うちの子は凄かった

白鳥沢との激闘が終わり、11月。


飛雄達は全国大会に向けて今まで通り練習に励んでいた。


そして私は彼らの応援をしつつ、


青城戦の後、及川くんに言われた事で頭を悩ませていた。


正直白鳥沢戦の時はそれどころじゃなかったけど、いざ周りも自分も落ち着き始めると何か忘れているような……?と思い出す。


手に入れたいって思ってます。それはつまり、私を及川くんの物にしたいって事?合ってる?え?BBAの自惚れ?


「うぬん………」


唐揚げの衣を付けながら考える、だとしたら次会う時にちゃんと言いますってちゃんと告白されるって事?


それは……困ったなぁ……いやでも飛雄が高校卒業したらって言ってたし……え?でも……えぇ?


「名前」


じゃあ次会って何を言われるの?今後の予定とか?いやでも……及川さんだけは辞めとけよって言われたしなぁ……


「おい」


ん?でも飛雄に私の恋愛を指図される理由無くない?そりゃあ飛雄が高校卒業するまでは飛雄が最優先になる訳で、その後だってお互いの親の為に家事はやってく事になるけど。


「おい!!」


別に飛雄が私の手を離れてから、及川くんの事ちゃんと好きになったらそれもアリって事だよね?それはアリだよね?いやアリって何よ、なんで飛雄に許しを貰おう的な感じになってんの?


「おい、名前!!」


「っ!?」


肩を強く叩かれる。驚いて隣を見たら飛雄、あれ、いつ帰ってきたの。


「お、おかえり」


「おう……疲れてんのか?」


「いや、そんな事は無いけど……」


「じゃあどうしたんだよ、なんか悩んでんのか?」


「………………うん」


「なんだよ」


「聞いてくれんの?」


「聞くだけな」


ぶっきらぼうにそう言いつつも、カウンター越しにこちらを向いて椅子に座った飛雄が見える。本当に話は聞いてくれるようだ。



「えっとね……」


「ん」


「及川くんに告白もどきをされた、気がする」


「はぁ!?」


ガタンッと椅子を倒しながら立ち上がる飛雄。


「びっくりだよね、あんなイケメンに告られちゃうなんてさ。もしかして今モテ期来てんのかな?」


「な、なんて返事したんだ!?」


全然私の冗談を聞いてさえくれない飛雄。顔が怖いよ!?


「や、返事と言うか……及川くんの進路がちゃんと決まったらデートするって話してて。その時にちゃんと言うって言われたまんまで。なんだか曖昧な感じなんだぁ。」


「…………クソっ、及川さんだけは辞めとけよ」


「うん、向こうもね飛雄が高校卒業するまでは付き合わないって言ってる」


「は?」


「私が飛雄優先するからだって。ちゃんと分かってくれてるだけマシだよね」


今まで付き合ってきた人達は付き合う前に、どうしても飛雄や家の事優先するって言っていても、揉めたり喧嘩になったりしたのでその点及川くんは分かってくれてるからまだマシだ。


「おい、待てよ。俺が高校卒業したら付き合うのか?」


「それを今悩んでんのよ、どうしよう」


「辞めとけって言っただろ!?」


「それは飛雄が高校卒業までの話。単に私の恋愛事情に飛雄があーだこーだ言うのはおかしいでしょ?」


「……………でも!!駄目だ!!」


「えぇ?なんで?及川くん優しいしかっこいいし将来有望だよ?」


「んな事知ってる!!」


「じゃあなんで?姉ちゃん幸せになって欲しくないの?」


及川くんと一緒になる事が幸せに直結するかなんて分からない。でもここまで全否定されると、飛雄は私が結婚するとか付き合うとかそういう事全てを否定しているようで。幸せから遠ざかって欲しいのかと思ってしまう。


「そんなわけねぇだろ………でもそれは俺が………!」


「何?」


「………何でもねぇよ!!」


「うわ出たよ逆ギレ!!」


「うっせぇ!!腹減った!!」


「はいはい、準備しますよ……」


ガミガミ怒る飛雄。やっぱり聞くだけだった、むしろ怒られた。なんなんだこのクソガキ。





「ただいま」


「おかえりぃ!」


「なぁ」


「ん?」


「全日本ユース強化合宿に招集された」


「…………………???」


全日本?


