姉ちゃんもどき色々やらかす

「来週1次予選だっけ?」


練習が終わり、家に帰ってからごろごろする私とストレッチをする飛雄。


「おう、それ突破したら10月に代表決定戦」


「そっかぁ……出来るだけ見に行くからね」


「……1次予選は来なくていい」


「え!?なんで!?」


急に姉ちゃん突き放されて泣きそうだけど!?


「絶対突破するから。代表決定戦見に来て欲しい。」


つん、と唇を突き出してそう言う飛雄。恐らく見て欲しいのは青城に打ち勝つ姿なんだろう。


くっそ、可愛いなぁこの野郎


「わかった、じゃあ代表決定戦は有休取ってでも行くね!」


「ん。……酒飲むのか」


キッチンからお酒たちを連れて戻ってきた私を見て言う飛雄


「うん、土曜日だしねぇ!」


「飲みすぎんなよ、弱いんだし。すぐ寝るし。」


「わかってるよ!!」


そう言った、はずだった




「おい、名前。」


眠たい、ぼやーっとする。机が冷たくて気持ちいい。ほっぺを机に引っつける。


「飛雄ぉ………ベッドまで運んで……」


「ったく……だから言っただろうが……しょうがねぇな」


力強い腕を差し込まれ、持ち上げられる。かっこいい、かっこいいよぉ飛雄


見上げれば、綺麗な顔。小さなお顔。思わず手を伸ばし、触れる


「?なんだよ」


「本当に……綺麗な顔……」


「お前がそれ言うのかよ」


ゆっくりベッドに寝かされ、見下ろされる


「おやすみ、布団被って寝ろよ」


そう言って離れていく飛雄。なんだか凄く寂しくて、思わず腕を掴む


「あ?どうした」


「……………一緒に寝よ」


「はぁ!?」


「うるさいよ……いいじゃん寝るだけだし……」


「寝るだけってお前………」


「早く」


「……………知らねぇからな」


何がだ。飛雄は私を転がし、ベッドにスペースを作って入り込んできた。


なんだかんだ言って一緒に寝てくれる優しさになんだか胸がきゅんきゅんして、思わず抱きついてみた、あぁ好きなんだよなぁこの体。


「おい、あんまくっつくな」


「……暑い?エアコンついてるからいいでしょ」


「そうじゃなくて」


「………?……おやすみ」


「あ、ちょ………寝るのかよ」


「何?もしかして姉ちゃんに欲情してんの?」


「ヨクジョー?」


「ムラムラしてんのかって事」


「む、ムラムラ!?す、する訳ない!!!……くも、……ない……」


「え?」


「しょ、しょうがねぇだろ!!」


耳まで真っ赤になった飛雄に笑ってしまう、酔っているからか頭がふわふわする。


「ふふ、ちゅーぐらいならさせてやろっか」


「は!?」


今まで何人かの人と付き合ってきたが、結局そう長続きはしなかった。理由は様々だけど、結局私が彼氏より飛雄を優先するから別れるって事が1番多かった気がする。


ここまでの大半の人生、飛雄の為に使ってきた自信がある。育ててきた自信がある。それならもう私が育てた飛雄に人生全部捧げたって良いんじゃないか。


なんて考え始めて酔ってんなぁと改めて自覚する。そもそも飛雄ファーストなら飛雄の気持ちを考えろってな。


「なーんちゃって」


「………そう言う冗談辞めろ」


飛雄が上から覆い被さる、え?あれ?


「名前が悪いんだからな」


唇に柔らかい感触。


思考が停止する。


これって、


至近距離に綺麗なお顔。


と、飛雄とちゅーして……!?


一瞬焦るが、不思議と嫌ではなくて、むしろ気持ち良くて。嬉しくて。もういいやお酒のせいにしちゃおうって私の方から彼の頭を固定させ、何度も口付ける。


それに応えるように飛雄も私をベッドに深く沈ませて、お互い欲のままにキスし合った。


なんて情事に及んではいないものの、熱い夜を過ごしたはずだが、このまま私は寝落ちして、飛雄も寝落ちして。


しかも私は酷く酔っていたのか、記憶まで無くす事になる。こんな事をしたんだぞお前!!と教えられるのはずっとずっと先の事。





…………………………?


