春高予選

「お前、笑いすぎだぞ」


「す、すんませ…………ぶふっ……」


「鼻血出させてやろうか」


「ま、待てよ影山!?」


「そうだよ影山くん!まずは血を止めないと!!」


「名前いるからこいつにやってもらう、2人とも戻ってて平気だ、ありがとな」


「え、でも、」


「ぶふ、ふふふふ、大丈夫、私、ふふ、やっとくから!!」


「(お怒りな影山くんの前でまだ笑えるなんて……私は苗字さんがやられないか心配だ…)」


「まぁそう言うなら……谷地さん、戻ろう」


「わかった、苗字さんお願いします!」


「はいよ!……よしゃ、まずは上向いて、ティッシュ変えようね、」


「ユニフォームは汚れてない?」


「おう、そこまで垂れてない」


「だいぶ量も減ってきたからもうちょっと待てば落ち着きそうだね」


「ん。……………笑いこらえてんじゃねぇよ」


「いや、ほんと、あれは、あはははは!!!」


「テメェ……」


「む、無理すぎる!!だって小学生とか以来じゃないの!?顔面レシーブなんて!!」


小学生の時とかは痛いよおおって泣いてたのに、今は鼻血出すほどでもキレまくる。成長した……のか……?


「………止まった」


「え、ほんと?」


「ん、戻る」


「片付けやっとくから戻ってな!」


「おう、ありがとう」





「影山くん大丈夫そうですね!」


「うん、私が顔面レシーブでウケてる間に止まったよ」


「影山くん……怒ってませんでした……?」


「えっとね、ずっと怒ってたよ。あはははは!!」


「(苗字さん……思ってたよりやばい人かもしれない……)」




無事条善寺高校に勝利した烏野。飛雄の顔面レシーブも含めて、見ていて楽しい試合だった!!


それにしても向こうのマネージャーさん可愛いよなぁ、潔子ちゃんが美人系なら可愛い系。谷地さんとちょっと系統は似てるよなぁ。


下に戻って、谷地さんと共に皆の元へ向かう。


「勝ちましたねー!!」


「うぇーい!!」


「うぇーい!!」


「2人同時にジャンピングハイタッチは無理だろ」


谷地さんに飛びつこうとした田中くんと西谷くんを
、縁下くんがとっ捕まえるまでが一連の流れ過ぎて笑ってしまう


かく言う私は、谷地さんの足の速さに追いつけずぜいぜい息を整えていた。……JKって……こんなに元気だったっけ……?


「お前何してんだ」


見上げると呆れた顔した飛雄。ムカつくなその顔。


「息を……整えている……」


「だろうな、体力も無くて運動神経も悪いんだからな無駄に張り切るなよ」


「な、ん、だと、コラあああ!!」


「元気じゃねぇか」


「うるせぇ!!ふん!!もう帰る!!」


「名前、」


「何!?」


「今日の飯何?」


「焼きうどん!!」


「カレーが良い」


「い゛い゛よ゛!!!」


ふん!!!あんのクソガキ!!カレー作るには豚肉が足りないから買って帰ろう!!!


「なんかふんふん言いながら苗字さん帰っちゃったけど、大丈夫か?」


「はい、今日の飯聞いて返事帰ってきたんで大丈夫です」


「何その判断方法」


「本気で怒ると今日の飯何って聞いても無視される」


「逆に何したんだよ……」




2日目和久南戦。


有休取ってでも行くって行ったのに、急遽会社の方から連絡があって行くことになってしまった。


まぁ金曜日だから仕方ないのかもだけど……泣きながらごめんねええええ!!!と言う私に必ず勝つから午後は見に来い。と頭を撫でる飛雄はもうなんかかっこよかった、くそう。


「あ!滝ノ上さん!!」


「おー!苗字ちゃん?あれ、苗字ちゃんも午後から?」


「はい……有休取ったんですけど、午前呼ばれてしまって……死ぬ気で終わらせてダッシュして来ました」


「はは!!お疲れ!」


「よぉ!おふたりさん!午前の和久南戦、結構な死闘だったぞ?」


「そっかぁ!見たかったなぁ」


「そうなんですかぁ!!うぅ……悔しい…」


「……あれ?」


なんか金髪の姉ちゃんがいる、な、ナイスボディ……!?


