いい加減に

キリキリキリキリ。胃が痛む。


「あぁ!?うっせぇんだよ!!」


「か、かっちゃん……!!」


「なんですってぇー!?」


なんだこの混沌は。


キレる爆豪くん、慌てる緑谷くん、キレ返すバブルガール。


そして溜息をついてるセンチピーダーに、


「あははは!!これは中々楽しくなりそうだ!!」


「どこがだ!!」


「かっちゃぁん!!」


楽しそうに笑い声を上げる通形くん。


帰りたい…………帰りたいよ……焦凍くん……。


あまりのカオスに、焦凍くんが恋しくなってしまう。しかしながら彼は今ここにはいない。


何故こんな事になっているのか、時は遡ること数週間前。





「………………チームアップの要請増えてきたな。」


「そうなのか?」


「うん…………ショート名指しも結構ある……あの規模の広範囲攻撃出来るヒーローなんて、そんなに多くないからね…………。」


彼は非常に頼りになる、が故に他の事務所からも頼られる。まぁそれは人気ヒーローの運命。


「……俺の個性で役立てるなら、行きてぇ。」


「そうだね……そろそろ焦凍くん1人でチームアップ行ってきてもらおうかな。」


1人でも充分対処に当たれるようになってきた。そろそろ良いだろう、そう踏んだ私は要請の中で彼を指名しているもの、


そして、出来れば彼の友人がいるところを、と選び彼に行ってもらうこととした。


なので今彼は保須市へ、マニュアルとインゲニウム達との任務に当たっている。


そして取り残された私は、自分へ来ている要請の中で直近での依頼を承諾し、向かうこととした、の、だが。


書いてあったのは、センチピーダーヒーロー事務所からの依頼。事務所のプロヒーロー達の応援、と書いてあり、要請されていたのは私とジーニストの事務所。


それぞれ1名ずつで、私の場合は名指しだったが、ジーニストの方は指名されておらず、まぁ優秀なサイドキックも多い事だし、きっと頼れるヒーローが。と、思ってきたのだが。


やって来たのは大・爆・殺・神ダイナマイト。何故。何故ですかジーニスト。


そしてセンチピーダーの事務所へやって来た彼にバブルガールも驚いてしまい、


「な、なんで彼が……!?協調性無さそうだけど大丈夫かな!?」


と緑谷くんに小声で話しているのを彼が聞いてしまい、大暴れ。


それに対してバブルガールも頭に血が上ってしまい、言い返してこうなった。


私は既にこの状態になった後に事務所へやって来たので、入った瞬間怒号が飛び交っていて、固まってしまった。


そしてかれこれこの状態が数十分続いていて。このチームは大丈夫かと心配になり胃が痛くなる。





「か、かっちゃん!!そろそろ辞めなよ!!」


「あぁ!?何をだ!!あいつが失礼極まりねぇこと言ったからこちとらキレてんだろうが!!」


「いやいやいや、まぁ、それは、バブルガールもいけなかったとこもあるけど、」


「何!?緑谷くん私が悪いと思ってるの!?」


「い、いいいやいや、ち、違くて!!」


駄目だ、2人とも頭に血が上ってる。僕の声がろくに聞こえていない。


だが僕が焦るのはちゃんと理由があって。話を聞いてもらわなければ。


「か、かっちゃん!!」


「あぁ!?うっせぇんだよクソデク!!」


「ち、違うんだ!!…………ヒーロー名、事務所来てから1度も声出してないんだよ!!」


かっちゃんを引き寄せて、小声で伝える。すると弾かれたように事務所の入口を見たかっちゃん。え……?まさか気づいてなかったの……?


「…………いたのか。」


気づいてなかったー!!


「そうだよ!!割と前からいたよ!君たちがずっと言い合ってて……その間ずっとあのままだ、動かずずっとあそこにいて……」


絶対怒ってるよヒーロー名……!!!


いくら温厚なヒーロー名と言えど、仕事しに事務所へ来たと言うのにこの有様じゃ、怒っても仕方ない。なんたってヒーロー名は仕事の鬼だ。仕事の速さ、効率を重視する仕事の鬼。なのにこんな時間無駄でしかない……怒る要素でしかない。


「……別にヒーロー名がキレたところで怖くもなんとも、」


「そういう問題じゃないよね!?!?ヒーロー業界の後輩として、そういう態度取っちゃ駄目だよね!?」


「チッ……うっせぇな!!」


「ほらそう言うとこ!だから協調性無いって言ってんのよ!!」


「…………あぁ?」


「あああああバブルガール!!!」


もう辞めてくれ。ピクリとも動かないヒーロー名が怖すぎるんだ、そして通形先輩はなんでずっと笑ってられるんだろう?元気とユーモアって言っても笑っておけば良いわけじゃないですよね!?!?


「やっぱりあなたじゃ役不足よ!!ジーニストさんの元へ戻りなさい。」


「あ!?俺が任務の足引っ張るとでも?んなもんするのはテメェの方だろ!!」


「なんですってぇ!?」


「ああああもう!!2人とも!!」


キレる2人に挟まれて、もうやめてよ!!と思った時。ふっ、と風が吹き


気づけば目の前にヒーロー名が。


「……あ?んだよ。」


「すいません、ヒーロー名さん。でもこのクソガキだけは、」


グキっ


「「……!!?」」


ヒーロー名の手は2人の肩に乗せられていて、力を加えられたのだろう。2人とも痛みに顔を歪ませている。


「…………………………いい加減に、しなさい。」


そう呟いたヒーロー名は、今日も変わらず仮面で表情が見えなかったが、


やはり僕の思った通りではないか。と強者の怒りにガタブル震えた。

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