目が覚めると目の前に飛雄がいた。


あれ?昨日一緒に寝たんだっけ?


「飛雄、飛雄ー?今日も部活でしょ、起きなくていいの」


と言いつつ私も体を起こす。朝ごはんの準備しなきゃ!


「ん……………っ!!!」


ふわぁ、と伸びをしていると突如勢い良く体を起こした飛雄。びっくりして思わず声を出してしまう。


「うわっ!?何!?」


「おおお、お前、きき、きの、昨日」


「は?」


「き、昨日の!!!そ、その……」


「昨日?そう言えばなんで一緒に寝てたの?寒かった?」


「………………………………は?」


「珍しく同じベッドに入ってたから。なんかあったの?………酔っちゃってたからか全然覚えてなくて」


ガンガンと頭が痛む。うぅ、飲み始めたのは覚えてるけどそこから先がてんでダメだ。家で飲んでいたのがせめてもの救いだったなぁ。


「なんも…………覚えてねぇの……?」


「うん、だからなんで一緒に寝てたのかなって」


「…………何もねぇよ!!!!」


「うわ!?何!?」


「うっせぇ!!腹減った!!」


「あー、急いで準備する!」


大股で洗面所に向かってしまった飛雄。なんか怒ってる?なんなんだよ、更年期か?




10月後半木曜日。今日は代表決定戦1日目。


無事1次予選を夏に通過した烏野は代表決定戦に名を連ねた。


「ふふふ………有休2日連続でとってしまった……絶対明日まで勝ち残んなさいよ!?」


じゃないと姉ちゃんなんか色々悔しいから!!


「当たり前だ。ほら、さっさと喝入れてくれ」


「…………今日も飛雄は可愛いなぁ」


「あぁ!?」


姉ちゃんに背中を出す飛雄は本当に可愛い、変な所が素直に育っている。


バシン!!といつもの様にぶっ叩き、勝っておいでと言う私の願いも押し込む。


「行ってらっしゃい!後で私も会場行くからね!」


「ん………行ってきます」


にっ、と笑った飛雄は姉ちゃんから見てもかっこよくて、ちょっとだけ頼もしさにきゅんっとしてしまった。





会場に着き、烏野の皆を探す。まだ試合のタイミングじゃないはずなんだけど……


するとトイレの前で右往左往する日向くんを発見。丁度良かった!皆の場所を………って及川くんと岩泉くんが話しかけている。え?なんか怯えさせてる??大人気ないぞ先輩???


「ちょっと!!」


「あれ?名前さん!こんにちは!今日は俺の事応援しに来てくれました?」


「そんな訳ないでしょ?と言うか!!うちの大事な選手虐めないでもらえる!?」


「苗字さん………!」


「もう。あ、岩泉くんも久しぶりだね!」


「お久しぶりです、インハイ予選も見に来てましたよね?」


「え!?知ってたの?」


「はい、クソ及川が言ってたのもありますし、コートから見えました。」


「凄いね!?岩泉くん相変わずかっこいいプレーするから見惚れちゃったよ、でも今日は負けないんだから」


「み、見惚れたって……!……俺達だって負けませんよ。」


にぃっと挑戦的に笑う岩泉くんは誰がなんと言おうとめちゃくちゃかっこいい。岩泉くんは性格から何から真っ直ぐでいつも尊敬する。


「う、うわぁ!!すみません!!」


なんて岩泉くんと話していると日向くんが誰かとぶつかってしまったようで、


「日向翔陽………それに及川、岩泉か」


誰!?でか!?


