「は?あんたらまだ付き合ってなかったの?」
「………はい?」
「てっきりもう付き合ってんのかと思ってたわ」
目の前に座るオシャレなイイ女。影山美羽、飛雄の本当の姉ちゃんである。
その、美羽姉は、今なんて言った?
「え、ちょ、どういう」
「お父さんとお母さん達にも聞いたけど、まだそういうの聞いてないけど……付き合ってるんじゃないかねぇ?って皆言ってたけど?付き合ってないの?」
「!?!?」
「あら、ここのご飯美味しいわね……ちょっと、聞いてんの?」
「聞いてるけども!!」
「食べたら?美味しいわよ?」
東京のオシャレなカフェでオシャレなイイ女とご飯を食べれるなんて幸せな休日だ。それはいい、それはいいけど。
「美羽姉もお父さん達もお母さん達も皆飛雄の気持ち知って……!?」
「と言うかあんたら両思いで付き合ってる、まで思ってたけどね」
「そんな………私なんか飛雄が家出る時に初めて知ったのに……」
「……………………え。嘘でしょ。」
「本当なの…………本当なのおお!!!」
「うわ……我が弟ながら可哀想」
「ぐふぅうう…………可哀想なことをして来てしまっている……今も尚……」
奇声を上げながら項垂れる。東京のオシャレなカフェに見合わぬ田舎人でごめんなさい。
「え?今も尚って何よ」
「………飛雄にちゃんと告白されて、でも家族として好きなのかどうかわかんなくて……保留中」
「は?ちゃんと付き合いなさいよ、そんで結婚しなさい。」
「なんで!!そう!!ハキハキと!!かっこいいよね美羽姉は!!」
「ありがと。何?飛雄じゃ嫌なの?結構いいと思うけど。」
「私も思う……。」
「じゃあいいじゃない、あの子誰がどう見ても名前にベタ惚れしてるんだから。」
そのベタ惚れに気づけないような女でごめん……ほんとごめん飛雄……。
「それとも何?飛雄が他の女の子に盗られちゃっても良いの?」
「…え?」
「名前がそうやってうじうじしてる間に他の子に惚れちゃって、盗られちゃうかもよ?」
飛雄が、他の子と……。
「そうなってもなんとも思わない?」
「………い、嫌。……かも、しれない。」
「ほら、答えは出てるじゃない。」
「……私なんかでいいのかなぁ?」
「あんたねぇ……自分でも言ってたでしょ、私はハイスペックな女だ!!って」
「そりゃ冗談でだよ……美羽姉や飛雄を見てたらハイスペックな女だなんて言えないよ…」
「じゃあ私が言ってあげる。あんたは自慢の妹よ。」
頬を両手で包まれて、上を向かされる。うっ、姉弟揃って美人な2人め。
「頭が良くて凄い大学出てて、一流企業に勤めてて、家事全般得意で、こんなにスタイルも顔も良い。」
「……そうかなぁ。」
「そうよ?それに、何よりあの飛雄を育て上げたのはあなたじゃない。」
「……うん」
「名前が惚れるような男に育てたのはあなたよ?凄いじゃない。」
「……そっかぁ、私凄いのかぁ」
ふふ、と笑いが込み上げる。
「そうよ?……それに名前は私にとっても飛雄にとっても大事な存在。だから、」
「……だから?」
「本当の家族になりたいわ。」
綺麗な顔した美羽姉が、ふわりと柔らかく笑った。
本当の、家族
「…私も、なりたい」
「飛雄とも美羽姉とも家族になりたい」
もどきじゃない、姉でもない、美羽姉の妹に。そして
飛雄のお嫁さんに、なりたい
「……じゃあもう飛雄に言う言葉は決まったわね」
「……あ。」
「これから会うんでしょ?良い報告、待ってるから。」
そう言うと既に食べ終わっていた美羽姉はお会計を済ませて、お店を出て行ってしまった。会う度かっこいい人になってるのはなんでなんだろう。
