「……ほら、親父も言ってただろ。親睦を深めるためのパーティーだって。」
「………………なんの?」
「なんのって……。」
「私、……ヒーロー界での友達なんかいらない。…………ショートさえいれば良い……。」
「そんな可愛いこと言っても駄目だぞ。」
「ぐぅっ……。」
前まではこれで色々と流されてくれたのに。いつから通用しなくなったんだ。
「ほら、もう行くぞ。服とか色々親父の方で準備してくれてんだから。」
「だって!!た、たぶん用意したのバーニンだよ、」
「……?それがどうかした、」
「バーニンの選ぶ服は!!い、いつも!!面積が小さいんだ!!」
何度騙されたことか。苦手ながらも何度か潜入任務にあたったことがある。その際にバーニンが選んだスーツやドレスを身にまとってきたが、どれもこれもやらしい感じの衣装ばかりで、何着か塵にした。
「バーニンは私を馬鹿にしてるんだ…………絶対今回だって、」
「……まぁ内容は見てから考えるけど。とりあえず行くぞ。」
「聞いて!!焦凍くん!!聞いて!!」
「あぁ、聞いてる。」
「嘘!!」
◇
「連れてきたぞ、親父。」
「あぁ、よく来たな。……何をむくれているんだヒーロー名。」
「バーニンが選んであろう服を着たくないらしい。」
「…………今までも何度か揉めていたしな。その点は一応注意するようバーニンにも伝えてある。」
「ほ、……ほんとですか…………!!」
流石ボス!!オーマイボス!!!
「そーだよ、だから本当は背中全開きのスリット入りドレスにしてやろうと思ったけど、」
「それ上半身の前しか守れてない!!」
「別に隠れてるなら良いじゃんか、コスチュームじゃあるまいし。」
駄目だ、やはり分かり合えない。
バーニンのように女性らしい体つきをしているのなら良いだろう、メディアへの対応も上手で自分に自信があるのなら良いだろう。だがしかし私は。
体は筋肉質で、引っ込み思案なコミュ障。終わってる。
「……とりあえず今回の親睦会は、そんな硬っ苦しいものではない。見知った連中しか揃わないしな。」
「だが、ランキング上位のやつらが揃うパーティーだ。まだ事務所を構えて数年のお前を見に来るやつもいるだろう。……見られても恥ずかしくない格好、佇まいをしろ。」
「ヴッ………………はい。」
「じゃあ時間もあんまり無いし、準備するよヒーロー名!!」
「ショートくんはこっちね!」
「はい。」
◇
「ば、バーニンは準備しなくて良いの……?」
「私はあとドレス着るだけだから平気!!それよりあんたにこの服渡しても1人じゃ着れないだろうから、面倒見るのが先!!」
「す、すいません……。」
バーニンに化粧を施されたり、髪をセットしてもらっている間、やはり緊張してしまう。
そもそも仮面ありきで接してきた人達だ。それをこの素顔を晒して、こんなおめかしして………………消えたい。
しかも隣に並ぶのは、超絶美形な焦凍くん。釣り合わなさすぎて既に泣きそう。
はぁ。と溜息をつく度にバーニンから幸せ逃げるぞー!!と言われながら、準備は滞りなく進んだ。
◇
あと靴履くだけだから、適当なとこで履いとけ!!と言われ、高いヒールのある靴を片手に事務所へ戻ってくる。
それにしても……なんだこのドレスは…………。
白地に赤の刺繍。花や蕾を連想させる可愛らしいデザインではあるが、色。色が、あの。白と赤って。
それに靴も派手すぎない赤で染まっており、踵には小ぶりなリボンが結ばれている。
可愛すぎるし、めっちゃショートだし。
うぐ…………と恥ずかしい思いと、……悔しいけど嬉しさが重なってもやもやする。頭を抱えたくなるが、セットしてくれたのに崩せない。私が燃やされる。
適当なソファーに座って、この靴どう履くんだ……と睨めっこしていると、
「………………ヒーロー名?」
「っ!!」
慌てて振り返れば、焦凍くん。
ひぃ…………かっこよ………………あれだな、撮影終わりみたいだ、5割増でかっこいい。
「…………終わったのか?」
「あ、うん…………あと靴履くだけ。」
「そっか。………………その、」
「うん?」
目線を落として、きょろきょろ。
