むくっ、と体を起こして時計を見る。現在22時。
今日は土曜日だけど、眠くなったから20時くらいにはベットに入ってしまったのだった。しかし目が覚めてしまったなぁ。
それになんだかお腹空いた。………夜中に食べたら体に悪いって、悪いってわかってるけども、ラーメンが食べたくなってきた。
うぅ、動いてないくせにラーメンをこんな時間に食べたら脂肪を沢山蓄えてしまう。わかっているけど、一度考え始めてしまったら止まらなくなってきた。
幸い今日は飛雄の両親共に出張で家に帰らないって言ってたから、誰にも見られず外に出られるだろう。
飛雄は基本21時には就寝するので今はもう夢の中。ふふふ、いつもなら太るぞ、と小言を言われるが今日は言われずに済む!!
いそいそと外に出る準備をして、上着を羽織り、髪を結びすっぴんのまま玄関に向かう
一応飛雄が寝てるので静かに静かに、と意識しながら歩いたはずなのだが、
「おい…………どこ、行くんだ」
「びゃあ!?」
背後から飛雄に話しかけられ、震え上がる。びっっくりした……
「お、起きてたんだ」
「……トイレ。どこ行くんだよ」
少し寝惚けたままの飛雄に聞かれる。ラーメン食べに行こうと思ってましたなんて言えない。ここは適当に流して、ベットに寝かしつけよう。そして家を出よう。
「ちょ、ちょっとコンビニまで。すぐそこだからぱぱーっと行ってくるだけだよ」
「……………?……おれもいく」
「え!?いや、大丈夫だよ?飛雄は寝てな??」
飛雄の背を押して部屋に押し込む、しかしゆらりゆらりと押し返して来て中々ベットに入ってくれない。
「いく。……こんな時間に1人はあぶねぇよ」
ふにゃふにゃとしながらも男らしいことを言ってくる飛雄に少しきゅんっとしながらも、
「大丈夫だから!!寝て?明日も部活だよ?」
「………じゃあコンビニも明日の朝にしろ」
「そ、それは……」
それは無理だ、私の腹がもう無理だと叫んでいる
こうなったら仕方ない、飛雄が寝てから出直そう。
「わかった、明日の朝にするから寝て?」
「………………ん。」
もそもそとベットに帰った飛雄。布団をかけてあげておやすみ、と頭を撫でればすぐにすやすやと寝息をたて始める。
そのまま忍び足で部屋を出て、15分程度リビングで過ごしてみても起きてくる気配は無かったので、今度こそ玄関に向かう。
ごめんね飛雄、ラーメンの為に嘘をつく姉ちゃんを許して……!!
そう心の中で懺悔したのに、
「おい」
今度は目をカッ!!としっかり開いた飛雄が玄関で待っていた。あれ??
「な、なんで」
「お前があんな簡単に諦めるなんておかしいと思って、寝たフリした」
こいつ………………!!!?
いつからそんな悪知恵が働くやつになったんだ!?
「今失礼な事考えてるだろ、大体名前のせいだからな。お前も俺にやった事あるだろ」
そう言われて胸に突き刺さる、身に覚えしかない。
「で?本当はどこに行こうとしたんだよ」
「…………………ラーメン食べたくなっちゃって」
「は?こんな時間に?」
うぅ!!わかってるよ!!お前正気か?とでも言い出しそうな飛雄の顔にグサグサとHPが削られる。
「だって!!1回思っちゃったら止まらなくなって!」
「明日まで我慢しろよ」
「無理!!ラーメン屋さんのラーメン食べないと寝れない!!」
「はぁ…??」
「だから放っといて寝て!!私はラーメンと共に脂肪になるから!」
「太るぞ」
「わかってるから脂肪って言ったんだけどぉぉおおお!!??」
「うるせぇ。……………俺も行く」
「うるせぇのはお前だよばあああか!!!………へ?」
「俺も行く」
「だ、駄目だよ!!飛雄の体は大事な体なんだから!!」
私みたいに車乗って移動して仕事も座ってばかりいるようなポンコツな体でも出来る生活を送っていないんだから。
「1日くらい平気だ、その分明日脂質抑えれば。名前なら出来るだろ」
「そりゃ鶏胸肉と仲良くすれば出来るけども……」
「だろ、じゃあ行くぞ」
ジャージを上から着て、欠伸をしながら靴を履く飛雄。なんだか申し訳なくなってくる。
「ご、ごめん」
「?何が」
「着いてきてもらっちゃって。」
「別に。明日の朝1人で夜中にラーメン食って来たって言われるよりは遥かにマシだ」
「なんで?」
「夏ぐらいにも言っただろ、お前人目引くんだからこんな夜に1人で外出んなよ。俺の目が届かねぇと助けられねぇだろうが。」
「うっ!!……すまん」
そう言えばそんな事も言われたなぁ、日々交わす飛雄との様々な会話の中に埋もれていた。
2人でテクテク歩いて、近くのラーメン屋さんに到着
勿論私の奢りでラーメンを頼み、カウンター席に座る。暫くすると、ふわりと良い匂いをさせながら糖と脂肪の塊はやって来て、お腹が激しく鳴った。
「でっけぇ腹の音」
「うるさいな!?お腹空いたんだもん……いただきます!!」
「いただきます」
お、美味しいいい!!!これを求めてたんだよ!!こんな時間に食べるという背徳感もあり、より美味しく感じる。太るなこりゃ……
「美味いな」
「な!!」
「……っふふ、ははは!!」
「?何さ」
突如私の顔を見て笑い始める飛雄、失礼過ぎんか?
