姉ちゃんもどき成長感じる

「名前。」


「……んぁ?」


「はよ。……元気ですか、コラ。」


「げんき……ですよ…?ん…?」


目の前にあるイケメンの顔を眺めながら、どういう状態だ?と記憶を遡り、思い出す。


一昨日から飛雄の家で過ごしているんだった、今日は日曜。練習所に遊びに行かせてもらえるんだった、あと宮侑さんにお会いするんだった。


昨日は結局1日体の調子が戻らず、寝て過ごしたんだった。今朝は今体を動かしてみてもなんら問題は無い。元気ですよ、コラ。


「喉も腰も治ったな。」


「うん、良かったぁ!お腹すいたし朝ごはん食べよ?冷蔵庫なんかある?」


「ん、昨日買い物行った時に適当に買ってきた。」


「お、自炊する気でも起きた?」


「違う、名前が元気になったらなんか作ってもらおうと思って。」


「良いご身分だな……?痛めつけた本人の癖して……?」


「……それは、悪かったって。」


「あはははは!!ね、写真撮っていい?こんなしょぼくれた飛雄もうあんまり見れないだろうし、」


「いい訳ねぇだろ!!さっさと起きろ!!」


「うわぁ!?」


布団をひっぺ剥がされ、怒鳴られる。朝から元気な事だ、こいつ高血圧だったっけ?





「と、飛雄。」


「あ?」


各々外へ出る準備を進めて暫くして、鏡の前で化粧を施して髪の毛も纏めた状態で飛雄に問う。


「わ、私ちゃんと飛雄の彼女に見える……!?」


今思えば飛雄は180センチ越えでスタイル抜群、筋肉もアスリートらしくついており、逞しい体つき。そしてその上に乗る長い首に小さなお顔。


そんな飛雄の横に私を添えてみる。するとどうだろう、ちんちくりん感が否めない。なんてこった。いや身長低い訳じゃないけども、どう頑張ったって縦の長さが足りなさすぎる。