「どうもー!田中龍之介の姉、冴子でーす!」


「ど、どうも!」


「田中くんのお姉さん!!初めまして!」


「初めましてぇー!お姉さんは?誰かの家族?」


「あ、家族ではなくて……影山の幼馴染です、あの黒髪のセッター」


「飛雄ね!?へぇぇ、こんな美人に応援されたらあの仏頂面も晴れるんじゃないの?」


そう言ってケタケタ笑う冴子さん。飛雄呼びと言い、仏頂面と言い、飛雄の事よくご存知みたいで笑う


「準決勝まで来ちまったなぁ」


「え!?これと次勝ったら全国!?」


そうだ、青城と白鳥沢に勝ったら全国。


烏野の皆が全国に行くんだ。そんな未来を夢見てしまって高揚する。




試合が始まった。


インハイ予選の飛雄と及川くんの表情が蘇る、勿論応援するのは烏野だ。でも、及川くんにも後悔のない試合をして欲しい。


2人とも、頑張れ。そう祈る為に私は手を組んだ。


「初っ端から及川のサーブかよぉ」


「ひぃ!!腕もげそう……」


「もげると思う……常人が触ったらもげるよきっと……」


烏野優勢で進む試合、しかし1セット目がもう少しで取れるという所で、


「選手交代……?このタイミングで……?」


交代してきた16番


しかし彼は次の攻撃で金田一くんを押しのけ、スパイク。それはアウトとなるが、烏野に衝撃が走った。


そして2セット目、16番の猛攻に耐えながら烏野も選手交代、月島くんと菅原くん


菅原くんのサーブ。それは16番を狙った。


「上手い!!」


「これで16番が攻撃に出遅れた!」


「ブレイクー!!!」


そして次の攻撃、菅原くんがセットアップをして、飛雄がスパイクした


「飛雄おおおお!!!かっこいいよおお!!!」


いつもの事ながら、セットアップもサーブもかっこいいと思うがスパイクはやはりかっこいい。毎日見ている顔とはいえ、きゃああ!!と叫んでしまう




2セット目、終盤。山口くんが大量にサーブを決めて、逆転!!インハイ予選のミスを見ていた為、親のような気持ちになってしまい、泣きそうになるのを堪えたが、


隣に立つ嶋田さんの表情を見て、泣いてしまった。


デュースまで持ち込むが、及川くんのサーブの威力が上がり、烏野は再び追い詰められる。


しかし、岩泉くんの得点で2セット目は取られる。


「あああ!!くっそ!!追い詰めたのにいい!!」


「ううううう……やっぱり及川くんは凄いなぁ……簡単には、追いつけないんだな……」





そして3セット目。開始。


16番と田中くんの攻防や、月島くんのブロック。


そして今、日向くんが撃った真下へのスパイク。大丈夫、烏野だって全然負けてない、負けない!!


と言うか今のトス、飛雄は日向くんに合わせたの……?これぞまさに天才ってやつ……?


そしてその後も続く攻防。


しかし、青城のマッチポイント。追い詰められてしまい、手に汗を握る。


このタイミングで月島くんと菅原くんの交代。


「おぉ!ここで戦術的ワンポイントツーセッターか!!」


「ここでブレイク出来なきゃ終わり……」


「頼むぞ……2セット目の時みたく、上手くハマってくれ!」


菅原くんのサーブ、岩泉くんがオーバーで上げる


それを及川くんがセットアップ、16番が撃つが、


既にブロックに飛んでいた飛雄に日向くんが突っ込み、ブロック!!


痛そう!!痛そうだけどよく耐えた!!!飛雄おお!!





「乱れた!!」


乱れたレシーブに対して、及川くんが場外からのロングトス。コート外のベンチに突っ込んで、転びながらも戻ってくる及川くん。


その姿を見て思い出す、そうだ彼は、見た目や態度に反して泥臭い人間だったのだと。出会った時から変わらず彼の本質はバレー馬鹿なのだと。


そのロングトスは岩泉くんの手にドンピシャ。そのままスパイクするが、澤村くん、田中くんが上げる


そしてそれを東峰くんが相手コートに打ち込む。それを向こうもなんとか繋ぎ、こちらに返すが、菅原くんの顔面レシーブで上がり、


飛雄は日向くんにトスを上げる。しかしそれは読まれ、ブロック3枚。


しかし日向くんのスパイクはブロックを弾き、レシーブした及川くんをも弾いて、場外へと落ちた。



「「「よっしゃああああ!!!!」」」


ボールが落ちるまでは、一瞬で。


気づけば終わっていたような感覚だった。うわあああ!!と喜ぶ周りの人達の声を聞きながら、おめでとうおめでとう!!と思いながらも、最後まで勝ちに執着した及川くんに心から賞賛の拍手を送った。