「すげぇ幸せそうな顔してんぞ、顔が溶けてる」
「いやもう今すげぇ幸せ。美味しい!!」
ラーメンの美味しさとお腹を満たせた幸福感で私の顔はゆっるゆる。
すると隣に座った飛雄が私の頬に手を伸ばし、引っ張った
「!?い、いひゃい!!」
「ははは!!……ずっとこうやって笑ってろよ」
ぱっと手を離してそんな事を言う飛雄。そりゃ幸せに越したことは無いよね
「うん、出来れば笑ってたいよ。はぁ、私飛雄といる時みたいに馬鹿笑い出来るような彼氏出来るかなぁ。」
「………出来ねぇんじゃねぇの」
「え!?なんて酷い事言うの!?」
「だってお前、すぐ猫被るだろ」
「そりゃ一端の大人なので」
「大人は猫被んのかよ……?その割に中身は口悪ぃし、すぐ暴力振るし、笑い声うるせぇし」
「う、うるせぇな!?」
「いつも着てるパジャマのゴム伸びまくってるし、よだれ垂らして寝るし、白目剥くし、鈍臭いだろ」
「姉ちゃんへの精神的ダメージ凄いんだけど……?」
でも確かに私はそんな女でした……ずっと一緒にいた飛雄が言うんだから信憑性は非常に高い、辛い。
「だからそう言うの見ても一緒にいられんの、俺だけだと思うぞ」
「それだと私、飛雄と結婚しないといけないじゃん」
「おう、……嫁に来いよ」
「行かねぇよばーか」
「だから、なんでだよ!!」
「うわぁ!?急に大声出さないでよ、ほらもう出るよ」
ご馳走様でした、と店主に声を掛け外に出る。
「うぅ、結構寒くなってきたなぁ」
「………これ着とけ」
飛雄が上に羽織っていたジャージを脱ぎ、私に渡す。
「いや、ダメダメ、飛雄が体冷やしたら元も子も無い」
「今ラーメン食って暑いぐらいだから平気だ、着ろ」
「………そう言うなら。ありがとう!」
飛雄のジャージを受け取り、上から羽織る。でっっか!!
「え、ちょ、でか!!あははははは!!」
あまりに袖が余りすぎて笑えてくる、同じ人間かよ!?
「お前……ちいせぇな」
「いや飛雄がデカいんでしょ!?あははは!!見てみて、でろんでろん。あははははは!!」
肩幅も丈も袖も全部遥かに大きくて、飛雄は大きくなったんだなぁと感じる
「私が最初飛雄と会った時は私の腕の中に収まっちゃったのに。」
「いつの話だよ」
「それが今はこんなに大きくなったのかぁ………大きくなったねぇ」
お互いの両親が忙しく、家事に学業に目が回るような日々。
それに加えて、気難しい飛雄の勉強を見たり、試合を見に行ったり、電車の乗り方を教えたり、試合結果に泣く飛雄を励ましたり。
正直それなりに大人になるまで大変過ぎて飛雄が憎くなる時もあった。どうして飛雄は好きな事をやれて私は。どうして親も私に家事以外のことまで全部押し付けるの。なんて思った時もあった。
でもこんなに大きくなって、将来有望な選手になってくれて。私が育てたと言っても過言では無い程支えてこれて、
「……私は飛雄の姉ちゃんでいられて、幸せだなぁ」
ぽつりと呟く。ありがとう、成長を見守らせてくれて。
「………なんで、そう思うんだ」
「飛雄がこんなに立派になってくれたから、頑張った甲斐があったから」
「…………俺が卒業したら、もう頑張らなくていい」
「うん、後は親たちとのんびり生きていくよ」
「……………なぁ名前」
「ん?」
「俺、卒業したらVリーグに行く」
「……………………は?」
大学のチームでやってくんじゃなくて?
