家族の話

「ねーぇ!!見てたわよ!!あなた母さんの力使ったでしょ!!誘惑したでしょ!!!」


「先生、用事ってこれですか。」


「これとか言うな。」


「母さんが呼んでるだけですか、皆とご飯行きたいんですけど。」


「え?お母さんと食べようよ、美悪。」


「嫌だよ。」


「ひどぉい!!先生、うちの子ったら酷くないですかぁ?」


母さんの目が怪しげに光る。


「やめなさい!!?」


咄嗟に母を張り倒す。モデル?顔が命?知るかそんなもの。担任の先生を誘惑しようとする頭のおかしな母親が悪い。異議は認めない。


「痛いじゃない!!何すんのよぉ。」


「それじゃあ私はこれで。失礼します。」


「あ、ちょっと!!」


「……相澤先生、早めに母から離れて下さいね。」


「……善処する。」


ぺこり、と先生に頭を下げて部屋を出る。


全く、なんなんだ。先生に呼ばれて言ったってのに。


ふんふん。と怒りながら体育祭の会場を抜けて、ランチラッシュへと向かう。


もう。梅雨ちゃん達とお昼食べようと思ってたのに。時間減っちゃったじゃ


「美悪ー!!!」


「ふげっ 」


突然後ろから飛びつかれ、そのまま前に転ぶ。


いってぇな!!?鼻血が出そうな鼻を押さえながら起き上がると、痴女。ならぬ母。


「何すんのさ!?私これから決勝トーナメントなんだけど!?」


「ごめんって!そんなに体幹なってないとは思わなかった!!」


「…………ぬぅ。」


「今ぐらいでも優悪なら受け止められたなぁ、美悪はまだまだねぇ。」


「うるさいな!?兄ちゃんは男だし!!」


「関係ないわよぉ、同じヒーローになるんだから。……ってそうじゃなくて。大事な伝言を伝えたくてさっき呼んでもらったの、言い忘れちゃったから言いに来たわ!」


「伝言……?」


「おばあちゃんからよ。」


「…………嫌な予感しかしないけど。」


「あら、わかってるじゃない。……トーナメントにて3位以内に入る事。出来なかった場合今週末の鍛錬メニューは2倍にする。…………だって!」


「………………はぁ…………??」


2倍って。ばあちゃん1日24時間って事知ってるかな……?


「頑張ってね?お兄ちゃんもそれを言われて、死ぬ気で頑張って毎年3位以内を維持してたから!」


「兄ちゃん…………。」


そんなに大変なことをずっとやってたんだね……知らなかったや…………。


「じゃあ、楽しみにしてるからね!!」


るんるんっ!と言わんばかりに踵を返して行った母親。


それに対して未だ地面の上に座り込んだままの私。……どうしよう、3位以内って。


優勝候補をとりあえず挙げてみるが、轟くんに爆豪くん。飯田くんもそうだし、八百万さんも賢いからなぁ……。


………………。


地面についていた手を離して、倒れ込む。


む、……無理じゃねぇ…………?


大の字になって空を仰ぐ私はさぞ滑稽な事だろう。それこそどんな人でも声をかけざるを得ないような。


ぼーっと見上げた空の青に、赤と白。


「……お前、何してんだ。」


「………………とっ!!?」


慌てて身を起こすと、


「っ!!?」


「いっ!!?」


ゴンッ。なんて音と共に彼の額と私の額がぶつかった。


「ごご、ごめんんんん!!!」


うぉわあああ!!?私はなんと言う事を!!?優勝候補ぞ!?相手は優勝候補ぞ!!?


……いや待てよ?今ここで轟くんを潰しておけば、3位以内が近づくな……?それはもう確実に近づくな……埋めとくか?


なんて、友達になりたい。と考えてるとは到底思えないような思考を巡らせる。


とは言っても私は未だ、轟くんの割と凶暴な面しか見れていない。絶対これだけじゃないんだけども。しかしながら実際私が彼からされた事と言えば、舌打ちと睨まれたぐらいだ。すげぇ嫌われてる奴じゃん。


「……っあぁ、大丈夫。…………何してたんだ、こんなとこで。」


赤くなってしまった額を右手で押さえながら、問うてくる轟くん。


何してた、とは。


「何…………空を見上げて…………現実を顧みて…………絶望してた……?」


「なんだそれ。」


いやごもっとも。なんだそれ。


「何かあったのか?」


「……お母さんとさっき話して。」


つい先程までここにいた、やばい母親を思い出す。


「そう言えば、……お前の親もヒーローだったんだな。」


「うん。ついでに言うとばあちゃんも。兄ちゃんも。」


「ヒーロー一家か。…………。」


そう呟くと、口を開けたり閉めたり。言葉が紡がれなくなった轟くん。


「どうしたの?」


「いや。…………苦労、してんだな。」


苦労。と言われて瞬時に脳内を駆け巡ったのは母の暴走。ばあちゃんの暴走。


若くて良い男を見つけるとすぐにホイホイ釣られてしまい、誘惑するやばい人。もはや本当の悪魔である母親。何度兄と止めに入ったことか。忘れもしない、相手が既婚者だった時の絶望感。


そして常に厳しく高血圧なばあちゃん。朝早すぎる。朝っぱらからだらしないだの起きるのが遅いなどキレまくる。高血圧。早起きな悪魔ってどうなの。なのに誰より悪魔を語る。悪魔の起源、悪魔としての振る舞い。闇夜に紛れ、覇者となれ。って。ばあちゃん早起きだから闇夜の時間寝てるじゃん。って笑ったら半殺しにされた。悪魔。


「………………………………してる、かも。」


思い出せば出すほどやばい家族じゃん。と気づいてしまった。いや、前々から思っていたけども。


「……そっか。」


そういうと私の額に右手を宛てた轟くん。


「つめたっ!」


「痛かっただろ。……万全の状態にしとかねぇとな。」


「そ、そうだね……はぁ。」


決勝トーナメント、嫌だなぁ。3位って。厳しいよばあちゃん。皆強いんだよ?知ってるかなぁ。


「……期待が、重てぇのか?」


「期待…………。」


と言うよりペナルティが重てぇんだよなぁ。倍って。ほんと、倍って。


「お前も、大変だな。」


そう言うと、轟くんは立ち上がって私に手を差し伸べた。


「トーナメントでは手は抜かねぇ。……お前も倒しに行く。」


お前も、大変だな。に含まれた轟くんの大変な部分。それはわからないけれど、きっと彼の事を初めて知った時想像した通りの事だろう。


「……私も。負けないよ、どれだけあなたが大変でも。」


その手を取って立ち上がりながら伝えた宣戦布告。


彼の大変と、私の大変。レベルも内容の重さも比較してはいけない程に違うのだと知り、彼に頭を垂れるのはもっとずっと未来の話。

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