「中間地点だよー!!!」
「お。」
「ンヒッ。」
「いてててて、おい、夜魔、やめろ。いてぇ。」
「ごごごご、ごめん!!!」
なんてやり取りをしてから数分後。
「1週するのに結構時間かかるんだねぇ……。」
「そうだな、ここの敷地広い…………って……なんだあれ。」
「え?」
轟くんの見つめる方向を見ると黒煙。
「…………何か……燃えて……?」
すると香った不思議な匂い。周囲を囲む紫色のような桃色のような霧。
何この匂い……不思議な…………甘い、良い匂い。
…………それって、
「轟くん!!」
慌てて目の前にいる彼を引き寄せ、その丸い頭を抱き締めるように胸に押し付けた。
「……え、ちょ……夜魔……!?おい……!?」
貧相な胸でごめんね!!と叫びたくなるが堪えて、
「この霧、毒だ!!吸っちゃ駄目!!」
「は……?毒って、お前は!?」
「私は大丈夫、悪魔因子は毒の影響を受けない。……でも轟くんは駄目。この濃度……。」
これほどに甘い匂い。引き寄せられるほどの甘美な香り。…………ということは相当強い毒だ。
「たぶん、………たぶんだけどかなり強い毒だ。長時間吸えば……命が危ないほどの。」
「……んなの、なんで…………!?」
「黒煙…………もしかして……ヴィラン?」
なんで、ここに。ここには先生も少数しか来てないのに。
usjのように助けが呼べないのに。
全身に走る緊張感と恐怖。…………既にこの有毒ガスを皆が吸ってたら?あの黒煙、火の手に襲われていたら?
…………こんなとこで止まってなんていられない。
抱えた頭を離して、個性を発現。
「轟くん、掴まってて。」
「は、……おい、夜魔!?」
轟くんを林間合宿初日の仕返しと言わんばかりにお姫様抱っこして、上空へと舞い上がる。
すると見えたのは、
「やっぱり燃えてんのか……!!」
「それに、この霧も……想像以上に広い範囲。……でも、霧散してない、……やっぱり霧を操ってるやつがいるんだ。」
中心になればなるほど濃くなっている霧。姿は見えないがあそこにヴィランがいるのだろう。
すると私たちより少し進んだところで人影を見つける。
よくよく目を凝らせば、
「あれって……B組の……!!」
「毒にやられたのか……?」
B組の、確か円場くん。完全に意識を失っていて、地面に倒れ込んでしまっている。
「……轟くん、少しだけ息止めてて。」
「あぁ、わかった。」
「行くよ!!」
ひゅ、と風を切って片手に轟くんを乗せて、もう片手に円場くんを抱える。……さ、流石に重たい……!!!
「っ毒の届かない所へ下ろせ、夜魔!」
「りょ……かい!!」
なんとか踏ん張り、彼らを霧から離れた場所に下ろす。
「はぁ……はぁ…………轟くん、円場くんお願いしてもいい?」
「……お願いって、」
「私は毒の方に戻るよ。」
「…………ヴィランいるかもしれねぇんだぞ。」
「だからこそだよ、皆はあの毒に耐えられない。戦うなんて以ての外だ。」
「だからって1人で行くのは無謀だろ、先生達に応援を呼ぶべきだ。」
「そんな時間ないよ、今も皆が襲われてるかもしれない。……待ってなんていられない。」
お願い、わかってよ轟くん。眉間に深く皺を寄せている目の前の彼。
ごめん、心配だよね。私が弱いばっかりに。
「轟くん、」
彼の手を取って、両手で強く握る。
「信じて欲しい。必ず、帰ってくるって。」
「…………お前は……。」
「ごめん、でもお願い。信じて。必ず轟くんの元へ帰るから。」
力尽きる前に、殺される前に逃げ出してでも帰ってくるから。それまでは皆を救わせて欲しい。
揺れる瞳を見つめると、諦めたように溜息をついた轟くん。
「…………必ずだぞ。」
「……うん、ありがとう。」
ばさ、音を立てて翼を広げる。
「円場くんをお願い、出来れば先生にもこの状況を。」
「あぁ。…………また後でな。」
「……うん、また後で!!」
彼に背を向け飛び立つ。弱い弱い私を見送る轟くんの心労は私には計り知れない。
それでも送り出してくれた彼にちゃんと感謝をしなければ。
生きて帰って、あの時はありがとう。と笑顔で言わなければ。