※いい加減に の続きです
うわああ、もう、これ終わり見えなく無いか?え?センチピーダーも呆れて何も言えてない。えぇ……。
もはや終わりのない言い合いの中、私は焦凍くんとの楽しい日々に思いを馳せつつ暫く待ったが、一向に止まらない喧嘩。
………………帰りたいなぁ。
焦凍くんの待つ事務所へ、家へ帰りたい。焦凍くんも今きっと頑張っているだろうが、向こうの方が早く終わりそうな案件だった。
優秀な焦凍くんが行けば瞬殺だろう、だからきっと私が帰る頃には焦凍くんが待ってるはずだ。
おかえり、って。優しく微笑みながら言ってくれるはずだ。
………………早く、帰りたい。
その気持ちから私は、何より早く仕事を終わらせて家に帰ることを最優先として動くこととした。
なので、まずは。
「…………………………いい加減に、しなさい。」
骨を折らないように個性は使わなかったが、悪いがこちとら脳筋ゴリラ。素の力でも痛みぐらいは与えられる。
「す、すいません!!ヒーロー名!!」
「…………チッ。」
なんとか言い合いを辞めてくれた2人の肩から手を離す。
「……助かりました、ヒーロー名。すいませんうちのサイドキックが。」
「……いえ、話を進めましょう。」
頭を下げたセンチピーダーに頭を振り、促されるままソファーに腰かける。
そこで今回私達がチームアップの要請を受けた任務の内容を聞いた。
ざっくりと言えば、人質救出。
ここ数日、人攫いに身代金を巻き上げられると言う事件が多発していて、その発生範囲が重なっているとの事。
それを怪しいと踏んだセンチピーダーが捜査していたところ、恐らく同一犯の仕業で、そいつらのアジトらしき建物まで突き止めたそうだ。
しかしながら、何人の構成員がいるのか。また戦闘力や個性など分からない部分も多く、本来ならばもう少し時間をかけて捜査して行きたいところだったが、
今現在も何名か行方不明者の報告が入っており、またも被害者が増える前に動きたいが故、派手な陽動としてチームアップを要請したとの事だ。
それならば爆豪くんは適任だったな、ジーニストは内容を聞いて彼を派遣したのかもしれない。
「なので、構成員達を民間人の避難が済んだ外へと連れ出し、私達が人質を保護するまでの間陽動として動いて貰うことが今回の任務内容となります。」
「……了解、構成員の捕獲は?」
「出来ることならお願いしたいですが、なんせ人手が足りない。なので、出来るだけ気絶を狙って、取りこぼしは包囲する警察官達にお願いしましょう。」
「了解。」
こんな時、焦凍くんがいたら捕獲までスムーズなのにな。なんて、離れていても焦凍くんの事ばかり考えてしまって恥ずかしくなる。
「要するに派手に暴れときゃ良いんだな?」
「はい、出来るだけ分かりやすくお願いします。」
「わぁーった。」
作戦内容を理解し、警察への連絡も済ませて私たちはヴィランのアジトへと向かった。
◇
『準備完了しました、そちらのタイミングでお願いします。』
無線から聞こえるセンチピーダーの言葉を聞き、後ろで控える爆豪くんを見る。
ここはアジトの正面入口。恐らくここで暴れれば何名で構成されているか知らないが、それなりの人数が応戦する為に出てくるだろう。
中々に気合いを入れなくては。と思ったのに、振り返って見た爆豪くんはなんとも、……なんともわくわく。とした表情で固まってしまう。
「………………爆豪くん?」
「あ?大・爆・殺・神ダイナマイトだ!!」
「あ、ごめん…………ダイナマイト、準備良い?」
「あぁ、いつでも良い。……新技たっぷり仕込んできたんだ、早く試してぇ……!」
……あれだな、戦闘狂だ。私とは違う人種だな。
「……じゃあ、始めるよ。」
無線を通して、センチピーダーにも伝える。
「センチピーダー、始めます。」
『了解。』
腕に圧力を込めて、放つ。
ドゴォン!!と正面入口を破壊した所で、ダイナマイトと待ちぶせる。
「お前の仕事はねぇかもな、ヒーロー名!」
「……どうだろう、どれだけ成長したか見せてもらおうかな。」
彼がまだ高校生だった頃と重ねて見ると、一回りも二回りも大きくなった体。
…………これが、未来を守ることか。
立派なヒーローを世に送り出す。後輩の育成というのも中々良いかもしれない、コミュ障なので無理だけど。
なんて感慨深く彼を見ていると、騒々しく聞こえる足音たち。
「お出ましだぜ、爆風に巻き込まれてもしらねぇからな!」
「そんなヘマしないよ、……気絶程度って覚えてる?」
「知らねぇな、加減が効かなかったって言っときゃいーだろ!」
そう言って放った初撃は、多くの構成員を吹っ飛ばして動かなくした。え、ちょ……。
「き、気絶だって!!再起不能じゃないって!!」
「あ?加減が効かなかった。」
用意された言い訳。おい。完全に悪い顔して笑ってるダイナマイトは、本当にヒーローなのか怪しい。
「お願いだから加減して、私のようにならないで。」
「……あれか?意識不明の重体常習犯。」
「……………………そう、それ!!人間クラッシャーとか呼ばれるようになるから、」