ユース?


「ええええええええ!!??」


「今日もリアクションが良いな」


にやりと笑いながら言う飛雄。え、だって全日本て!?


「す、凄いじゃん!!日本代表の卵って感じでしょ!?凄い凄い!!!」


「やっとここまで来た」


キッチンに立ち、エプロンをつけようとする私の元へ来て向かい合う


「え?」


「俺も、将来有望だぞ」


「??うん、とんでもなく有望だね」


「だから、及川さんは辞めとけ」


「え!?」


なんでそれで及川くんに繋がるんだ。


「それとこれとは話が」


「違わない」


「はぁ?」


「いいから!!及川さんは辞めとけ!!」


「なんなのさ最近、元々及川くんのこと苦手だって知ってるけど、私が及川くんと付き合おうと勝手でしょ?」


「うぬん……でも辞めとけ!!」


「え!?話聞いてる!?」


「うっせぇ!!」


ドタバタと足音を立てて自分の部屋に帰ってしまった飛雄。どうしてこう毛嫌いするかな。


と言うか及川くんじゃなければいいの?及川くんはもう視界にすら入れたくないの?どんだけ嫌いなの?姉ちゃん腹痛いんだけど??





「行ってくる」


「うん、だ、大丈夫?一応駅名とか書いておいたけど、わからなくなったら駅員さんに聞くんだよ?あと困ったら美羽姉とかに電話しなよ?」


「わかった」


「忘れ物ない?」


「昨日一緒に確認したろ」


「そうだね、大丈夫だね」


「?いつもよりすげぇ心配するじゃねぇか」


「だって!!東京だよ!?宮城じゃないんだよ!?飛雄1人で東京まで行かせるなんて……姉ちゃん心配だよぉ…」


「姉ちゃんじゃねぇだろ。行ってみないとわかんねぇからとりあえずコレ見て行ってみる。」


名前が作ってくれた練習所までの行き方メモを見せながら言う


それでも尚心配そうな名前。それもそうか、俺は1人で新幹線とか乗ったことが無い。


俺自身もちょっと不安だ


「気をつけてね?変な人に着いてっちゃダメだよ?」


「そんな子供じゃねぇよ」


「だって……飛雄結構可愛い顔してるから狙われるかも……」


「180センチ超えてんだぞ俺、わかってんだろ」


「で、でもぉ……」


「っふ、はは!!心配し過ぎだ、大丈夫。向こう着いたらメールする。」


「うん!絶対。困ったらちゃんと周りの人頼るんだよ?」


「わかったわかった。じゃあ行ってくるな」


「うん……気をつけてね、行ってらっしゃい!!」


家を出る前に心配そうに眉を下げる名前を抱き寄せる


うわぁ!?と慌てる名前を無視して抱き締める。及川さんには渡さねぇよ、こいつは俺のもんだ。


「じゃあな」


少し顔が赤くなった名前を見て、家を出る


俺だって名前の恋愛対象に入れる。いつまでも弟だと思ってんなよ。


お前は姉ちゃんじゃねぇから、結婚だって出来るんだからな。





「ただい」


「おかえりいいいい!!!無事で良かったよ飛雄おおお!!!」


涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を飛雄に押し付ける、汚ぇ!!とか離れろ!!とかなんか言ってるけど聞こえない。


可愛い可愛い飛雄が東京と言う怖い土地から1人で帰ってこれた事に、安心と感動からうおおおと泣く事しか出来ない、姉ちゃん嬉しいよ!!


「いい加減離れろ!!」


「なんでえええ!??行く前は自分から抱き締めてきたじゃん!!」


「そ、それは!!」


「いいじゃああん!!うわぁああん!!」


「あぁもう……」


涙と鼻水を撒き散らしながら抱き着いた私を見て何かを諦めたようだ、ぽんぽんと背中を叩いてくれる優しい飛雄に縋り泣いた。