「誘われてる。全日本ユースの方から。」
「…………え、じゃあすぐプロ?」
「おう」
「えぇ!?」
「だから東京に行くつもりだ」
「そ、それはまぁ地元から離れるんだろうなとは思ってたけども……」
「一緒に、来ねぇか」
「……ん?」
「一緒に、東京来てくれねぇか 」
眉間に皺を寄せ、言いにくそうに言う飛雄。たぶん頭の中には私の仕事の事とか、親のこととかが踊ってるんだろう。
その通りだ
「ごめん、それは出来ない」
「……そっか」
「うん。飛雄に養ってもらうつもりじゃないと仕事だって辞めれないし。親の方はまぁ何とかならん事も無いかもだけど、私の仕事はどうにも。」
「養うって言ったら来てくれんのか?」
「……まだ一銭も稼いでねぇ癖に何言ってんだおめぇは!」
ペシン!!と頭を叩く。そういう事は稼げるようになってから言いなさい!!
「っでぇな!?」
「ふん!!高二が偉そうなんだよばーか!!」
「んだと!?」
「やんのかゴラ!?」
「…………ぶかぶかな俺のジャージ着て凄まれても全然怖くねぇな」
ふん、と鼻で笑われる
「な、なんだと!?」
「ほら、お前すっ転ぶだろ」
そう言って手を差し出す飛雄。ジャージも貸してくれて手も繋いでくれるなんて、彼氏か?お?でも飛雄は中々良い彼氏になりそうな気がする。ムカつくけど優しいし、かっこいいし将来有望だし。
「ん、飛雄はきっと良い彼氏になるからちゃんと可愛くて優しい女の子と付き合いなよ?」
もし見た目は置いておいて、性格が悪い女の子でも連れて来たら少なくとも私は可愛がれないし、飛雄はこんなにいい子に育ったのになんで。って思ってしまう。
「…………………………………おう」
「え?何その間??」
「優しくて可愛くて、家事が出来て頭が良くて、よく笑う人と結婚する予定だ。」
「マジかよ!?めっちゃハードル高くね!?」
そんなに理想が高いとは思わなかった。てか理想とかあったんだ、このバレー馬鹿に。
「しかも20代前半には結婚する予定だ」
「え?!なんでそんな具体的なの!?」
「そう決めてるから」
「そ、そうだったんだ……姉ちゃん飛雄を侮っていた…すまんね今まで結婚しないつもりかー!って怒ったりして」
「いや、……………そう簡単には手が届かないと思うから、もしかしたら結婚出来ずに一人でいるかもしれねぇけど」
いやまぁそりゃそんだけ理想高けりゃな。なんて口から出そうになるが、完全に煽っているのでなんとかお口チャックする。
「ん、ま、まぁね、努力して駄目だったんなら仕方ないよ。そうなったらまた姉ちゃんとのんびり生きてこう。」
「お前は及川さんが30歳になってもお互い独身だったら、及川さんと結婚すんだろ」
「……………………え、何で知ってるの」
もはや私が忘れかけてたんだけど。だって絶対及川くん結婚するじゃん、30歳まで売れ残る訳ないじゃん。しかもアルゼンチン行って私なんかとはもうずっと会わない予定なのに。
「………………噂で」
「噂ぁ!?そんな噂流れてたまるか!!?」
「いいから!!本当なんだろ!?だから、20代のうちに貰うからな」
「何を?」
「…………帰るぞ」
「えぇ!?」
何言ってんだこいつは。ふん!!と何故か怒りながらも離さない手に矛盾してるなぁと笑みを零し、少しだけ力を込めた。