夜は

『A組、B組総員!!プロヒーローイレイザーヘッドの名において戦闘を許可する!!』


『ヴィラン側の標的はかっちゃん!!かっちゃんは戦闘を避けて逃げて!!』


テレパス越しに聞こえた情報に混乱する、爆豪くんが標的……!?何したの爆豪くん……?


彼が今無事なのか非常に気になる、気になるが、今はそれどころじゃない。


「…………んんんん!!!」


両腕に響香ちゃんや透ちゃん、B組の人達など4人を乗せて霧の晴れた場所へ運ぶ。


やはり想像通りだった、既に皆はこの霧に襲われて意識を奪われている。


……まだ気づいてそんなに経っていないのに、意識を飛ばすほどの毒。


…………早く元凶を叩かないと。


翼を広げ、霧の濃い方へ濃い方へ潜り込んだ。





「雄英って名門だろぉ!?幻滅させんなよ!!」


聞こえた声、見えた拳銃。


その引き金が引かれる前に、拳銃を持った腕を蹴り飛ばす。


「っ夜魔!?」


「息止めて、吸っちゃ駄目。」


彼の口元を手で覆って霧を防ぐ。しかし、守りながら戦えるほど相手は優しく無いだろう。


…………人を殺すことも厭わない、そんな輩だろうから。


「お前吸ってて大丈夫なのかよ!?」


「私は悪魔。人間とは器官のつくりも違うんだよ。……でもあなたは駄目だ、早くここからにげ」


「…………逃げるわけねぇだろ!!俺はこいつを殴らなきゃなんねぇ!!」


強い意志。…………わかるよ鉄哲くん。救けたい、皆を救けたい。その気持ちで私も心配してくれる轟くんに背を向けた。


でも、


「……お願い、鉄哲くん。ここは任せて欲しい。」


「っけどよぉ!!」


「鉄哲くんは充分やってくれたよ、君じゃなかったらあの銃弾が誰か他の人に撃ち込まれていた。」


それを、鉄哲くんが弾いてくれたから。今も目の前で蹴られた腕を押さえてもがいているヴィランは、ここに留まっている。他の誰かに手をかけずに。


「充分だ、だからあとは毒って言うハンデの無い私に任せて欲しい。」


「……夜魔…………。」


「お願い。」


あいつが攻撃を再開する前に、早く。


「………………拳動!!!」


鉄哲くんがそう叫ぶと、現れた大きな手。


それが鉄哲くんを掴み上げる。


「ごめん、頼んだよ夜魔!!」


すると霧の中から現れた拳動さん。彼女はガスマスクをしており、鉄哲くんをその大きな手で囲んでいる。


「うん、……任せて。」


頷くと、彼女も凛々しく頷きこの場を去った。


「……へぇ…………仲間を逃がすなんて優しいじゃないか。悪魔のくせに。」


ガスマスクの奥から小馬鹿にしたような声が聞こえる。


するとその姿は霧の中に消え


「っ!?」


銃弾が腕をかすり、鮮血が溢れる。


「誰が相手だろうと、姿が見えなきゃ意味が無いだろ?お前も同じだ、お前の動きは僕にわかる。でも僕の動きは、」


動き出そうとした足に銃弾が撃ち込まれる。


「っぐゔ!!」


あまりの激痛に膝をついてしまう。見えない、なんで、どこから。


避けようにも弾道が見えないと避けられない、思えば拳銃相手なんて初めてだ。いつだって相手は個性を使ってきたから。


初めての状況、悪い視界。毒故に助けも呼べない。


どれか1つでも打破しないと……そう痛みに耐えながら思考するが、


「ねぇ、対策考えてみなよ?名門校だろ!?」


再び聞こえた銃声、そして


「ひっ!!」


今度は肩を撃ち抜かれて、痛みから震えて地面に倒れる。


どくどくと自分の血液が排出されているのを感じる、呼吸もどんどん荒くなり、手も足も出ていない敵に死を感じる。


「ねぇ、恥ずかしくないの?かっこつけて仲間送り出してさ、自分はこんなボロボロになって。恥ずかしくないの!?」


死ぬ、殺される。


カチャ、と銃を構える音が聞こえた。


声にもならない恐怖で体が動かない、どうしようどうしたら。動かなきゃ、ころされちゃう。


むりだよ、逃げられない。どこにいるかもわからないのに、どうしたら。


…………おわり、だ。


ギュッと目を瞑ったその時、思い出したのは轟くんへの誓い。


信じて欲しい。必ず、帰ってくるって。


…………自分で、言ったじゃないか。


じゃり、と砂を全身につけながら、震える手足に無理やり力を込めて立ち上がる。


自分で、言った。


心配そうに見つめる轟くんに、誓った。


………………帰らないと。


轟くんの元へ、生きて帰らないと。


広げた翼で上空に。


銃弾が向けられているだろうが関係ない。


なんで気づかなかったのだろう、霧なんて


強風の前では漂っていられないのに。


翼に空気を纏って、強風を送る。


霧は、風に攫われ


少年を浮き彫りに。


慌てて銃を構え直す暇さえ与えず目の前に。


「お前、そんな撃ったのに、当てたのに……っ!?」


「悪いね。」


鉤爪でその顔面を掴み、ガスマスクを粉砕する。


そしてそのまま、頭を掴んで地面に叩きつけた。


淡く輝く月光の下、私は血を流したまま気絶した少年を見下ろす。


「夜は、調子が良いんでね。」


だからと言って、出血しても平気だなんてことは無く。


ふらり、地面に倒れ込んだ。

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