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「苗字さんって佐久早くんと仲良いよね。」


「え?そうですか?」


「うん、高校の頃から知り合いなの?」


「知り合い……はい、一応。話したことは無かったですけど。」


へぇー!と声を上げる先輩達に縮こまる。仲良いって私程度で仲良く見えるのか、佐久早くんどんだけ周りと距離置いてるんだ。と少し笑ってしまう。


「付き合ったりしないの?」


「え!?」


「確かに!仲良いしそのままー、とか無いの?」


「いや……それは無いかと……。」


今度はえー!?と声を上げる先輩達にまたも縮こまる。何かにつけて恋愛に結びつけるのはやめて欲しい。


それは女子の先輩だけではなくて男子の先輩や同級生達や後輩に対しても思うことで、何かにつけて彼氏いるの?とか、誰々と付き合ってるの。なんて言ってくるのは少し苦しい。


…………恋愛は、暫くは。と言うかもう出来る気がしないぐらいにする気が起きないと言うか。


情けなくも未だに元彼が忘れられないので、そんな事を言われても苦笑いするしかない。誰だったんだとか言われると更に困ってしまって、


今やアドラーズに入団してる彼なんです、なんて言った日にはいつどこで彼に伝わるかわからないし、伝わってしまった時の惨めさと言ったら。


だから恋バナ基本的に滅法苦手で今日も私は逃げるようにして、先輩達に別れを告げた。





「なんだその顔。」


「…………え?」


聞こえた声に周りを見ると、こちらに近づいてくる佐久早くん。


「あ、……お疲れ様。」


隣に並び歩いて、共に家路に着く。


「お疲れ。なんかあったのか。」


「え?」


「顔が疲労にまみれてる。」


「まみれてるって……。」


淡々と告げる佐久早くんに、少し安心する。彼は私の苦手な話題を振ってこないでいてくれる数少ない友人だ。


「……恋バナって苦手なんだよね。」


「…………俺も。」


「ぽいよね。」


そう言うと深く頷き肯定した佐久早くんに笑う、物凄く自覚してらっしゃる。


「でも周りの人は好きな人多いし、男の人達にもすぐ彼氏いるのかいないのかとか聞かれて…………今日はそれが特に多くて疲れちゃった。」


「………………お疲れ。」


「へへ、ありがとう。」


不器用ながらもそう言った言葉をかけてくれる佐久早くんは意外と優しい。最初こそぶっきらぼうの塊だったけれど、今やこれくらいのコミュニケーションは取れるようになった。


「……その、なんで苦手なんだ。」


「え?恋バナ?」


「ん。」


「…………手酷いフラれ方をしまして。」


あはは、と苦笑いを浮かべると心做しか驚いてる様子の佐久早くん。


「え、どうしたの。」


「…………………………いや。」


「え、なになに、」


「…………フラれるんだな。お前でも。」


「…………フラれましたね。しかも浮気なのか二股なのかわかんないけど、他の子好きになったって言われて。」


そう言うと更に驚く佐久早くん。えぇ?


「な、なんでそんな驚くの。」


「…………苗字は良い奴、だと思う。」


「え?」


「それに容姿だって他のマネージャーより整っていると思う。」


「えっと……?ありがとう……?」


あまりにも客観的な言い方過ぎて褒められてるのかわからなくなる、とりあえずありがとう……?


「だから、そんなお前でもフラれるのかと驚いた。」


「な、なるほど…………。」


「…………忘れられねぇのか?」


その言葉に息が詰まる。そうだ、忘れられない。いつまで経っても、あれだけ酷いフラれ方したのに、


影山くんの笑顔が頭の中から消えた事は一度もないんだ。


「…………うん、忘れられない。今でも好き過ぎて困るぐらい。」


「…………………………そうか。」


「あはは、情けないよね。」


「……別に、忘れられねぇもんは仕方ねぇだろ。」


「……そうだね、ありがとう。」


「何がだ。……じゃあな。」


別れを告げられ、気づけば駅に着いていた事に気づく。


「うん、また明日ね!」


そう言って手を振り別れた佐久早くん。


彼との時間は心地よいし、仲の良い友人だと思ってる。頼み事や頼まれ事はお互い様で助け合う事もあった、しかしながら、


3年生になり、彼が神妙な面持ちで放った頼み事だけは素直に首を縦に振れなかった。


「ブラックジャッカルへ一緒に来て欲しい。」

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