及川くんとデートしてから早数ヶ月。及川くんはアルゼンチンに旅立ち、飛雄達は2年生に進級して、じわじわと暑さを感じる季節が近づいてきた。
「ただいま」
「おかえり!」
「…………はぁ」
ここ最近飛雄はお疲れ気味、どうしたんだ若者よ
「どうしたの?最近疲れてるよね」
「……最近、見に来る人多くて気が散る」
「見に来る人?」
「………なんか用がある訳でもなく部活見に来る人が沢山いる」
「………………ファン?」
姉ちゃん驚いた。飛雄、もうアイドル的な人気……!?いやでも聞いた話だと月島くんもモテモテだって聞いたから1人だけでは無いだろうけれども。
「な、ファンって!?ただの高校生だろうが。」
「とは言え用事無く見に来る子が沢山いるんでしょ?」
「………あぁ、部活が始まると来て部活が終わると帰る」
「女の子達?」
「………おう」
「じゃあそれは飛雄達がかっこいいから見に来るんだ!!田中くん達に舌打ちされない?」
「される。すげぇ最近される。」
これが決定打だ、飛雄は口下手だから話が分かりづらいけれど、田中くん達はわかり易くて助かる。
「すごいじゃーん!もう学校のアイドルだね!」
「なんも嬉しくねぇよ……練習中うるせぇし、谷地さんも困ってるし」
「谷地さん?」
「おう、谷地さんがそういう人達に勝手に入るなとか注意するとキレるらしいし。あと彼女いるのかとか聞かれるらしい………谷地さん自身が疑われたりとか。」
「飛雄達の誰かと付き合ってるんじゃないかって?」
「おう、それならそれでお前らには関係ねぇだろ、って思う」
珍しく飛雄が呆れている。いつも怒ってるかニヤついてるか無表情かが多いので珍しい。
「そっかぁ、それは谷地さん大変だねぇ……」
可哀想に。そもそも潔子ちゃんいなくなって後輩の面倒も見ながら頑張っていると聞いているのに可哀想だ。
なんとか出来るの良いのだけど……
◇
「あの、全国大会見て好きになりました。………私と付き合って貰えないですか!!」
「……悪ぃ、付き合えねぇ」
「………そうですか……好きな人、いるんですか……?」
「あぁ、いる。すげぇ好きな人いるから付き合えねぇ。」
「やっぱりそうなんですね……ありがとうございました」
ふぅ、とため息をつく。最初こそ告白される事に舞い上がったりもしたが、ここまで来ると告白されても全く嬉しくない。
でもだからって無下にも出来ないので、毎回受け答えしているが時間も取るし、こっちの精神的にも辛いので参る。
「かーげやーまくん。また告られたんですか?」
「……うっせぇよ」
「それにしてもモテ男になったもんだよなぁ、くっそう……」
「……でも付き合う訳じゃねぇから、断り続けるのはキツい」
「そうだよなぁ、お前には苗字さんがいるもんなぁ」
「日向ー、影山くん。そろそろ部活始まるよ?」
「あ、谷地さん!!ありがとう!行くぞ影山!」
「おう」
◇
「告白されないようにしたい?」
「あぁ」
「くっそう……そんな事言ってみてぇよ……!」
「うーん……」
「それに、谷地さんも大変だろ。俺の事で色々言われてんだろ。」
悪い。と頭を下げる、名前に話しても可哀想だと言われてた通り、谷地さんは何の関係もないのに可哀想だ。
「い、いやいや!!影山くんのせいじゃないよ!!……でも確かに、影山くんの人気が収まれば色々と収まるような気はする……」
「確かになー。月島もモテてるけど、お前程じゃあねぇんだろ?」
「んなの知らねぇよ」
「確か月島くん本人はそう言ってた気がする!」
「なら、お前に告っても意味ねぇー!!って感じの雰囲気にさせればいいんじゃね?」
「だからその方法を聞いてんだよ」
「……そうだった」
「うーん………………………あ。」
「お?」
「?」
「わ、私ね初めて苗字さん見た時に綺麗過ぎてびっくりしたんだ」
「あ!!それは俺も!!びっくりした!」
「だよね?それでね、もはや別次元の美人だ……!って思ったの。だからそれを影山くんに取り巻いてる人達にも同じ感覚を味わって貰うのはどうかなって!」
「「?」」
「あーえっと………」
「つまり、苗字さんに取り巻き達がいる時に来てもらって、王様と仲良い所を見せつけてもらう。それで戦意喪失させる、って事でしょ?」
「月島!」
「そう!!そうです!!私の説明が下手でごめんね…」
「いや、充分だったけど。山口もわかったでしょ?」
「うん、そういう事だろうなーとは」
「なるほど……それならさ、もういっそ苗字さんに影山の彼女役やってもらうってのは!?」
「あ、いいねそれ!!それの方がより戦意喪失する!私なら無理だって思うよ!」
「でもそれ苗字さんの協力が必須な訳だけど、大丈夫な訳?」