言う言葉、か。
なんて言ったらいいんだろう。好きになりました。かな?なんかおかしい。
付き合ってください。……うーん
もぐもぐと美味しいご飯を口に放り込みながら、考える。すると震えるスマホ。
見ると影山飛雄の文字。やべ、もう練習終わったのか。
「もしもし!」
『名前?今どこにいんだ 』
「えっと………ここはどこだろう」
『は?』
駅に美羽姉が迎えに来てくれて、連れられるまま来たもんだからここがどこかよく分かってない。
「ちょっと待ってね、マップ開く…」
『お前どこかもわかんねぇ場所になんでいるんだよ』
「美羽姉と会ってたの。何も考えずに着いてきたらどこかわかんなくなった。」
『?姉ちゃんは。』
「さっきお店出ちゃった。」
『……なるほどな。』
「あ、えっとね……住所言ったら来れる?」
『たぶん』
そう言った飛雄に現在地を教えると、ちょっと待ってろとだけ言って切られた通話。
お店を出て、飛雄を待ってるとこちらに向かって走ってくるでかい人影。
「走ってきたの!?」
「?おう、そんなに遠くなかったから。」
「そ、そか……」
「家行くか。」
呆然とする私を無視して、荷物を攫う飛雄。
「あ、ちょ、自分で持てるよ」
「いい。俺なんも持ってねぇから。行くぞ。」
そう言って宮城にいた頃のように手を繋いでくる飛雄。
でも、ここは東京。そして飛雄は今やイケメンプロバレーボーラーとして知る人ぞ知る人だ。テレビにも出てるしパワーカレーなんてアホほど笑ったCMも出てる。
「て、手繋ぐと撮られるかもっていつも言ってるじゃん!」
「俺は別にいい。お前との交際報道なんていくらでも出たらいいと思ってる。」
くううう!!!悔しいけどイケメンだなこの野郎!!!
◇
「お邪魔しまーす!」
「ん。」
飛雄は去年だか今年だかぐらいに引越しをして、今の超絶オシャレなマンションに引っ越した。勿論探したのは美羽姉である。
前のマンションは少し狭かったとかなんとかで、今の住んでいるこの部屋はとんでもなく広い。上にも横にも。
「はぁあああ、いつ来てもこの家腹立つなぁ。」
「あ?」
「金持ちかよ!!」
「金には困ってねぇよ。」
「クソ腹立つ!!!」
「嫁に来るか?」
「クソ!!!」
「はぁ?」
腹立つのに、嫁に来るかって言われるとちゃんと照れちゃうの辞めたい。
いや、……辞めなくてもいいのか。美羽姉と話した内容を思い出す。
私が飛雄に言う言葉は決まっているんだ。
ちゃんと、飛雄の彼女になってお嫁さんになるんだ。
私の荷物を片付け、ソファーに座った飛雄。あれ、またでかくなってないかこいつ。
「?何してんだ、座れよ」
下から見上げられ、今日もムカつくほどに綺麗な顔しやがって。とソファーの後ろから顔を両手で掴む。
「おい、なんだよ」
「……飛雄、聞いて」
「何を」
「話」
「いつも聞いてんだろ」
「う、うん………………えっと……………………えっとね」
「早くしろよ」
「もう!!!そういうとこ!!!」
緊張して、言葉に詰まる私に、は?と言う顔をしてそういう事言っちゃう飛雄にムカつく。
「んだよ、話って?」
「……………飛雄」
「ん?」
「……………ずっと、」
「ん」
伝われ。
「………ずっと好きでいてくれてありがとう。」
「…ん。」
今更気づいたのだけれど。
「……私も、飛雄と同じ気持ち、デス。」
「……え?」
優しい飛雄が大好きです。だから、
「…………私と、……ずっと、一緒に生きていきませんか。」
2人で一緒に笑って生きていきませんか?