彼は最後まで、人間らしくそれはそれは泥臭い人だった。





試合が終わり、後輩に荷物をバスに積むよう伝える。


まだ戻ってきてない奴らを探しに行かなくては。負けたからと言って何もしなくても良い理由にはならない、俺は最後までキャプテンであり続けなければならないのだから。


ある程度目星をつけて、歩き慣れた仙台市体育館の中を探し回る。しかしその途中で会いたくなんか無かった奴に会ってしまう。


何が忠告しておく、だよ。ほんと腹立つ。


あんな奴は精々烏野を見くびっていればいい、そして痛い目を見たらいい。牛若が悔しがる面でも見せてくれればこの悔しさも少しは晴れるのだろうか。


いや、それは無いな。あのクソ生意気な後輩の顔がチラついて1ミリ足りとも晴れる気がしない。


才能も、バレーに対する実直さも、そしてそれ等を叶える体格も持っていて


あいつの全てを肯定し、守り、愛してくれる人もいて


それでも尚、勝ちが欲しい、勝利が欲しいと必死に手を伸ばす後輩。


「………ほんと、欲深いヤツ」


俺には無いもの、持ってるくせに。そんな事はとうの昔にわかってたのに、敗北と言う事実を突きつけられ勝利を奪われたような気持ちになる。


はぁ、とため息を1つつき、まだ残っているであろう選手達を探しに行こうとした時、


「うわっ!?」


「あははは!!びっくりした?」


首筋に当てられたペットボトル。あまりの冷たさから声を上げると、そこにいたのはクソ生意気な後輩の保護者のような、それでいて友達のような人。


「名前さん………何してるんですか、もう烏野の奴ら帰ったんじゃ……?」


「うん、及川くんと話したいなぁと思って待ってたんだ。本当に来るとは思わなかったけど!!びっくりした!!」


そう言って笑い出す名前さん。


「俺を、待ってたんですか」


「うん、良い試合だった。って言いたくて、あとありがとう。お礼を言われる筋合いは無いって思われるかもだけど、飛雄の憧れで居続けてくれて。」


「………ほんと、そんな事言われる筋合い無いですよ」


「ははっ!ごめんね。3年間お疲れ様でした。どうだった?」


「すぐでしたよ、3年間なんて」


「そっかぁ」


「でも俺はこんな所で終わりません」


「やっぱり?」


「はい、………あの、名前さん」


「うん?」


「デートして下さいって言う約束覚えてますよね」


「覚えてるよ!いつがいい?」


「俺の進路の方が落ち着いたら、会って欲しいです」


日本を発つ前に。


「いいよ!また連絡して?春近くになるかな?」


「そうですね、………楽しみにしてます」


「私も!でも私なんかが及川くんの隣を歩くには見た目ちゃんとしないとだ」


あはは……と苦笑いを浮かべる名前さん、本当にこの人は自分の見目の良さがわかってない。周りに何度も言われているのに。



「俺は名前さん以上の良い女、知らないです。見た目も中身も。」


「は?何言ってんの?飛雄から聞いてんだからね?今年の夏くらいに彼女と別れたって」


「うぐぅ!?な、なんでそれを……」


「甥っ子が言ってるのを聞いたって言ってたよ?え?なのに?私以上の良い女を知らない??じゃあ元カノは??」


「………その……ノリで付き合ってしまった部分も……」


「うわ!!最低!!軽い!!」


「うぐっ!!……」


分かっている、自分でも最低だって。でもずっと忘れられなかったのも事実で、自分から中々会いに行けなかったのも事実。


だって俺と飛雄が会わないと、名前さんとは会えないんだから。そんなのなんだか腹が立つ。


だから他の子と付き合っている間も、忘れた事は無かった。本当に最低だよね。


「危な!!からかわれる所だった………ふん!私が飛雄の姉ちゃんだから、からかおうって魂胆だろうけど、飛雄は私がからかわれた所で無関心だから意味ないんだよバーカ!!」


そんなわけが無い、飛雄に俺が名前さんに告白したなんて話聞かせたら、血相変えて俺か名前さんに掴みかかるに決まってる。


相変わず飛雄からの好意にも全く気づいてない様子の名前さんに安心感さえある。


「からかってませんよ!!本当に思ってます、だからこそ」


あいつが名前さんの手元から離れたら、名前さんが守らなくても良い年齢になったら


「手に入れたいって思ってます」


「………………何を?」


「え?話聞いてました?」


「ごめん、聞いてたけどよくわかんなかった。それだと私の事手に入れたい、みたいな感じになっちゃうよ?」


「そうですよ」


「は?」


「でもまだ飛雄の事でいっぱいいっぱいですよね?今付き合っても飛雄優先なんですよね?」



「え、あ、まぁ、……」


「そんなのムカつくんで嫌です。だからあいつが高校卒業したら……………続きは今度のデートでちゃんと伝えますね」


「え、ちょ、」


「それじゃあまた、連絡しますね」


少しだけ顔が赤くなったのを見るあたり、ちゃんと意識してもらえたようだ。


今はまだ手を出さない、けど宣戦布告。


今の距離感に甘えてたら、及川さんが貰っちゃうからね?


残り2年、精々足掻けばいいさ。


最後に笑うのは俺だから。