「それは大丈夫だ」
「凄い自信あるね?」
「逆を何度もやった事ある」
「「「逆?」」」
「俺が、彼氏役を何度もやった事ある」
「そうなのかよ!?え、苗字さんなんでそんな事、」
「大体元彼に復縁求められて新しい彼氏出来たから、って言うのに付き合わされたりとか。あとはカップル限定のメニュー食べるために連れていかれたりとか。」
「なるほど……苗字さんも最大限利用してるんだね」
「だから、俺が頼んだらやってくれるはずだ」
「じゃあそれで行きましょう!!苗字さんが来れる日にち、また教えてください!」
「おう」
◇
「ほうほう、それで彼女役ね?任せろ!!」
「助かる」
「いいんだよ!むしろいつも私ばかりがね……よーし、飛雄の彼女はとんでもねぇ美人だって思わせれるよう気合い入れなくては!!」
そのままでも充分美人だ。なんて言っても、からかうんじゃねぇよバーカ!!と言ってくるに決まっているので言わない。
「彼女ぶってぶりっ子した方がいい?」
「ぶりっ子……?いやそのままの俺たちの距離感で充分だって谷地さんは言ってた」
「ホント?じゃあ彼女ですかって聞かれたらはいそうです、って言えばいいの?」
「ん、頼む」
「あいよ!姉ちゃんに任せな!!」
姉ちゃんじゃなくて、本当に彼女になって欲しいけど。俺が高校生のうちは相手にされないってよく分かった。だから今の内はこの距離で我慢する。
でも卒業したら、いや進路が決まった時点で俺はもう大丈夫だから、と気持ちを伝える。及川さんには絶対渡さねぇ。
◇
「うわぁあ!!今日も影山くんかっこよ過ぎるよ……!」
「わかる!!背高いし顔もかっこいいし、勉強出来ないのも可愛いよねぇ」
「ねー!」
「影山先輩って好きな人いるって本当なのかな?」
「え、何その情報」
「前告った子がそう言われて断られたって聞いた」
「あー……どうなんだろ?絶対誰とも付き合わないし、適当につけた理由かもよ?」
「確かに……」
「………今日も大盛況ですなぁ」
「影山め…………羨ましい!!!」
「泣くな龍…………それに影山だけじゃねぇ、月島もだ」
「ぐうぅっ!!!」
「あは、あははは………」
「谷地さーん!」
「日向!」
「今日の作戦で上手くいくといいね!」
「そうだね!少しでも収まってくれたら助かるなぁ……でも私ならあの二人見たら戦意喪失すると思う」
「うーん……確かに仲良いもんなぁ」
「練習始めんぞー!!」
「あーす!!行こ!谷地さん!!」
「うん!!」
◇
「うっわ美人……」
「顔ちっさ!!」
「大人っぽー……誰だろ?」
「さぁ……え、こっち来るけど」
ざわめく女子生徒達の声が聞こえる。そうでしょうそうでしょう、びっくりしますよね、私もびっくりした!!
「ちょっとすいません、通して貰えますか?」
「あ、は、……はい」
「ありがとう!」
にっこり笑って体育館に入ってくる苗字さん。私と目が合い、任せろ!!と言わんばかりにウインクして来る、しかしそのウインクが可愛過ぎて美し過ぎて私はくらくらしてしまう。
「こんにちはー!」
「「「ちわーっす!!」」」
「苗字さぁああん!!お久しぶりです!!」
「久しぶり!田中くん!!元気だった?」
「はい!!苗字さんもお元気そうで何よりっす!!」
「苗字さああん!!」
「西谷くん!!いぇーい!!」
「いぇーい!!今日も綺麗っすね!!」
「ほんと?ありがとう!!でも今日は飛雄の彼女役だから気合い入れてきたの」
小声でそう言う苗字さんは、内緒だよ?と言わんばかりにシーっと口元に人差し指を当てる。可愛い。めっっちゃ美人で近寄り難いのに、中身は可愛過ぎてモテる要素しかない。
勿論今日の作戦の話は部員全員で共有済みで、皆この状況を打破したいと考えていたので承諾してくれたのだ
何より苗字さんが1つ返事で快諾してくれたので、こうしてすぐ作戦に入れたのだ
「苗字さん!」
「日向くん!………え、ちょっと背伸びた?」
「わかりますか!?」
「うん、微妙に……まだまだ伸びるんだねぇ、私高校生1年生で止まったきりだから羨ましいよ!」
「いつかは影山も抜かします!!」
「んだと、やってみろよ」
「なんだと!?」
「飛雄ー!!」
むぎゅぅ、と抱き着く苗字さん。するとざわめくギャラリー。でしょう?びっくりするでしょう?でももはやこの光景は日常なのです。
「ん、ありがとな来てくれて」
「いいのいいの!愛する飛雄の為だし!」
「………愛する、な」
「ん?」
「俺も愛してんぞ」
「うぉ、…………そ、そうか、……ありが、と、う」
影山くんの発言に私含めて部員一同、そしてギャラリーも盛大にざわつく。え、影山くん大胆……!
