「おかえり!!美羽姉!!」
「ただいま!飛雄は?お父さんとお母さんも」
「みんな居るよ!」
「そっかぁ、名前も久しぶりね」
「ほんとにねぇ!」
「元気だった?飛雄とは仲良くやってる?」
「うーん……仲良いと思うけど、飛雄はどうかなぁ、相変わらず思春期継続中だから急にキレられたりしてよくわかんない」
「ごめんね、大変な時期に1人で任せちゃって」
「いいのよいいのよ!美羽姉は仕事頑張ってよ」
「ありがと。飛雄の誕生日はどうだった?今年も2人だった?」
「そうだね、今年も2人でご飯食べたけど、今年は全国大会控えてて練習もモリモリあったから飛雄もそれ所じゃねぇ!!って感じであっさり終わったよ」
「あははは!!全国大会、本当に凄いわ。確かにそれは誕生日所じゃないわね」
「そうなのよ。…………あ、じゃあそろそろ私は戻るね!」
「いつも思うけど、こっちいてもいいのよ?」
「いやいや!影山家の家族団欒は邪魔しないよ!私も両親と過ごすし!」
「そう?それじゃあまたそっち行くわね」
「あいよ!」
年末、美羽姉が戻ってきた。
お盆はどうやら仕事が忙しくて戻って来れなかったようだが、年末年始は実家でのんびり出来るみたい。
私はと言うと、毎年の事だが年末年始は苗字家で過ごす。お盆は両親が仕事な事もしばしばあるのでいつも通り半々で過ごしてしまうが、年末年始はずっと苗字家に籠り切る
一般家庭では当たり前の事だが、常に影山家と苗字家を行き来していた私からしたら少し寂しいし、飛雄とも話す回数が減る時期でもあるので寂しくなる。
「何しよっかなぁ……」
12月31日、今日は大晦日。
最初こそ友人達と過ごそうと思っていたが、友人達は彼氏と初詣に行くらしく私なんかとは会えないらしい。薄情な友情だ。
かく言う私は彼氏なんていないので、一人家でごろごろ。
何しようかなぁ。
天井を見上げてぼーっとしていると、鳴る携帯
誰かと見れば飛雄。え?この距離でかけるか普通?
「もしもし?」
『もしもし』
「どうしたの?」
『今何してた』
「天井見上げてた」
『要は何もしてねぇんだな?』
「天井見上げてたって」
『そっち行く』
そういうや否やブチィ!!と切られる電話。こっち来るなら最初から来いよ。と思ってしまうのは私が悪いんだろうか?
「よぉ」
「おっす、元気か少年」
「おう。暇だからトス練付き合え」
「え?運動音痴日本代表の私に言う?」
「わかってて言ってる、ほら」
ごろんと転がっていた私に手を差し伸べる飛雄。なんか今日ご機嫌だな?
その手をとり立ち上がる、トス練なんか私に相手が務まるとでも思ってるのか?舐めんじゃねぇぞ。
◇
「違ぇ、こうだ、こう!!」
「あの、飛雄くん?」
「なんだ」
「何故私は将来有望イケメンバレー少年影山飛雄くんにバレーボールを教わっているのですか?」
私なんかより教わりたい中学生あたり凄くいそうなんだが?
「イケメンって……」
「飛雄はイケメンだよ?かっこいいよ?」
そんな事よりイケメンと言うワードに引っかかったらしい飛雄。もしかして自分の見目が麗しい事知らない?えぇ、人生損してる。
「うるせえ!!」
そして褒めるとキレる男、それが飛雄である。どうして??
「何故キレられる!?」
「うっせぇんだよボゲェ!!さっさと手動かせ!!」
「えぇ!?」
そんなこんなで暗くなるまでトス練に付き合った訳だが、ちょっとだけ私が上達した程度だけどいいのかこれ?飛雄の練習に全くなってない気が??
「飛雄、貴重な休みこんな使い方でいいの?」
「………だって、あんまり店開いてねぇし」
「え?」
「一緒に出かけてぇって言ってたけど、今日は向いてねぇなって」
そう言われて思い出す、私が飛雄と出かけたいって話したこと。
「………ふふっ、あははは!!だからってトス練って!!」
「しょ、しょうがねぇだろ!?俺バレーしかわかんねぇし」
「知ってる、知ってるけど……あははは!!飛雄は今日も可愛いなぁ!」
「可愛くねぇ!!」
「可愛いよぉ……ありがとね、姉ちゃんに飛雄の時間くれて」
「………ん。」
暗くなってしまってよくわからないが、きっと赤くなっているであろう頬にニヤける。可愛いんだからうちの子は。
なんてニヤついてると、足が上がってなかったのか躓く
「うわっ」
「!!」
咄嗟に反応した飛雄によって顔面から行くことは避けられたが、冷や汗を垂らしながら隣を見ると、
「……お前俺の事可愛いってニヤついてられる身分か?あ?」
想像通りお怒りの飛雄、で、ですよねぇ……
「す、すんません……ありがとう、顔面血まみれにならなくて済んだ」
「……もう暗ぇから」
そう言って手を繋いでくる飛雄。え、優しい…!と感動するがそれよりも私の手なんかよりずっとずっと大きくなった飛雄の手にじぃんとしてしまう。
「飛雄が小さい時は、暗くなった空が怖くてね手繋いで帰ったよね」
「何年前の話だよ」
「あとは、夜になると星が見えるから昼とはまた違っていいよねって話したね」
「……それはちょっと覚えてる」
「嘘!?」
「ホント」
その後も飛雄との思い出話に花を咲かせながら家へと続く道をゆっくりゆっくり歩いて帰る。
繋いだ手はどちらからともなく絡み合い、所謂恋人繋ぎになっていた。
◇
「あけましておめでとう」
「………あけ……おめ……」
1月1日、元旦。午前8時。
飛雄は唐突に私の部屋に入ってきて新年のご挨拶をしてきた、丁寧にどうも。
じゃなくて!!
