消えない跡を

ごろり、ごろごろ。


自室に戻ってベッドに転がってみたが、落ち着かない。


…………やっぱり今日中に轟くんと話したいなぁ。


……メッセージ飛ばしておこうかな。


思い立ってベッド際に放ってあったスマホを手に取る。


なんて、なんて書こうか……いやでもやはり直接話すべきだよなぁ。


ならば、と寮に戻ってきたら私の部屋に来て欲しいな。と書いてそのまま送信。


…………あれ?果たし状っぽい?


もしも逆に私が轟くんへ危害を加えてしまったとしよう。そして寮に戻ってきたら俺の部屋に来て欲しい。と言われたとしたら。


…………ぼ、ボコられる気しかしない…………!!!


まずい、なんか違うんだ。全然怒ってないし何があったのか聞きたくて、あとめっちゃ元気だって伝えたくて、


あわあわと慌てながら弁解の言葉を打とうとしているとついた既読。


「き、既読ついちゃった……。」


なんて返ってくるかな、と緊張感の中暫し待つが……返ってこない。


え?まさかの既読無視?嘘?


まさかの事態に呆然としていると


『わかった。』


そう返ってきて安心する。別段取り乱している訳でも無さそうだし、このまま彼が戻ってくるのを待とうかな。


胸に引っかかっていたものが取れたように、今度は気持ちよくベッドに転がる。


彼と会ったらまずは何を言うべきか。…………何よりまずは無事だよと伝えるべきだよな。


轟くんがこの部屋をノックするその時をシミュレーションし、彼がどんな心持ちでやって来るかも想像した。





コンコンコン。


「夜魔、俺だ。」


来た!!!


慌ててベッドから身を起こして扉を開くと、私服姿の轟くん。


「待ってたよ!ごめんね、急に呼び出して。」


「いや…………本当は俺から行くべきだったから。」


扉を閉じて、私の顔や腕を眺めた轟くんは顔を顰めた。


ま、まずはこれ!!考えたでしょ!!シミュレーションしたでしょ!!


「だ、大丈夫!!」


「……え?」


「全然痛くないよ!!なんともない!見た目が派手なだけで……あ、その時自体はちゃんと痛かったよ?流石轟くんって感じもしてね!?で、でも今はもう全然大丈夫って言うか、あの、」


うわ、もう何言ってんの!?!?流石轟くんって何!?


「……本当に?」


するり、彼の少し冷たい手が頬を滑る。


「痛く、ねぇか?」


「……痛くないよ。だからそんな顔しないで!大丈夫だから。」


悲しい。それだけでは済まされないほどの感情が詰まった表情。


「……ごめんな。」


「ううん、それはもう気にしないで。飛び出したのも盾になったのも私の判断だし。」


「でも……お前に火傷させたのは俺だ。…………って、……跡!!」


「へ、」


ぐい、と顔を持ち上げられてオッドアイとかち合う。しかしいつも涼し気なオッドアイが今は焦りを含んでいる。


「跡、残るか……?だとしたら本当に謝って済む事じゃ……!!」


「あ、跡?火傷跡の事?それは……。」


相澤先生から聞いた、多少の跡は残ることだろうと。火傷だもんなぁ、それに炎を直接浴びた。あのエンデヴァーの炎を受け継ぐ轟くんの炎を。


いくら悪魔化してたとは言え防ぎきれなかったのだ、当然ではあると思う。


だがそれを彼に伝えるべきかどうか……でもいつまで経っても消えないなら、いつかは気づいてしまうし本当の事を言うべきだよなぁ。


「……一応、残るみたい。跡は全部。」


「…………っ!!」


泣き出しそうな顔をしてしまった轟くん。


その顔に手を伸ばして、零れてもいない涙を拭う。


「でも、大丈夫。私はヒーロー志望だもん。これから先いくつも傷は出来ていくよ。その1つってだけだから、」


「っでもこれから作る傷は、ヴィランによるものだろ……こんな、……友達に消えない傷をつけるなんて…………。」


…………ごめん。小さくか細い声で轟くんはまた謝った。


「もう、謝りすぎだよ。気にしないで!!別に私母さんみたいに顔重視のヒーローになるつもりないし!!」


「……でも、女の子の顔に傷って…………。」


「女の子以前にヒーロー志望!!ほらもう気にしない!!」


いつの間にか俯いていた丸い頭を起こさせる。


「轟くんは、私の顔見て過ちを振り返るの。忘れちゃいけないよ今日のこと。」


「…………あぁ。」


「それで、火傷跡のことは気にしないの!」


「………………。」


それに対してはまたも悲しげな表情を浮かべた轟くん。


…………火傷跡、そんなに悪いものじゃないと思うけどなぁ。


彼の顔にある火傷跡をそっと指でなぞる。


………………あ、


「ふふ、」


「……どうした?」


ぺり、と頬に貼り付けられていたガーゼを剥がす。


既に傷は塞がっていて、カサブタになっている。きっとこれが残っていくのだろう。


そのカサブタをとんとん、と指で叩いて彼に笑いかける。


「お揃い、だね!」


火傷の場所も大きさも何もかも違うけど、お揃いだ。


そう言って笑えば、轟くんは目を丸くして驚いて。


そして、また泣き出しそうな顔をして、


「うわっ!?」


私の腕を引き寄せ、腕の中に閉じ込めた。


「…………ごめん。」


「もう!!謝らなくて良いってば。」


「ごめん、……ごめん。」


ぎゅうぎゅうと抱き締めて謝る轟くん。少しは心が軽くなるかと思ってお揃い、だなんて言ってみたのにな。


「火傷跡は気にしなくて良いのに……。」


「……でも、」


「うん?」


聞こえたか細い声。


「でも……嬉しかった。」


「……うん。」


「お揃い、嬉しかった。」


「……ふふ、そっか。」


「あぁ。…………でももしこの火傷跡のせいで夜魔が……夜魔が嫁に行けなかったりしたら、責任取るから。」


「うん…………え?」


「だから、安心してくれ。」


「…………え!?ちょ、轟くん!?」


責任…………って、自分が何言ってるかわかってる!?


焦る私もそのままに、轟くんは私を抱き締めたまま動かなかった。

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