ギャップ

机に肘をつき、その手が頬に触れている事でむにゅ。と柔らかそうな頬が零れている。


キャスター付きの椅子の上で胡座をかき、白くそして適度に筋肉のついた足を露出させていて、


更には首元が伸びてしまっているTシャツを着ているため、胸元が…………。


非常に目に悪い。見てられねぇ。


未だに2階へと戻ってきていなかったので、風呂上がりに様子を見に来たが……目を逸らしてしまう。


普段の丁寧な物腰から一転した、なんとも行儀の悪い格好に胸が高鳴る。これがギャップと言うやつか。


それに、それ以上にまずいのはあのTシャツだ。何回洗ったんだあれは。


今まで見てきたヒーロー名の言うだらしない面と言うのは、ただただ可愛くてその度強く抱き締めてしまってきたが、今回ばかりは抱き締めるだけでは済みそうにないので、近づくことすら慮られる。


「あれ?…………焦凍くん?」


ば、バレた。不思議そうな顔をしてこちらに首を傾げてるヒーロー名。可愛い。


「あ、あぁ…………まだ戻ってきてねぇなって思って。」


「あ……うん、まだ事務処理終わってなくて。…………あ、でももうすぐ終わるから!!」


「本当か?」


「ほ……本当!!」


嘘だなこれは。なんとも素直な所長に笑ってしまう。


放っておくと俺が片付けてしまうから、きっとそれを考慮して嘘ついているのだろうが、


「今日はもう終わりだ。」


「ま、まって……あと少しなの!」


「嘘だな、ヒーロー名がそう言う時は大抵あと少しじゃねぇだろ。」


「…………ヴッ。」


ほらな、素直過ぎる。


いつものように抱き上げて階段へと向かうが、


「た、たまには自分で…………。」


そう言ってむくれているヒーロー名を見ると、隙間から、み、みえ………………


「っ!」


慌てて顔ごと視線を逸らす。いくら彼女だからって何したって良いわけじゃないし、それに俺が1番危ないんだ、…………危なかった。


「…………ほら、もう寝るぞ。」


「…………焦凍くん、明日何時に起きる?」


「え…………なんで?」


「………………………………なんでもない。」


なんでもなくないな、これは。何する気だ。


…………俺より早く起きて、残った事務処理終わらせるつもりか。


そうはさせない、結局早起きしてしまったら休んでもらう時間が減る。それが駄目なんだ、休む事が苦手なこの人には。


ベッドに寝かせて、俺も横になり布団をかける。


「俺より早く起きて仕事してたら怒るからな。」


「!?」


びっくりしたように目を見開くヒーロー名。一体何回このやり取りを繰り返せば良いんだ俺は。


「ちゃんと休んでくれ、日中働き過ぎだ。倒れてもおかしくない。」


「…………でも、…………エンデヴァーの事務所にいた時も…………こんな感じだったし…………。」


「それで何回も玄関で寝てたんだろ。」


「ヴッ…………。」


「事務所立ち上げてからも何回もあったよな?」


「ヴッ……………………。」


違う、怒りたいんじゃない。落ち込んでごめんなさい、と呟くヒーロー名を見て罪悪感が湧く。


もっと自分を大事にして欲しいんだ、俺の事ばかり大事にしていないで。


もっと、もっと頼って欲しい。現場での戦力ではやはり今では力不足だからその他の面だけでも。


そう話してるのに、中々首を縦に振らないヒーロー名にそんなに頼りないのかと悲しくなる。


「…………怒ってばかりで、ごめん。」


「そ、……そんな!!焦凍くんは全然、」


そう慌てたようにヒーロー名が言った瞬間鳴り響いた着信音。


音を辿ればヒーロー名の通信機器。現場以外では腕時計式の無線へと連絡が来ることとなっており、ヒーロー名の腕からその音は鳴っていて


「こちら、ヒーロー名。」


先程まで横になっていたのに、瞬時に布団から抜け出し既にベッドの上で片膝を着いて、臨戦態勢を取っているヒーロー名。


……は、早ぇ。そう思ったのも束の間、了解。の一言の後に寝室を飛び出すヒーロー名。


「ちょ、……おい!!ヒーロー名!!」


「緊急連絡来て、ヴィラン暴れてる。ショートは待機、他にも緊急連絡来たら対応よろしく。」


「わかった、…………そうじゃなくて!!いい加減休めよ、」


そう叫ぶと、こちらに近づいてきたヒーロー名。


「あんたが心配なんだ、……またたおれたら」


ぐい、と胸倉を掴まれて強引に唇を重ねられる。


…………………………は?


「ごめん。小言は帰ってから沢山聞く。あと…………やっぱり事務処理頼んでも良い?」


そう困ったように眉を下げながら笑ったヒーロー名。


…………………………しかも、頼るのか。


「…………わかった。」


「ごめんね、…………心配かけて。帰ったらちゃんと休むから。」


「約束だぞ。」


「うん、必ず。」


そう頷くと、仮面とマントを身につけて夜に消えたヒーロー名。


今日も人を助けるためなら自分を顧みない彼女に、溜め息が止まらない。


それでも、そんな無茶苦茶な姿にもかっこいいと思ってしまうのだから、俺は相当彼女にやられてる。

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