それに対していつもはにこー!と笑ってありがとう!!とでも言いそうな苗字さんだったけど、何故か今回ばかりは照れている様子
あれ……?もしかして、影山くんもしかするのでは?
◇
「照れてんのか?」
「う、あ、て、照れてねぇよバーカ!!」
思わず悪態をつく、何今の。愛してんぞなんて普段言わないじゃん、私が1人で言ってるだけだったじゃん。
それに今の顔、何よ。本当に愛おしそうに、まるで本当に彼女といるみたいな顔。
私は姉ちゃんだぞ、コラ!?………いやもしや飛雄は飛雄なりに私とのカップルを演じた……なるほど……?
「え、あの人……影山くんの彼女って事……?」
「嘘、好きな人って言うか彼女いたの……!?」
しかしまぁ、実際に見ると飛雄のファン達は多数いて、かつ可愛い子が多くてにんまりしてしまう。こんなかわい子ちゃん達にちやほやされても靡かないとは。
でも彼女達のざわつきを見ていれば、私が今日来た意味はありそうだ。飛雄に想いを寄せる彼女達には申し訳ないが、飛雄にぎゅううっと抱き着いて、至近距離で会話する様子を見せつける。ごめんね。
「おい、近ぇよ」
「見せつけてんの、じゃないと意味無いでしょ」
「………。」
「…何、照れてんの?」
「ち、違ぇし!!お前とは違ぇよ!!」
「わ、私だって照れてねぇし!!」
「いや、お前は照れてた。赤くなってたし。」
「うるせぇんだよ!!」
◇
「おつかれっした!!」
「「「おつかれっした!!」」」
無事部活が終わり、ファンの皆さんも散っていく。ごめんね、本当は彼女じゃないんだけど迷惑してるみたいだから。
「あの、」
体育館の入口付近から家路についていくJK達を眺めていると、その中の1人に話しかけられる。傍らには友達だろうか、2人付き添ってるのが見える。
「はい?」
「あの、影山くんの彼女なんですか」
「はい、そうですけど何か?」
「……私影山くんの事好きなんです」
顔を赤くして話す女の子、非常に可愛い女の子。普通にモテるだろうに飛雄に想いを寄せているのか、健気な事だ。
「私に、譲ってくれませんか。」
しかし、私がもし本当の彼女なら激昂していたであろう言葉を吐く彼女に少し嫌悪感を覚える
「ごめんね、それは出来ないよ」
「……ですよね」
「だって私自信あるから。誰より飛雄を幸せに出来る自信も飛雄を守り抜く自信も。」
「守り抜く……」
半分本当、半分嘘だ。守り抜く自信はあるけど、幸せに出来る自信は無い。
「あなたは飛雄の何を見て好きになったのかな?私はダメな所も情けない所も全部愛してるの。飛雄のかっこいい1面だけ見て好きになったであろうあなたには渡せない。」
試合に負けて泣いてる顔も
白目を剥きながら勉強してる顔も
逆ギレして怒っている顔も
よだれを垂らして寝ている顔も
全部全部愛おしい。
それ等全部合わせて飛雄なんだ。私が10年連れ添った飛雄。
「………っ」
何も言わずに去っていった女の子。その子を追って共に去った友人達。
大人気無い事言ってしまったなぁ、と少し反省する。でもこれで飛雄の彼女はやべぇ激重女だ、って広まってくれれば結果万々歳なんだけど。
◇
「あなたは飛雄の何を見て好きになったのかな?私はダメな所も情けない所も全部愛してるの。飛雄のかっこいい1面だけ見て好きになったであろうあなたには渡せない。」
「かーげやーまくーん?何してるのぉー?」
「………うっせぇ」
女子生徒に話しかけられた苗字さんが心配で見ていると影山くんも日向もやって来て、そこに田中さんや西谷さんもやって来て皆で見ていた
しかし苗字さんは私たちの心配に反してとんでもなくかっこいい返答をして自分で追い払ってしまった。
かっこいい……!と言うかそんな事あんな美女に言われてみたい……!!
そう思うのは私だけではなく、田中さんや西谷さんは
「うっ、うぅっ……強い、お強い…!!」
「苗字さんっ……一生ついて行きます……うっ……!」
大号泣で、更には影山くんまで両手で顔を抑えてしまった、耳が赤いことから大変照れている事がわかる。そしてそれをからかう日向。なんとも楽しそう……
「あれ、皆何してんの」
するとこちらに戻ってきた苗字さんに見つかってしまった!!慌てて弁解しようと皆で慌てるが、
「飛雄?どうしたの、顔赤い」
影山くんの頬に手を伸ばして、心配そうに見つめる苗字さん
「………俺も、渡さねぇからな」
「は?」
それに対して真っ赤な顔のままそう告げた影山くん。
及川さんとの話も聞いていた私としては影山くんを応援する。頑張れ、全然伝わってないけど頑張れ影山くん……!!