私は今布団の中である、元旦って年越しで夜中まで起きてるから昼ぐらいに起きがちだよね?私だけ?
なので午前8時なんて到底起きていない時間で、飛雄が入ってきても布団の中から半目で返事する事が限界だった。
「いつまで寝てんだ」
「だって……元旦だよ?」
「だからなんだ」
「昼ぐらいまで寝るでしょぉ……?」
「寝ねぇ。早く起きろ」
「なんで?」
「初詣行く」
「?行ってらっしゃい」
「一緒に行くぞ」
「えぇ!?」
一緒に行きたいなら事前に言っとけよ!?
「まだ私寝起きだよ、寝癖ぴょんぴょんのすっぴん」
「よだれの跡もついてるぞ」
「嘘!?」
「ホント。間抜け面だな。」
にやぁと笑われる、馬鹿にしおって新年早々ムカつくクソガキだな!?
「うるさいなぁ……顔洗う……化粧はしなくていいよね?」
「俺と2人だからいいだろ」
「そうだね、じゃあ顔洗ってくる」
「おう」
◇
「行ってきます」
「行ってきます!」
「はいはい、行ってらっしゃーい!」
美羽姉に2人で行ってきますして、初詣に向かう
「うぅぅ、寒い」
「なんで手袋してねぇんだよ」
「外の寒さを舐めた結果ですね……」
「………ん」
片方の手袋を外して渡してくる飛雄
「いやいや!!私なんかより飛雄の手を大事にして!?」
全国へ行くセッターの大事な手だ。私なんかよりずっと大事にしなければならない。
「そうじゃねぇ、これ右手につけろ」
何がそうじゃねぇ?疑問に思いながらも言われた通りにする
「そうしたら左手はこれでいいだろ」
すると手袋を外した飛雄の右手が私の左手を掴み、握って飛雄が着ているダウンのポッケに攫われる
「なるほど!?賢いな!?」
そう言ってから気づく、あれ、これは少女漫画とかで見る展開ではないか?完全に私の発言は間違ってないか?と
「だろ、俺の勝ちだ」
飛雄も完全に間違っている、と言うかそもそも私達の間に少女漫画的展開が訪れる筈もないと根本的に勘違いしていた。
って、私は何に負けたんだコラ
「なんか負けた気がする」
「俺の方が賢かった」
「それはマジで違う、私の方が頭良い」
「学力的にはな」
「それ以外に頭の良さ表現するものあったっけ??」
今日もアホみたいな会話をしながら初詣を終わらせ、散歩がてらぶらぶら徘徊する。
「何お願いしたの?」
「言わねぇ」
「試合の事?」
「願わなくても、自力で勝つ」
「流石ぁ!」
「名前は?」
「飛雄が元気に1年過ごせますように」
「…………毎年同じじゃねぇか」
もふぅ、とマフラーに顔を埋める飛雄。しかしほんのり赤くなった顔は隠せていない。なんやかんや毎年私に1年元気にいて欲しいとお願いされると喜ぶ可愛い飛雄くんなのだ。
「同じ。ずっとずっと元気でいて欲しいよ。」
「……そんなの、俺だって」
「え?」
「俺だって、名前に元気でいて欲しい」
恥ずかしそうにしながらも、しっかり目を見て言われる。
こ、これは中々……
「そ、そうか、ありがとう」
「顔赤いぞ」
「寒いもんね!!」
「照れてんだろ」
「違いますけど!?」
「ずっと元気でいて欲しいし、ずっと一緒にいたい。」
「……え?」
「……………叶えてくれねぇか、名前」
急に周りの音が聞こえなくなる。
唐突に放った飛雄の言葉は私の中で反芻され、
「……飛雄はシスコンだった?」
と言う結果をもたらし、
「ちっげぇよ!!ボケェ!!」
飛雄を怒らせる事となった。何故?
「だってずっと一緒にいたいって……」
「家族としてじゃなくて……!!」
「シスコンしか無くない?」
「あー!!もう!!忘れろ!!」
「えぇ!?出たよ逆ギレ……」
「うっせぇ!!」
ガーガー怒る飛雄にビビる、でもキレながらも離さず握られた手ににまにま笑ってしまう。見られたらまたキレられるからマフラーに顔を埋めておこう。
「そういえばバレー部の子達と行かなくてよかったの?初詣」
「日向に誘われた」
「え!?」
「断った」
「はい!?なんで!?」
「名前と行くって決めてたから」
何言ってんだ?と言う顔をする飛雄。決めてたなら姉ちゃんにも言おうな?お陰で姉ちゃん新年早々よだれの跡つけたまんまの顔であけおめっちゃったじゃん??
「そ、そうなんだ……まだ昼間だし今から一緒に行ってきたら?」
「………いい。明日になれば会うし。」
「そう?じゃあそろそろお家帰ろうかぁ」
「ん。」
「飛雄ぉ」
「ん?」
「全国大会、頑張ってね」
私は全国大会までは応援に行けない。東京は遠すぎるしそもそも家事を任されているのに何日も家を空けられない。
それに勝ち進めば進むほど仕事を休まないといけなくなるので、色々な面で迷惑をかけてしまうので、悔しいけれど見に行けないのだ。
「おう。……見に来れない分、帰ってきたら全部話す」
「………うん、楽しみに待ってる。」
そして飛雄達烏野高校は全国大会の舞台へと行き、準決勝敗退と言う近年落ちた強豪と言われ続けたとしては誉高い結果を残した。
そして3年生は引退し、新チームで再スタートを切ったのであった。