純粋な応援

「……よし、行こうか。」


「あぁ。」


2人で外へ出て、事務所の鍵を閉める。これから日課のパトロールだ。


…………まぁ、パトロールに専念出来るのは私だけなんだけども。


「……あ!!ショート出てきた!!」


「きゃああああ!!本物!!」


「……………………今日も凄いね。」


「…………段々凄くなってきたな。」


悲鳴や咽び泣く声を聞いていると、なんか、もう、ショートは神様か何かかな?と思えてくる。拝まれてるし。


「最近テレビとか、CMへの出演も増えてきたからその影響もあるのかな。」


「…………………………辞めるか。」


「い、いやいや…………応援される事もファンが着くことも凄く良い事だよ。」


と言いつつ、いつものように周囲へ目を向けながらパトロールするが、如何せん。ショートと一緒にパトロールすると、女性の歓声や、喜ぶ子供の声などに掻き消されて、助けを求める声が聞こえにくい。


うーん…………ショートをパトロールから外すのも、ひとつの手かもしれないな。


「あ、あの!!サイン貰えませんか!!」


「……パトロール中なので、ちょっと、」


「1枚だけで良いんです!!お願いします!!」


「あの、ちょ、」


「写真一緒に撮ってもらっても良いですか!?!?」


「だ、だめです、」


あー……………………。


またこうなってしまったか。完全にショートしか見えていないファン達に、少しだけ溜息をついて、建物の屋上へと向かう。


下から見守ることが出来ないのなら、上から見守れば良い。


エンデヴァーの教えだ。交通量が多かったり、サイドキックのファンが来てしまった時などは、こうして上からパトロールしていた。


とは言え、いつも置いてきぼりにしてしまっているのも申し訳ない。…………ファンたちが落ち着くまで待っていようかな。





ヒーロー名は完全に待ちの体制に入った。ファンサービスを優先しろ、という事だろうか。


「…………はぁ。」


足を引っ張ってる、気がする。


ヒーローも人気商売とは言うが、ここまでしないといけねぇのか?それともこのファンたちのマナーが悪すぎるだけなのか?


「…………あれ?ショート、ひとり?」


いつの間にか列が出来ていて、サインやらなんやら対応している内に現れた子供。


しゃがみこんで、目線を合わせる。


「ひとりじゃねぇよ、ヒーロー名と一緒だ。」


「僕、ヒーロー名にサインもらいたかったなぁ。」


「……え?」


「こら!!もう、すいません。うちの子ったら……ヒーロー名はファンサービスとか苦手ですよね?」


すいません、と申し訳なさそうに笑った母親。


確かにヒーロー名はファンサービスとか苦手だ、でも、純粋に応援してくれる人のことは大切にしている。それはずっと前から変わらないスタンス。


「……いえ、ちょっとまっててください。」


無線を使ってヒーロー名に声をかける。


「ヒーロー名?」


『うん?……あぁ、急がなくて良いからね。今のところ異常は、』


「違ぇ、ヒーロー名にサイン書いてもらいてぇ男の子がいる。」


『……………………人違いじゃない?』


「ふふっ、ちげぇよ。だってヒーロー名のグッズのTシャツ着てる。」


『あれ買う人いたんだ……。』


相変わらず自身の人気の高さがわかってない人だ。不気味なヴィランクラッシャー、でもその実は酷く優しくかっこいいヒーロー。俺の憧れた人は、今だってちゃんとかっこいい。


「降りてきてくれ、サイン。書いてやってくれよ。」


『……了解。』


そう言うと目の前に風と共に降りてきたヒーロー名。


「わ、…………わぁあああ!!!本物だ!!!」


「え、ええええ!!!い、いいんですか!?」


「…………私なんかで良ければ。」


そう言って子供が差し出したペンと色紙を受け取り、サインを書くヒーロー名。


あんまり書かないよな、なんて言ったらもう忘れちゃったかも。なんて返してきたくせに。ペンを走らせる動きに迷いは無い。


「ありがとう!!ヒーロー名!!」


「いえいえ。」


「……え!?ヒーロー名サイン書いてくれるの!?まじ!?」


「私も!!」


「俺もー!!」


ありがとう、ヒーロー名。その言葉が伝染病のように伝わり、大きな波を呼んでしまう。


しかしそれより速くヒーロー名は天に。


「ヒーロー名!?」


「聞こえた。」


「え?」


仮面の下はきっと、凛々しく前を見据えているのだろう。


「救けを求める声がした。」


それを最後に、物凄い勢いで空を翔けて行ったヒーロー名。


それを慌てて追いかける。今日だってやり過ぎるかもしれねぇ、警察に怒られるかもしれねぇ。


いつだって、人の為を優先してしまうヒーローのストッパーになってやらなきゃいけねぇんだから。

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