姉ちゃんもどきと花火大会

「飛雄!!!花火大会行こ!!」


「は?行かねぇ」


「去年海行ってあげたじゃん!!」


「………チッ」


「こんのクソガキ!!」


「お前友達いねぇのかよ」


「お前に言われたくないわぁ!?皆!!彼氏!!だってよ!!!きいいいい!!」


そう言って怒る名前。まぁそりゃそうだろう、彼氏いたらそっちと行くだろうな。


と言うかこれまで花火大会なんて一緒に行ってなかったのに、急になんで。


「なんでそんな今年行きたがるんだよ」


「今年っていうか毎年飛雄の部活があったから誘いたくても誘えなかったの!!それが今年たまたまオフじゃん!行こうよ!」


そういう事か。毎年、行きたかったんだな。


「わかった、行く」


「ありがとう!!ね、浴衣着ようよ」


「あ?めんどくせぇ。名前だけ着ろよ」


「駄目だよ!!たぶん飛雄浴衣似合うし!!日本人的な顔だし!」


「日本人だから当たり前だろ」


「その何言ってんだ?って顔まじでムカつく」


「あ!?」


そして始まる取っ組み合い。これで俺が名前を負かすまでが1セットだ。





「よし!!出来た!!」


「着付けなんて出来たのかよ……」


どこまでもハイスペックな人だ、とまた知らない一面を知って驚く


いつこんなの覚えたんだよ


「そう!!いつか自分で着てみたいって思ったのと、飛雄にも着せたいって思ったから両方覚えた!!凄い?凄い!?」


「うるせぇよ」


「はいクソガキ」


「あぁ!?」


「ぎゃあ!着付けが崩れるから暴れないで!!」


じゃあ私も着てくるから待ってて!と言い残してリビングを出ていった名前。


当たり前だが着せられてる間、ほぼ裸を晒した訳だがなんの反応も無かったことに、地味にショックを受ける。


俺の体じゃなんも思わねぇのか……そりゃそうか、昔から見てきてるんだもんな





うおああああ!!?


と、飛雄の体いい、いっぱい触ってしまった


そりゃいつも触ってるけども!!生!!生の肌!!!スベスベ!!


しかもめっちゃ筋肉ついててもりもりしてて、感動してしまった。かっこよすぎんか?


年々どんどん女から見て優良物件になっていく飛雄に姉ちゃんは、変な女に騙されないか心配になるよ……イケメンだし、高給取りになるだろうし……


なのに頭は弱いから、すぐ騙されそう……


私が傍にいてあげられたらなぁ、と帯を巻き付けながら思う。いやいやダメだ、それだと私も飛雄もお互い離れる事が出来ない。


飛雄の高校卒業は良いきっかけだ、これを逃したらもう離れられないかも。


うぅ、まさかこんなに弟離れが出来ないとは……情けない


でも、飛雄が可愛すぎるのがいけないんだ。妙に素直に育ったし、なんだかんだ優しい子になってくれた。姉ちゃん嬉しい!!


最後に髪型を仕上げ、完了。飛雄をかなり待たせてしまった、怒ってるかな……急いでリビングに戻った





「ごめん!!お待たせ!」


「ん、……………。」


バタバタとリビングに戻ってきた名前。


その姿を見て、固まる


え、ちょ、…………は、か、可愛い。可愛過ぎるぞ。いつもと全然違う、


「飛雄?どう?似合ってる?」


そう言ってにこー!といつものように笑顔を浮かべた名前に俺は完膚なきまでに叩きのめされる。再起不能だ。


「え?飛雄?聞いてる??」


こんな時だけは、自分の弟もどきと言うポジションに感謝する。ありがとう、理由無くこの人と出かけられる立ち位置でいさせてくれて。


「飛雄!?」


「ぅあ、お、おう」


「大丈夫?調子悪い?辞めとく?」


「いや、大丈夫、げ、元気だ」


「そ?……似合ってる?姉ちゃん」


「………………に、」


「に?」


こういう事をすぐ名前は言わせたがる。恥ずかしいからあんまり言いたくなくて、苦しみながら言う俺をみて笑うのだ。悪趣味な。


そして今だってニヤニヤと笑みを浮かべてる、腹立つ。


「…………っ似合ってる!!」


「あははは!!!キレながら言わないでよ!!」


やっぱり笑われた。ムカつく。


「はー面白い………飛雄のそうやってちゃんと言ってくれるとこ、姉ちゃん大好き」


大好き


大好き。


「飛雄?」


「………お前は!!なんで!!!そう!!」


「はい!?」


さらっとそんな事言う名前の肩を掴み、揺さぶる


絶対今の俺は顔が赤いだろう、熱いのが自分でもわかる


でも仕方ないだろう、長年片想いしてる人から大好きなんて言われてみろ、不意打ちにだぞ、平常心でいられるかぁ!!


