責任感じた姉ちゃんもどき

「うわぁ……漢字は満点なんだけどな……」


そう言われながら見られる答案用紙


赤点回避、出来なかった。しかしこれはこれだ。諦める訳にはいかない。


「走って行くか?」


「いやチャリだろ」


「諦めてねぇなぁ!?」


「お前達、赤点は一つだけだな?なら午前中で補習は終わる筈だ」


午前中で補習は終わる。そこからすぐに東京に向かえば間に合うと言うことだ。


田中さんの言葉を聞き、俺はすぐ携帯を開いた


「?何してんだ影山」


「名前にかけてる。当日補習終わったら車で送ってくんねぇかなって」


「ちょ、お前……東京まで何時間かかると思ってんだよ」


「わかりません、とりあえず名前にきいてみ……もしもし、俺だけど、赤点とったから補習の日東京ま……」


名前は出たが、俺の言葉を遮るようにして澤村くんに代わりなさい。と言われ、久しぶりに聞いた静かな声にビビって俺はキャプテンの元へ向かった


「キャプテン、」


「影山、今回の遠征はあきらめ」


「電話、出て貰えますか。名前からです、遠征の事頼もうと思ったらキャプテンに代わって欲しいって」


「苗字さんが?……もしもし代わりました澤村です。え?あ………いやいやそんな苗字さんは何も……いや、ほんと大丈夫ですよ……え?昼ぐらいに終わる筈ですが……え、いいんですか?……はい、はい………すいません、バカ2人よろしくお願いします、はい、失礼します」


「大地、苗字さんなんだって?」


「なんか………凄く謝っていた。教えた分責任を感じているようで……それで補習の後日向と影山を東京まで送り届けてくれるそうだ、出来るだけ早く迎えるように頑張るからこれで許してくれって……影山、帰ったらお礼言っとけよ?日向も会った時にでも。」


「「う、うす!!」」


良かった、東京には行ける!!隣を見れば俺同様に遠征に行けることを喜ぶ日向。


帰ったら名前に礼言わねぇと……!





「ただいま」


「おかえり………赤点取っちゃったのね……」


「ん………ごめん、教えてくれたのに。あとありがとう、東京までお願いシマス。」


ぺこりと頭を下げた飛雄。こういう時にちゃんとごめんとありがとうが言える子に育ってくれたのは嬉しい。


この程度で頭の悪さを許してしまうのは甘いのだろうか?でも結局私は飛雄が可愛くて仕方がないので、このまま大盛りご飯を出してしまうのだ。


飛雄はこの先どう生きていくのかわからないけれど、たぶん勉強も学歴もステータスも関係無い世界に行くんだろう。こんな事で躓くのは今だけだ。


なんて弟に過度な期待をしてしまうのも、可愛いが故だろうか。





「苗字さああああん!!!」


「日向くん!!ちょっと久しぶりだね!」


「はい!!今日はお願いします!!」


シュバッ!!と直角に頭を下げる日向くんに笑ってしまう、日向くんは意外と飛雄よりずっとしっかりしてるかもしれない。


「はい!任されました!!乗りたまえ!!」


「はい!」


「頼む。」


「あいよー!」





「ほい着いた、早く体育館行きな?練習終わっちゃう!」


「はい!!ありがとうございましたあああ!!」


そう叫びながら駆ける日向くんにこんな暑い中なのに凄いなぁ……と運動神経やセンスもろとも尊敬する、私には無いものばかりだ。


「助かった、じゃあ行ってきます」


「うん、行ってらっしゃい!……東京まで来ても寂しいなぁ、頑張っといでね、皆と仲良くするんだぞ」


「わかってる、………夜、電話する」


「え!」


「寂しいんだろ」


ぶっきらぼうに、でもちょっと顔を赤くしながら言う飛雄が可愛くて仕方なくなる。撫で回したい頭しよって!!


「うん!!待ってる!!元気出た!よっしゃ帰るぞぉぉ!」


「気をつけろよ」


「はいよ!じゃあね!!」


扉を閉めて、飛雄が体育館に向かって走って行ったのを確認し車を発進させる。


人の事を気遣えるようになってたなんて知らなかった、烏野の皆と過ごしているからだろうか?兎にも角にも良い傾向!!


「飛雄はまだまだ成長するなぁ!!」


見ていて飽きないし、まだもうちょっと手のかかるあの子の傍で見ていたい。


成長は嬉しい半分寂しさ半分、そういうもんだ。




家に着いて、ソファーに倒れ込む。うぅっ……疲れた……


でもご飯作らなきゃ、飛雄がいない分少し遅くなってもいいけどお父さんお母さん達が困ってしまう。


なんとか眠たいと訴える体を起き上がらせて、キッチンに立ち、ご飯を作る。今日はオムライスだ。


1人でご飯を食べ終え、お風呂に入り、いつもなら飛雄が座ってるソファーに座る。


たかが1日されど1日。毎日ここで一緒にいる飛雄がいないのは、違和感と寂しさの塊だ。


少しだけ感傷的になっていると鳴る電話、飛雄だ!!


