姉ちゃんもどきとチョコレートと3年生

全国大会が終わり、3年生が引退し


「おーい!今の拾えただろぉー!!」


「影山ぁ?ちゃんと周り見とけよ?」


「今日も西谷は元気だなぁ……」


「……………。」


現在に至る。


3年生の皆も無事進路が決まり、自由登校の時期となったらしく、土日の部活に顔を出したりしている


かく言う私もたまに行くので、こうして鉢合わせる事もしばしばあるのだ。


「皆と会えるのもあと少しかぁ、特に東峰くん地元離れちゃうんだもんね?」


「はい、……今までお世話になりました」


「まだ早いだろ!?」


「そうだよ!?まだお別れしないよ!?」


「あ、そ、そうですよね。すいません!」


「相変わらず見た目の割に小心者だなぁ」


「うるさいよ……」





「飛雄ー!帰ろー!」


「おう」


「あ、今日買い物して帰りたい。スーパー寄っていい?」


「ん。」


「やった、荷物持ち頼んだ!」


「今日も仲良いよなぁ苗字さんと影山」


「な。……影山の恋路が上手くいくといいんだけどなぁ」


「スガ、もうなんかお母さんみたいな顔してるよ」


「影山はこの1年俺たちが育てた部分もあると思うんだよなぁ」


「「それは思う」」


「だろ?だからあいつの恋も上手くいって欲しいって願うだろぉ?」


「まぁなぁ……」


「仲良いけど、苗字さんは家族として仲良いって感じだもんなぁ」


「「「……影山頑張れ」」」





「あ、牛肉安い!!」


珍しい!牛肉はいつも高いので高級食材だ、日頃は中々買わない。


「買うのか?」


「うん、ビーフシチューでも作ろうかな。好きだったよね?」


「ん」


「他には……じゃがいもと玉ねぎと……」


メモったものをどんどんカゴに入れていく。こんなもんかな?レジに通して袋詰めする。


「よし、じゃあ帰ろうか」


「おう」


当たり前のように買い物袋全てを攫っていく飛雄に、自分で言うのもなんだが優しい子に育ったなぁ……と感動する


いつか飛雄が結婚したいと思う子がいても、この顔と優しさだ。きっと好きになってもらえる。


でもこの飛雄は私が育てたんです、しつこく力持ちなんだから荷物もてぇ!!と言った結果なんです、とにやつく。それを見て気持ち悪ぃと言う奴にキレるのは私達の日常会話である。





「そういえば今日日向くんから聞いたんだけど」


「?なんひゃ」


もぐもぐとビーフシチューのじゃがいもを口に放り込む飛雄


「最近飛雄モテモテなんだって?」


「っ!?んぐぅっ!!」


「え!?茶!お茶飲んで!!」


急いでお茶を渡す、背中を叩いて落ち着かせる。急に噎せたな!?


「大丈夫?」


「……ん、……モテてねぇよ別に」


「嘘?何回も告白されてるの見たって聞いたよ?」


「………春高終わってからちょっとそう言うの増えただけ」


「本当?春高終わって1ヶ月くらい?……何回告られたのよ」


にやにやしてしまう、BBAの象徴なのかなんなのか青春を前にするとにやついてしまう。


「覚えてねぇよ」


「えぇ!?酷い!!可哀相!!……5回くらいは告られた?」


「………10回はたぶん」


「は!?!?」


1ヶ月で10回!?!?


それだと週に2、3回は告られてる………そりゃあモテモテだ、しかもたぶんとか言っとる、下手したらもっとだ。


「はぁー飛雄はそんなモテ男になっていたのか………今のうちに未来のお嫁さん見つけておいた方がいいんじゃない?」


「……いらねぇよそんなの」


「はぁ!?結婚しないつもり!?」


「んな事言ってねぇだろ!!」


「じゃあ今のうちから探しておくべきだよ、飛雄って自分から出会いとか探せ無さそうだし。お嫁さんいた方が良いと思うよ?美味しいご飯作ってくれて、洗濯物も綺麗に畳んでくれて、にこー!って優しく笑ってくれる奥さん」


そんな人が飛雄を支えていって欲しい、姉ちゃんの願望だ


「……名前がいるから良い」


「え?」


「俺は名前と結婚したい」


一瞬息が止まる。しかし、


真顔。ふざけている様子なんて全然無い。という所から察するに


「飛雄?いくら今の生活が楽だからって私を嫁にしてまで続けようとしちゃ駄目だよ??」


「…………は」


「結婚って言うのは好き同士が一緒になる事なの。そりゃあ私は飛雄が大好きだ、愛してる!!でも結婚する人って言うのは恋愛感情で好き同士が一緒にならないと。」


こいつ、恋愛感情とかどうでもいいから私の飯食って私が洗濯して、って言う今の生活のまま生きていくって言いたいんだろ。そうはさせるか!!ちゃんと恋しなさい!!


「姉ちゃんは、飛雄がちゃんと好きになった人と幸せそうに一緒にいる姿が見たいなぁ」


そう言うと、何故だか苦しそうな顔をする飛雄。え?まだじゃがいも喉に詰まってた?


「おちゃい」


る?と聞きたかったのに、気づけば胸倉を掴まれて


「お前、覚悟しとけよ」


鋭い眼光にそう言われたのであった。え?なんで怒ってんの?