「ハッ!!良いあだ名じゃねぇか!!」
とち狂ってんな。人間クラッシャーと呼ばれる私がドン引く大・爆・殺・神ダイナマイト。
次々に現れる構成員達に爆破を浴びせ続けるダイナマイト。私は彼の爆破をすり抜けた残党を確実に仕留めていく。
すると聞こえた無線。デクとルミリオンからで、人質達の保護に成功したとの事。
「聞いてた?ダイナマイト!!」
「あぁ!あとはこいつらぶっ飛ばせば終わりだってな!!」
そう言って派手に爆破を繰り返すダイナマイト。本当に攻撃力の塊、見ていてなんとも清々しい。
しかしながら彼も無尽蔵に爆破を繰り返せる訳では無い、彼が一度地に降り立ち、呼吸を整えているこの間。
やはり狙ってくる構成員、ただのモブでいてくれる訳でもない。
「っ、ダイナマイト!」
周囲の状況、私のモーションから動きを読んで、咄嗟に身を屈めたダイナマイト。
その読みの鋭さ、反応の速さ。高校生の時から凄いと思ってた。
協調性なんか無くたって、彼はきっとやって行ける。
無意識下で笑みを浮かべながら、私はダイナマイトの後ろに潜んでいたヴィランに回し蹴りを食らわせた。
◇
「おら!!見てねぇでさっさと帰れ!!」
「きゃー!!ダイナマイト!!こっち向いて!!」
「うっせぇ!!」
大量に捕獲したヴィラン達の引渡し作業をしていると、規制が段々と緩和され、民間人の目に晒される。
すると、私が思っていたよりずっとダイナマイトは人気ヒーローらしく、先程から女性の黄色い声や、お子さんのきゃっきゃと喜ぶ声が聞こえる。
「……人気者、だね。」
「あぁ?んなの野次馬だろ、きゃーきゃーうるせぇ。」
「まぁまぁ…………そう言わず……。」
「そう言わずって、日頃メディアやファンをガン無視してヴィラン殴ってるやつに言われたかねぇわ。」
「ヴァッ…………。」
ごもっともだ、本当に。私の発言力の無さよ。
「ダイナマイト!ヒーロー名!!確保お疲れ様です!!一言貰えますでしょうか!」
「あぁ!?言うことなんざねぇよ!!」
ごめんなさい、私もこの過激派と同じ意見です。ぺこりと頭を下げるに留まり、引渡し作業に戻る。
「お二人共、見事なコンビネーションでした!普段から仲は良いのでしょうか!?」
「ダイナマイトはヒーロー名を庇うような動きが多かったように見受けられますが、その辺りは、」
「ヒーロー名もダイナマイトの動きに合わせた見事な連携でしたが、お二人はどのようなご関係、」
何故だろう、こんなにダイナマイトとの仲を聞かれるのは。
それだけダイナマイトが日頃共闘をしないから、だろうか。彼もまたメディアへの露出はそこまで多くない。大体が単独任務だとどこかで聞いた。それ故に今回の共闘は珍しく、何かの理由でもつけたいのだろうか。
しかしながら…………
「ば……だ、ダイナマイト…………落ち着いて…………。」
「……これが、落ち着いて、いられるかぁ!?」
ガアアア!!と怒り始めたダイナマイト。
「ヒーロー名との関係だぁ!?お前らが想像してるようなもんじゃねぇよ!!会ったのだって数年ぶりだ!!」
うんうん。と頷く。そんな関係何も無いんです。私とショートについては何も聞いてこないのに、何故ダイナマイト。
「それにしては連携が取れていましたが、お二人の関係は!?」
「…………ヒーロー名は!!」
ぐい、肩を抱くようにして引き寄せられる。え、ちょ、
「戦闘においての…………見本だ!!」
…………み、見本。
「見本…………という事は、ダイナマイトはヒーロー名をリスペクトした技や動きを使っているという事ですか!?」
「それがどうした!!見てればわかんだろんなもん!!」
「え、…………。」
知らなかった、そんなの。
「……っいつか見本も超えて見せるからな!!お前が俺を真似する日がすぐに来る!!」
「…………ふふっ、……そうかもしれないね。」
「笑ってんじゃねぇぞゴラァ!!」
「っでは!!ヒーロー名から見たダイナマイトとは!?」
え。
えー…………。
ギロリ。睨むようにして私の答えを待つダイナマイト。そろそろ離してくれないだろうか、その鋭い眼光が怖いよ。
「…………私にとってのダイナマイトは、」
思い起こすのは雄英での1週間。
「………………………………生意気な、弟子です。」
私の放った言葉に目を丸くしたダイナマイト。その写真を使った記事が、次の日の朝刊に載ることとなった。
そして
「……なぁ。近くねぇか?」
「ヴッ……。」
「肩抱かれてるし、こんな写真も出回って…………ネット上じゃダイナマイトとヒーロー名はデキてんじゃねぇかって言われてんだが。」
「ヴッ……………………。」
「……どういうことか、説明してくれるよな?」
事務所の椅子に座る焦凍くんの前で、床に正座する私。
説明、と言っても。記事の通りで、ただの弟子としか思ってないのだけど、
「…………………………。」
この静かに冷めきった視線を送ってくる焦凍くんに、はたしてそれが通用するのかどうか。
私は止まらぬ冷や汗もそのままに、彼に頭を垂れるのだった。