私は嬉しさからすぐに通話ボタンを押した。





『もしもし!!』


慌てて出ました!と言わんばかりの声に思わず笑う


「っふふ、……何慌ててんだ」


『あ、慌ててなんかないけど!?……どう?遠征は』


「……すげぇ人達が沢山いるし、参考になる」


『良かったじゃん!姉ちゃんも送り届けたかいがあったってもんよ!』


「ん、ありがとな。……今1人なのか?」


『そだよ、まだ誰も帰ってくる時間じゃないし。いつもだと飛雄とお話してる時間だね。』


「そうだな……寂しいか?」


『そりゃ寂しいよ!!もう!!あ、そう言えば次のオフっていつよ』


「なんで?」


『前一緒に買い物付き合ってくれるって約束したじゃん!全然叶えられてないから!』


「別に急ぎなら1人で行ってこればいいだろ」


『急ぎじゃないけど……早く飛雄と普通にお出かけしてみたいなぁ、服とか見せてどっちが似合うと思う?って聞いて困らせたい』


「とんでもねぇ願望じゃねぇか。女物の服なんてわかんねぇし。」


『あははは!!だよね、わかってる、だからやりたい。化粧品とか見せて、どっちのリップが似合うと思う?とかね』


「分かるわけねぇだろ………しばらく待ってくれ、まだそんな話聞いてねぇから」


『ん、わかった。でも分かったら1番に教えてね?』


「おう、いつもなんでも名前に1番早く教えてる。意識しなくても話出たらすぐ言うと思う。」


『お姉ちゃんになんでも話しちゃう可愛い飛雄くんで良かった!!』


「………じゃあな、おやすみ」


『え、ちょ!お、おやすみ!!』


いつもみたいに可愛いって言ってきたことにムカついて電話を切る。可愛い訳ねぇだろ、お前より遥かにデカいんだぞ。と何度も言っているが、そんなのお構い無しで可愛い可愛い言ってくる名前を思い出し、またムカつく。


いつまでも俺の事を子供扱いしてくる名前。ムカついて仕方が無い、幼馴染にしては近過ぎる距離で自分でも名前に意識して貰えるようより近い距離で接しているはずなのに。


それでも全くと言っても良いほど意識されない、抱き締めたり、手を舐めたり、有り得ねぇだろ普通……!?


「あぁもう!!」


頭をガシガシかいて、部屋に戻る。悩んでも無駄だ、本人さえいないんだし。寝るに限る。





「とんでもねぇ願望じゃねぇか。女物の服なんてわかんねぇし。」


「………じゃあな、おやすみ」


「っふふ、……何慌ててんだ」


か、影山くんがあんなに優しく笑ってるの初めて見た……!!


たまたまトイレに行こうと歩き出したところ、人気の無い場所で影山くんが誰かと電話している事に気づき、咄嗟に壁に隠れてしまった。


しかしその声を聞いていると酷く優しくて、しかも女物の服、と言ってるあたり相手は女性なのかもしれない。


も、もしや、彼女!?影山くん彼女いたんだ……


電話を切ったのが見えて、影山くんが行ったら私も壁から離れようって思ってたのに携帯を見つめて中々動かない影山くん


どうしたんだろう……?


様子を伺っていると突如「あぁもう!!」と頭をガシガシかいて、ふんふん!!とイラついた様子で部屋に帰ってしまった。


数秒前まであんなに楽しそうだったのに今度は怒ってる、意外と感情豊かだったんだね影山くん……!!





「おはよう!谷地さん!」


「おはよう、日向!……ね、日向聞きたい事があるんだけど」


「うん?何?」


「影山くんって彼女いるの?」


「え、ええ!?いないと思う、けど……と言うか信じたい……」


「なんで!?」


「なんか負けた気分になるじゃん……谷地さんこそなんで?」


「あ、昨日ね……って事があって」


「電話?ふーん………苗字さんじゃねぇかなぁ?」


「苗字さん?」


「あ、谷地さん会ったことないんだっけ?影山のお姉さんみたいな感じの人!幼馴染らしいけど。めっちゃ美人!!」


「そ、そうなんだ!?影山くんに綺麗な幼馴染さんがいたとは初耳……でも電話してた時は幼馴染との会話って言うより、彼女との会話って感じがしたんだよなぁ。影山くん凄い優しい顔してたし」


「うーん?俺はよくわかんないけど、影山はたぶん苗字さんの事めっちゃ大事そうだから、それでじゃない?気になるなら本人に聞いてみてもいいと思うけど」


「い、いやいや!それは!遠慮しておく!!」


「そう?じゃあまた今度苗字さんに会った時にでも聞いてみなよ!」


「わ、わかった!ありがとね!」


「いえいえー!」