2月14日。バレンタインデーである。


例年通りガトーショコラを焼き上げてから気づく、飛雄はなんだかモテモテらしいから今年は私の分いらないかなぁ。


粉砂糖を振りかけて完成させてから、ふむと考える。でもこれで欲しかったのにって悲しそうに言われたら可哀想で仕方ないので一応飛雄の分も切り分けておく。


あとは友人や影山家と我が家の父の分だ。


「ただいま」


飛雄が帰ってきた、おかえりー!と言いながら玄関に行くと


「………………流石モテ男」


「…………………。」


紙袋いっぱいに入ったチョコレートの数々。そしてバレー用具が入っているカバンもいつもよりパンパンに膨れ上がり、紙袋だけでは納まっていない事が見て取れる。


「と、とりあえず中入ろう、紙袋もらうよ」


「いや重いからいい」


重いんだ……


確かに内容量は凄そう、めっちゃ乱雑に入れられてるけど一つ一つ想いがしっかり込められたチョコレートなのだろう。飛雄には全然伝わってなくて可哀想になるが。


なんとかリビングまで辿り着き、紙袋を置く。はぁ、と疲れた様子の飛雄は椅子に座った。


「それにしても本当に凄いね、本当にモテモテだ!直接渡されたの?」


「…直接もあったし、下駄箱とか机とかロッカーとか……色んなところに詰め込まれてた」


「すげぇー!!少女漫画みたい!!」


「……………。」


「ご、ごめんて」


本当に参っている様子の飛雄からしたらムカついたらしく、ギロリと睨まれた。切れ長の目をしてるのでめっちゃ怖いんだから辞めてよ。


「でもこれ全部食べるの?太るし体に悪そうだけど」


「食べ切れる訳ねぇだろ………捨てる訳にもいかねぇし、部活にでも持ってく」


「え?それ田中くん辺りに殺されない?」


「…………………………なんとか、話をしてみる」


こんのモテ男がぁ!!見せびらかしに来たんですかコラァ!?ってキレそう。でも本人自慢してる訳じゃなくて本当に困ってるんだから笑えてしまうな。


「メッセージカードついてるの多いから、それだけはちゃんと読んだら?皆勇気を出して飛雄に持ってきてくれた訳だろうし」


「………ん、わかった」


そう言うと1つずつ取り出して、メッセージカードだけ引き抜いていく飛雄。流石にこの数じゃお返しも出来そうにないな。


そういえば、直接渡してきた子もいたって言ってたけど


「チョコ渡すのと一緒に告白されなかった?」


「………された」


「やっぱり。可愛いなぁって子いなかったの?」


「可愛いとかよくわかんねぇ」


「は?思春期の男子としては有り得ない発言なのでは?」


「うるせぇよ!!日向とか田中さんとかが可愛いって言ってる人見てもなんも思わねぇし……」


「あー……潔子ちゃんの事もなんとも、なんだっけ?」


「清水先輩は清水先輩としか思わねぇ」


あれ?この子大丈夫かな?このままの調子で独り身で生きていかないか心配なんだけど……


「それなら見た目じゃなくて中身で判断したら?ちょっと仲良くなってみるとかさ」


「………今はバレーに集中してぇから」


「そっかぁ、でもチャンスはいつもある訳じゃないからちゃんと見極めなよ?」


「ん。……………名前のは?」


「え、そんなに貰っといて私のまで貰うの?欲張りだね!?」


「…………量じゃねぇだろ、誰から貰ったのかで価値は変わるだろ」


「だからこそだよ、そんだけJK達に貰っといて、毎年貰える私のチョコの方が大事な訳ないでしょ」


「それを決めるのは俺だろ、いいから寄越せ」


「言い方!!」


貰う側の分際でなんと言う口の利き方だ、腹立つヤツめ。


切り分けておいたケーキを出そうとして、固まる。待て待てまずは


「まずはご飯食べよ?」


「……腹減った、食べる」





「ご馳走様でした」


「お粗末様でした」


「ケーキ寄越せ」


「言い方な??」


今たらふくご飯を食べたと言うのにすぐケーキを所望してくる飛雄。相変わらず胃袋が大きいことだ。


「はいどうぞ、毎年同じのなんだから明日にでも食べればいいのに」


それより少しでも彼女達のチョコレートを食べてあげて欲しい


「名前が作る菓子も飯もすげぇ好きだ。だから早く食べたくなる。」


真顔でそんな事を言う飛雄に思わず顔に熱が集まる。


嘘偽りの無い言葉だってわかってるからこそ、ダイレクトに心に響いてのたうち回る。


「あ、ありがとう。嬉しい。」


「……照れてんのか」


「うるさいなぁ!?そうだよ!!すぐそうやって口に出しちゃうの辞めた方がいいんじゃないかな!?」


「逆ギレすんなよ」


「してねぇよ!!ばーか!!」


もしゃもしゃガトーショコラを口に放り込んでいく飛雄。


「ご馳走様でした。今年も美味かった。」


「はいよ、ありがとね。これ、少しは自分で食べなよ?失礼だから」


紙袋を指差して言う。そんな危ないものでも入ってる訳ではないだろうし、全部他人に渡すのは失礼だ。


「………中身見て決める」


「そうだね、食べたらヤバそうって思ったら申し訳ないけど処分しな?あと冬だからよっぽど大丈夫だろうけど……手作りだろうから1週間超えてきたらもう辞めた方がいいかもね…」


「わかった、気をつける」


素直に頷く飛雄。全日本ユースにも選ばれる大事な体だ。こういった事で体を壊されたら困る、結構大雑把な奴なので私が注意しておかないと。


そして飛雄を振り回したバレンタインデーが終わり、次の日部活に大量のチョコを抱えて行った飛雄は田中くんと西谷くんに舌打ちされまくったらしい。


帰ってきてから少し悲しそうにそう話した飛雄を見て申し訳ないが爆笑してしまった。