてただろうけど。


「…………は、はい。」


あぁ、いつもよりクリアに届いてしまう私の声。恥ずかしい、けど、だけど、


扉を開けて、綺麗な顔をした焦凍くんの前に隠し続けた素顔を見せる。


「……!」


恥ずかしいけど、君なら笑わないでいてくれるような気がしたんだ。

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