そして意を決したように目線を戻して、
「…………すげぇ、綺麗だ。」
「………………!!!」
彼の赤い顔が、こちらにも移る。恥ずかしくて思わず俯いた。
「あ、ありがと…………。」
「っふふ、2人してこんな格好するなんて、変な感じだな。」
「ほ、ほんとだよ…………早く寝巻きに着替えたい。」
「あの首元がびろびろに伸びたやつ?」
「そう。」
「あれそろそろ捨てろよ。」
「え!?や、やだよ…………お気に入りだもん。」
「新しいの買いに行こう。」
「…………それも魅力的だけど………。」
焦凍くんとのお買い物もとても楽しいから、むむ。と考え込むとまた彼は楽しそうに笑った。
「……この靴履くのか?」
「あ、うん、そう。」
「貸して。」
「うん……?」
真っ赤な靴を攫われて、私の前に片膝ついた焦凍くん。
こ、これは………………シンデレラぁっ…………。
「だだだだだ、大丈夫!!じ、自分ではけ、」
「うお。大人しくしてろ、これなんか複雑な靴だぞ。」
「え、……そうなの?」
「あぁ。なんか紐がすげぇ。」
なんという事だ。なんでそんなもの私に渡したバーニン。あやうく上手く履けなくて苛立った私が紐を引きちぎるとこだったじゃないか。
「……よし、足貸して。」
優しく足を掬われて、靴に誘導される。
そして紐やらリボンやらを結んで仕上げていく焦凍くん。
わ、私は彼に何を…………一体何をさせているんだ……。
「……ん、出来た。」
「ありがとう、……なんかごめん。」
「いや。…………それにしても、」
頭から足までじっくり見られて
「…………俺色だな。」
「ヴッ……あ、その……私も思った…………。」
「ふふっ、嫌か?」
「い、嫌じゃないよ!!その、」
ちゃんと言葉にして伝えられないけれど、私は、私の心は焦凍くんの物だって言えてるみたいで、
「…………身につけてて、誇らしい色だよ。」
「……そっか。」
優しく微笑んだ焦凍くん。
「ちょっと歩いてみるか?ヒールなんて日頃履かねぇだろ。」
「う、うん。」
焦凍くんが差し出してくれた手に手を重ね、よいしょ。と立ち上がる。
「う、わ…………」
やはりと言うべきか。潜入捜査以外ではよっぽど履かないヒール。上手く足が前に進まない。
「大丈夫か?」
「なんか……あれだ…………竹馬…………。」
「ぶっ。竹馬って!!……どっちかって言うと逆だろ!」
た、確かに。それはそうなんだけど、それほどに歩きにくい!!痛い!!って言うか焦凍くんは笑いすぎ!!
「うわっ!?」
「うおっ。」
竹馬のことを考えたりしたからだろうか、ヒールが滑り転けそうになって、焦凍くんに抱きつく。
「あっぶな…………。」
「……………………パーティーで、こんな感じで男に抱きついたりとかするなよ。」
「ふ、不可抗力過ぎるよ!?」
「嫌ならずっと俺の隣にいてくれ。」
そう言って無邪気に笑った焦凍くんは、それが私にとって嫌がらせにでもなると思っているのだろうか。
「そんなの、……当たり前、…………じゃん。」
あぁ、また顔は赤くなってるだろうな。焦凍くんこっち見て嬉しそうに笑ってるから絶対そうだ。もう……。
「……ほんと、綺麗すぎるな。」
そう呟くと、焦凍くんは顔を近づけて、え、ちょ、
「………………ちょっと我慢してくれ。」
「は、ちょ、なに、」
耳元で声がしたかと思えば、首筋に柔らかな感触。
「んっ!?」
擽ったくて身をよじるが、焦凍くんに押さえつけられ動けない。
「な、なにして、っ!?」
ぢゅっ。そんな音と同時に鋭い痛み。
「………………ん。」
「ん、じゃ、な、なくて…………!!!なに、いまの、」
最後痛かったんだけど……!?か、噛んだ!?噛まれた!?なんで!?
「あー………………虫、除け。」
「虫除け!?」
なんだそれ。赤くなったりしてないと良いけど……。
「そろそろ親父たちも準備終わったんじゃねぇか?」
「そ、そうだね…………行こっか。」
なんとも納得がいかないというか、意味がわからないままだったが今はそれどころじゃない。
私は焦凍くんに縋り付くようにして、高いヒールを響かせた。