なんかすげぇデカい人が及川くん達を煽ってる。誰??及川くん達に勝つ気満々な辺り、有名な学校の人なんだろうけど……


「え?何何?うわあれ青城と白鳥沢じゃん……一触即発?」


周りにいる人の声を聞き取る


白鳥沢??…………あ。飛雄との会話を思い出す


「源義経?」


「……………………。」


「……………………。」


「ぶっ、ははははは!!!名前さん最高!!あはははは!!!」


「まぁそうなんすけど……ぶっはははは!!」


青城2人に笑われる、え、義経じゃなかったっけ


「……………牛島若利、だ」


「え、あ、そ、そうなんですか!あ、それで牛若…………初めまして!!」


何故か自己紹介されてしまった、牛若とはニックネームだったのね!


「誰だろうと受けて立つ」


そう言い残して牛島さんは行ってしまった。


それにしても本当にデカイな……飛雄もあと2年ぐらい経ったらあんな感じになれるのかな……





「あ!谷地さん!!滝ノ上さん!」


「苗字さん!こんにちは!」


「おう、こんにちは!」


「こんにちはぁ、代表決定戦の初戦ですね!」


「相手は条善寺。さぁてどんな試合になるかね?」





「はぁああ………つくづく羨ましくなるような運動神経ですね……!?」


「本当だよな、あいつらのバレーは予測不能過ぎる」


滝ノ上さんとある意味感心する。あんな動きしてみてぇよおれぁ……


「うぉ!?日向よく拾えたな今の!?」


「いやマジでスパイダーマンでしたね今の。……すっごい……」


「日向の反射神経とか凄すぎますよね、追いつける気がしない……」


「いっけー!!飛雄ー!!強烈なサーブかましたれー!!」


「お!!変人速攻決まったな!!」


「きゃああ!!かっこいい!!飛雄かっこいい!!」


「苗字さん……影山くんが凄い顔してこっち見てます……」


「大丈夫、屈んでしまえば私の勝ちよ」


「何に勝ってるんだ??」




向こうのセッターはツーブロックが強打だよなぁ……


普通はこうするもんだって言うのが全然通用しない相手で、少し混乱する


飛ぶセッター。また強打のツーブロック!?


しかしそれに反応し、飛雄がブロックする。ナイス!!


「凄い!!ナイスブロック!!」


「かっこいいぞ飛雄おお!!」


「い、いや……今のって……顔面……」


こちらを振り返った飛雄はつーっと鼻血を垂れ流していて、顔面でレシーブした事を皆が理解する


「タイム!!」


「影山ああああ!!死ぬなああ!!」


「殺すなよ……」


「まぁ冷静になるのに丁度いい、血が止まるまで交代だ、影山」


「鼻血なんて出てません!!」


「出てるよ、なんで嘘つくの」


ざわめく烏野陣営が見える。しかし私はそれどころじゃなかった。


「あはははは!!!ふふ、はは、あひゃひゃひゃひゃ!!」


「苗字ちゃん笑いすぎだろ……心配にならねぇのか?」


「いや、痛そうだなとは思いますけど………ぶふ、だめだこれ、ぶふふふふふ、あはははは!!!」


顔面レシーブなんていつぶりよ、小学生?しかも鼻血出ちゃってまぁ間抜けなこった!!


「あは、あはははは!!!ひいいいしぬ、笑いすぎてしぬうう!!」


笑い過ぎて出た涙を拭っていると、谷地さんに肩を叩かれる


「ん?どした?」


「あの……影山くんが………」


指さされた方向を見ると、ゴゴゴゴゴ……と効果音でも付きそうな程にこちらを睨みつける飛雄


あ、………怒って………る……?


たらたらたらと流れる冷や汗、やばい顔がマジだ、ヤバい奴だ。


こちらをしっかりと見据えて、顎でこっち来いと指される。まるでそれは及川くんにイラついてる岩泉くんのようで、


私は及川くん枠なの……?と嬉しいような悲しいような複雑な気持ちを抱え、滝ノ上さんに逝ってきます……と言った。