1回戦

前の組と入れ替わり、ステージへ。


既に八百万さんは相手方にて佇んでおり、入念に準備体操をしている。


…………綺麗な、子だよなぁ。


外見だけではない。言葉遣いも性格も。


それにとっても賢くて、人にも優しくて。戦う時はその綺麗な肌を晒して、大砲とか出しちゃって皆を安心させてくれる。


……私の『なりたい』が沢山詰まった女の子。


…………………………だからこそ、倒さないと。


体操服の上のジャージを脱いで、腰に巻き付ける。


タンクトップのみになって、腕が動かしやすい。


綺麗なあの子のプライドを、今からズタズタにする。


徹底的に、圧倒して。


容赦なんかしない。


綺麗じゃない、賢くもない自分を肯定する為に。


酷いでしょう、こんな私は醜いだろう。


でも、しょうがないよね。


個性を発現させ、人間を辞める。


……だって私、悪魔だもん。


選手紹介でモニターに映った私は、酷く醜く笑っていた。





「うわ……美悪ちゃん笑ってる…………。」


「な、中々迫力のある笑い方してるね……。」


「それでは始めます!!レディ…………スタート!!」


主審の合図と共に地を駆け出した夜魔さん。そしてその勢いのまま翼を広げ、一瞬で八百万さんの目の前に。


そしてそのまま爆発する光を手の中に溜めながら、その強靭な腕で八百万さんを…………。


「……え?」


攻撃しようとした瞬間、夜魔さんは個性を解いてそのまま回し蹴りをした。


個性を解いている為大した威力も無さそうで、八百万さんは少しだけ吹っ飛んだだけだった。けれど、


「勝者、夜魔さん!!」


「え…………?」


「…………あ!八百万さん場外になっとる!」


「ほ、ほんとだ…………いつの間に……。」


なんと言う。一瞬で決着がついてしまった。


颯爽とその場を後にした夜魔さんとは対照的に、八百万さんは呆然としていて暫くその場を動かなかった。





……そんなつもりじゃ、無かったのに。


「はぁ……。」


「勝ったってのにデケェ溜息だな。」


「…………轟くん。」


顔を上げると相も変わらずおすまし顔な轟くん。


「嬉しくねぇのか?」


「嬉しく……まぁそれなりには嬉しいけど………。」


「……なんで個性解いたんだ。」


そこだ、本当に嫌になる。本当に嫌な奴になってしまったな私。


「………八百万さんをボコボコにしようと思った。」


「……お、……おお。」


ほらもう。有り得ない導入部のせいで瀬呂くんを氷漬けにした轟くんでさえ引いてるよ。どうするよ。


「プライドも、ズタズタにしてやろうと思った。あまりに綺麗でよく出来た人だから壊したくなった。」


何言ってんだろう。こんな話ドン引く以外の選択肢無いってのに。しかもよりによって話す相手が轟くんって。おすまし顔で言われるぞ、お前頭大丈夫か?って。


「…………でも、圧倒してやろうと思って彼女に攻撃しようとしたら、間に合ってなかった。」


「間に合ってなかった?」


「うん。……八百万さんが、全然私の動きに間に合ってなくて。そもそもそのつもりだったけれど、想像より遥かに。……それで、」


顔面を掴んで爆発させて、鳩尾を蹴り飛ばし、尻尾で地面に叩きつけようと思ったのに。初手から彼女はあまりに追いついていなくて。


「……このまま攻撃したら、ろくな受け身も取れずに直撃してしまう、って思った。」


正直ここまでは考えていなかったんだ、だって彼女も推薦入学者。日頃の授業とかでも非常に立派で、やられっ放しなんて有り得ないって思った。


だから、直撃は防いでくる。創造を使ってくるぞ。そう思っていたのに、


「…………何も、抵抗の策が出て来なくて。こんなのは、ただ痛めつけるだけになってしまう。そう思ったら個性解いちゃって。」


軽く回し蹴りをするだけで彼女は軽く吹っ飛び、数歩下がった所で場外となってしまった。


…………プライドをズタズタにしたいとは思ったけど、こんなやり方はしたくなかった。個性すら使わずに傷つくことも無く場外。……酷いことをしてしまった。


せめて、せめて個性を使って傷を負わせるべきだった。なのに、私は。


…………あぁ、母さんは酷く楽しそうに笑っている事だろう。ギリ、と奥歯が悔しそうに鳴いた。


「…………結果としてお前はそう悔やんでいるが、要は八百万よりお前の方が勝ってた。それだけだろ。」


「そうかもしれないけど!!……でも、」


「でもも何もねぇよ。……ここはそういう世界だろ。」


そう吐き捨てた轟くんは、なんとも冷たい瞳をしている。


なんで。なんでそんな冷たい瞳をしているの。


「…………轟くんは、何にずっと怒っているの?」


「……怒る?」


「ずっと怒っているように見える。……体育祭が始まってからは特に。」


一体何に怒っているの?


「……………………お前なら、わかるだろ。」


たった一言。それだけ呟く。お前なら、私なら。


……それって。


「怒ってなんかねぇよ。何も変わってねぇ、俺の本質は今もずっと。……お母さんの力だけで、あいつを完全否定する。それだけだ。」


明確に何があったのかを語った訳でも無い、ただわかってしまった。彼が抱えてきたものは私なんかとは比べ物にならないものだと。


それは、親への憎しみにさえなっているのだと。


「お前もそんな事気にしてる暇あったら次の事考えたらどうだ。……結果残さねぇといけねぇのはお互い同じだろ。」


言葉に私の知らない彼の過去が乗せられて私に届く。


同じ。…………同じ、かぁ。


でも


「ざっくりとした境遇。親がプロヒーロー。乗せられた期待。求められる結果。」


「…………?」


「同じ、だね。うん、そう、……だけど私と轟くんには決定的な違いがあるよ。」


「……違い?」


「うん。………私は、私の力でここに立ってるから。」


「……。」


「私の個性はそれはやっぱり家系通りの個性だよ、それもばあちゃんの個性そっくりで。……でも、全部が全部ばあちゃんの個性じゃない。母さんの個性も受け継いでる。…………この個性は、私だけの個性。」


誰かの力だなんて言わせない。この力は、この体は私だけのものだ。


「だから、お母さんの力を使って戦う轟くんと私は違うよ。」


「お前……。」


眉間に深く寄った皺。睨みつけるような視線。挑発したのは自分だけど、それにしたって顔怖すぎるよ轟くん。


なんかもういよいよ友達になるのは諦めた方が良さそうだな??睨まれて怒られて舌打ちされて…………あ、無理かも。


……それでも伝えたいな、家族という逃れられない運命から抜け出せない轟くんに。


考え方を変えて欲しい。自分は自分なのだと。家族の道具でも誇示するアイテムでもない、自分だと。


「轟くんと当たっても絶対負けないから。……自分の力で勝負して来ない轟くんに……絶対に負けない。」


そう言い残して背を向けた。もう彼がどれほど怖い顔をしているのか怖くて見れなかったんです、なんて口が裂けても言えない。なんかこう、いい感じにかっこよく去りたかったし。


とはいえ轟くんの中での私の印象悪過ぎるなぁ……お茶子ちゃんと梅雨ちゃんに前言撤回しないと。とりあえず友達じゃなくて、嫌いじゃない奴を目指しますって。

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