「……よし、行こうか。」
「あぁ。」
2人で外へ出て、事務所の鍵を閉める。これから日課のパトロールだ。
…………まぁ、パトロールに専念出来るのは私だけなんだけども。
「……あ!!ショート出てきた!!」
「きゃああああ!!本物!!」
「……………………今日も凄いね。」
「…………段々凄くなってきたな。」
悲鳴や咽び泣く声を聞いていると、なんか、もう、ショートは神様か何かかな?と思えてくる。拝まれてるし。
「最近テレビとか、CMへの出演も増えてきたからその影響もあるのかな。」
「…………………………辞めるか。」
「い、いやいや…………応援される事もファンが着くことも凄く良い事だよ。」
と言いつつ、いつものように周囲へ目を向けながらパトロールするが、如何せん。ショートと一緒にパトロールすると、女性の歓声や、喜ぶ子供の声などに掻き消されて、助けを求める声が聞こえにくい。
うーん…………ショートをパトロールから外すのも、ひとつの手かもしれないな。
「あ、あの!!サイン貰えませんか!!」
「……パトロール中なので、ちょっと、」
「1枚だけで良いんです!!お願いします!!」
「あの、ちょ、」
「写真一緒に撮ってもらっても良いですか!?!?」
「だ、だめです、」
あー……………………。
またこうなってしまったか。完全にショートしか見えていないファン達に、少しだけ溜息をついて、建物の屋上へと向かう。
下から見守ることが出来ないのなら、上から見守れば良い。
エンデヴァーの教えだ。交通量が多かったり、サイドキックのファンが来てしまった時などは、こうして上からパトロールしていた。
とは言え、いつも置いてきぼりにしてしまっているのも申し訳ない。…………ファンたちが落ち着くまで待っていようかな。
◇
ヒーロー名は完全に待ちの体制に入った。ファンサービスを優先しろ、という事だろうか。
「…………はぁ。」
足を引っ張ってる、気がする。
ヒーローも人気商売とは言うが、ここまでしないといけねぇのか?それともこのファンたちのマナーが悪すぎるだけなのか?
「…………あれ?ショート、ひとり?」
いつの間にか列が出来ていて、サインやらなんやら対応している内に現れた子供。
しゃがみこんで、目線を合わせる。
「ひとりじゃねぇよ、ヒーロー名と一緒だ。」
「僕、ヒーロー名にサインもらいたかったなぁ。」
「……え?」
「こら!!もう、すいません。うちの子ったら……ヒーロー名はファンサービスとか苦手ですよね?」
すいません、と申し訳なさそうに笑った母親。
確かにヒーロー名はファンサービスとか苦手だ、でも、純粋に応援してくれる人のことは大切にしている。それはずっと前から変わらないスタンス。
「……いえ、ちょっとまっててください。」
無線を使ってヒーロー名に声をかける。
「ヒーロー名?」
『うん?……あぁ、急がなくて良いからね。今のところ異常は、』
「違ぇ、ヒーロー名にサイン書いてもらいてぇ男の子がいる。」
『……………………人違いじゃない?』
「ふふっ、ちげぇよ。だってヒーロー名のグッズのTシャツ着てる。」
『あれ買う人いたんだ……。』
相変わらず自身の人気の高さがわかってない人だ。不気味なヴィランクラッシャー、でもその実は酷く優しくかっこいいヒーロー。俺の憧れた人は、今だってちゃんとかっこいい。
「降りてきてくれ、サイン。書いてやってくれよ。」
『……了解。』
そう言うと目の前に風と共に降りてきたヒーロー名。
「わ、…………わぁあああ!!!本物だ!!!」
「え、ええええ!!!い、いいんですか!?」
「…………私なんかで良ければ。」
そう言って子供が差し出したペンと色紙を受け取り、サインを書くヒーロー名。
あんまり書かないよな、なんて言ったらもう忘れちゃったかも。なんて返してきたくせに。ペンを走らせる動きに迷いは無い。
「ありがとう!!ヒーロー名!!」
「いえいえ。」
「……え!?ヒーロー名サイン書いてくれるの!?まじ!?」
「私も!!」
「俺もー!!」
ありがとう、ヒーロー名。その言葉が伝染病のように伝わり、大きな波を呼んでしまう。
しかしそれより速くヒーロー名は天に。
「ヒーロー名!?」
「聞こえた。」
「え?」
仮面の下はきっと、凛々しく前を見据えているのだろう。
「救けを求める声がした。」
それを最後に、物凄い勢いで空を翔けて行ったヒーロー名。
それを慌てて追いかける。今日だってやり過ぎるかもしれねぇ、警察に怒られるかもしれねぇ。
いつだって、人の為を優先してしまうヒーローのストッパーになってやらなきゃいけねぇんだから。