「うわ、うわあああ!!よ、酔うから!!辞めて!!」


「もう!!行くぞ!!」


強引に名前の手を掴み外へ出る。まってよぉ!と言う声を聞き足を緩める、こいつは鈍臭いのですぐ転ぶからな。


「よし履けた、行こっか!」


当たり前のように手を差し出す名前


「あっ………最近ずっと夜に出かける時手繋いでたから、つい。すまん。」


そう言って引かれる手を俺は掴む


「お前転ぶからな」


「失礼な、いつも転ぶ訳では無いぞ」


「大体転けそうになるだろ」


「ぐぬぬ………言い返せぬ」


握った手を絡ませ、恋人繋ぎにする。それに対して名前も手に力を入れて握ってくる。


あぁ、だから辞められない。


言い合いながらも触れ合うこの距離感が気持ち良くて仕方ないんだ。





「何食べる?」


「焼きそば」


「いいね!」


財布を取り出し、屋台へ向かう。2人で出かける時は大抵私が財布係だ。飛雄が選手になったらきっちり返してもらわないと。


その後も続々と飛雄が食べたいと言ったものを買った結果、凄い量になってしまった。


「これ全部食べれる!?」


「いけるだろ、名前もいるし」


「その言い方、嬉しいような悲しいような……」


適当に落ち着いて食べられそうな場所を見つけて、座る


片っ端から開けてもぐもぐし始める飛雄。こいつ東京行ってナイフとフォーク渡されてもなんも出来ねぇんじゃねぇかなって思って、笑えてくる


「なにふぁらっふぇんふぁ」


「飛雄、東京行ったらお偉いさんとご飯食べに行ったりするかもじゃん?」


「?そんな事、あんのか?」


「知らんけども。先輩とか。……そうなった時にオシャレなお店連れていかれても、テーブルマナーとか全然出来なくて困りそうだなぁと」


「てーぶるまなー?………教えろ」


「私が知ってるとでも?」


「名前が知らねぇことなんてあんのか、一般常識で」


「あるわぁ!!テーブルマナーなんてノリと勘で乗り切ったことしか無いから、ちゃんと勉強した事なんて無いよ」


「じゃあ一緒に勉強しよう」


「……………それはアリ」


「決まりな」


今度テーブルマナーの教本買ってこないとだなぁ……





「花火綺麗だった!」


「な。」


「な!!」


「あんな間近で見たの初めてかもしれねぇ」


「そんな事ないよ!!飛雄が保育園の時に行ったよ」


「覚えてねぇよそんなチビの時の話」


「えぇー!?姉ちゃん達との思い出があぁ!!」


「無茶言うな!!」


「酷いなぁ……そう言えば、東京も大きな花火大会あったよね」


「あー…………確か」


「いいなぁ、絶対向こうの方が凄いよ。見に行った方がいいよぉ」


「じゃあ東京まで来い」


「私はいいよ!?東京遠いし……」


「……?俺が向こう引っ越してもたまには来るだろ?」


「たまにはね!でもそんな沢山は行けないよ」


「週一ぐらい?」


「いや多っ!!む、無理だよ。2ヶ月に1回とかじゃない?行ったとしても……」


新幹線って高いのよ……それに車で行ったら疲れがえぐい……


「……………そんなに来ねぇのか」


「しょうがないじゃん!?でも向こうには美羽姉いるじゃん!」


「姉ちゃんは仕事忙しいだろ」


「私は忙しくないと?」


「…………俺はもっと会いてぇ」


フリーズ


うぅ!!助けて美羽姉!!お宅の弟さんが可愛すぎて死ぬ!!

何?もっと会いてぇって何!?


私も!!ってなったらもうこれは少女漫画だ!!アットホームな話じゃなくなる!!


でも私だって会いたいよ飛雄おおお!!!


「ぅぬっ………でも、無理なもんは………うぁっ……その………うぅっ……無理だよ」


「なんか変な声出てるけど大丈夫か」


「大丈夫大丈夫」


推し(飛雄)が尊過ぎてやべぇだけだから。


「…名前は、俺が離れたらもうどうでもいいのか?」


「そんな訳無いじゃん!?飛雄がいなくなっちゃう日までになんとか飛雄離れを進めなくちゃって焦ってる所なのに。」


飛雄が生活の中心になっているので、いなくなってしまうときっと私自身が狂ってしまう。


だから少しずつでも……って思っても毎日一緒にいるので全然出来てない、なんならたまに東京へ合宿に飛雄が行く時でも未だに大泣きする。


「……俺離れなんてしなくていいだろ、会いに来れば」


「それが簡単じゃないし……飛雄も私もいつかは離れるしお互い結婚だってすると思うから遅かれ早かれだよ…」


「………なぁ、名前」


「ん?」


「……………なんでもねぇ」


「はい!?気になるじゃん、何?」


「…………もっと、俺が成長したら言う」


「え、そんな大事なことだったの」


「ん。相手にされねぇ内は言わねぇ。」


「………?そうなの?」


「あぁ、ほら帰るぞ」


最近飛雄はよく分からない事を言ったりする、なんなんだろう。ユースの関係で色んな人の師事を受ける事がある関係だろうか。


でも本人が今は言わないと言ったら絶対に言ってくれないので、今はそっとしておこう。相手にされないって、私にか?なんだろう。


首を捻るばかりの私だが、とりあえず姉ちゃんは待ってるよと言う意味を込め、握った手に力を込めた。