「………何言ってんだ。」


そして今日も顔からして何言ってんだ。と言っている飛雄。今日も腹立つ顔しやがって。


「だって!!飛雄の隣に立ってもおかしくない!?大丈夫!?」


「…はぁ。」


「なんでため息つくの!?心配になったっていいじゃん、飛雄はスタイル抜群だからいいだろうけど!!」


「お前いつまでそんなこと言ってんだ。」


呆れきった表情を浮かべられる。そんなにおかしい事言ってないだろう。


「そ、そんな事って…!」


「お前は俺の自慢の彼女だ。今すぐにでも公表したいくらい。世界に向けて、こいつは俺の彼女だから手を出すなって言いたいくらい。」


「んなっ、大袈裟な……!」


「大袈裟じゃない。どれだけ片想いして、どんだけ苦労して手に入れたと思ってんだ。」


慈しむ様に私を見てそう言う飛雄。


「自信持ってろ、名前はいつだって美人だ。」


するりと顔を撫でながら言われる。いつからこんなスマートな男になったんだ……なんて言葉は褒められて赤くなった頬を隠すのに忙しくて言えなかった。






「でっっっっっっかぁ!!!!」


「うるせぇ。」


「何この体育館!?こんなとこで練習してたの!?凄!!プロじゃん!!」


「うるせぇよ。」


「はぇー、広すぎ!!迷いそう!!あれ?あっちって何があるの?」


「おい勝手に歩き回るな!」





「でっっっっっっかぁ!!!!」


「うっせぇよ、さっきも聞いた。」


「何これ!?食堂!?何人同時に食べるつもり!?」


「うるせぇ、少しは落ち着けよ。」


「すっげぇ!!なんだこの種類の豊富さは!!食べたい!!」


「後でな。」


「楽しみだなぁ!!……うわっ!!」


飛雄の練習所に大興奮しながら歩いていると、人とぶつかってしまった。慌てて離れて謝ろうと顔を上げると、


「…………あれ?」


この人見たことあるぞ。


「おはようございます、侑さん。」


「侑さん!?」


「………………ほえぇ、ほんまに美人やなぁ。」


「は?」


「……俺のなんで、手出さないで下さいね。」


ぐっ、と飛雄に引き寄せられ腕の中に閉じ込められる。宮さん絶対そんなつもり無いのに、失礼でしょうが。


「ちょ!離せ!!」


「うるせぇ、1回落ち着けよ馬鹿。」


「馬鹿!?あんた馬鹿って言った!?」


「あぁ、言った。お前のことを馬鹿って言った!」


「ちょ、2人とも落ち着いて、」


「馬鹿ってお前みたいな単細胞の事を言うのよ!!」


「んだと!?」


「私は賢いわ!!飛雄と違ってね!!」


「うるせぇよ!学力の事なんか今言ってねぇよ!!」


「はぁ!?」


「ちょ!!落ち着き!!2人とも!!!」


ビクッと体を強ばらせる。宮さんに大声で止められ、周りからチラチラと見られるほどに言い合っていた事に身を縮こまらせる。は、恥ずかしい。


「……すんません、侑さん。」


「ご、ごめんなさい。初対面から印象最悪ですね…。」


「いやいや!初めまして、宮侑です。飛雄くんの彼女……で合ってます?」


「はい、合ってます!」


「……中々激しく言い合ってたけどあれは日常なん?」


「はい、大体こいつとは言い合ってます。」


「……そうなんか。」


「…………………えっと、どうしました?」


じーーっと宮さんに見つめられる、なんでしょうか…?


「いや……ほんまに美人やなぁ苗字さん。これで会社員なんやろ?芸能界とかからスカウト来そうやけどなぁ。」


「あー…………」


「え?……本当はスカウトされた事あるとか?」


「…えっと…………はい。東京に来た時に何度か。」


自慢になってしまうようであまり自分から言ったことは無かった。知ってるのは美羽姉と飛雄、そして仲の良い友人達ぐらいだ。


「ほんまか!!凄いなぁ、興味とか無かったん?」


「あんまり……当時は飛雄もまだ学生だったので、家の事でいっぱいいっぱいで。」


「そうなんか……いやぁ、それなら納得やわ。そこらのモデルさんよりずっと綺麗やもん。」


宮さんは何度かファッション雑誌で綺麗なモデルさんと並び立った写真を見た事がある。どこからどう見ても彼女達の方がべっぴんさんだ。


「いやいや…………大した事無いですよ私なんて。」


「何言ってんだ、お前は美人だって言っただろ。」


「……………………。」


何言ってんだはお前だ馬鹿野郎!!何宮さんの前で惚気けてんの!?え!?えぇ!?


「ひゅー!お熱い事で!ほな邪魔者は退散しますわ。苗字さんこの後も見学していくん?」


「あ、は、はい。」


「そかそか、ほなまた後でなー。」


ひらひらと手を振りこの場を去った宮さんを見送り、隣にいるデカブツをぶん殴る。


「いって!!」


「何惚気けてんだ!!バカ!!」


「は?惚気けた……?」


「ほ、他の人がいる前で私の事美人とか、惚気以外に何があるのさ!!」


は、恥ずかしい!!普通に照れてしまったし、宮さんにも察されたし、恥ずかしすぎる。


「別にいいじゃねぇか、本当の事なんだし。」


「と、飛雄がそう思ってくれてたのだとしても辞めて!恥ずかしくて死んじゃうから……。」


「……………。」


「え、何。」


突如こちらを凝視して固まる飛雄。なによ。


「…恥ずかしくて死んじゃう、って前も言ってたな。」


「……は?いつ?」


「一昨日。ベッドの上で」


「うわああああああ!!?」


こいつ!!ほんと!!こいつぅうううう!!!


恥ずかしくて泣きそうになりながら飛雄の口を手で無理矢理塞いだ。この変態!!





「うっわぁ………!!これ無料で見ていいのだろうか…。」


飛雄に大人しくしとけよ、と言われ2階の見学席に座らせたのが1時間前。


それから少しして始まった練習は迫力満点で、一般人が無料で見ていいレベルでは無い気がした。いや、絶対そうだ。試合のチケットはタダじゃないんだし…。


チラホラとテレビや雑誌、CMで見た事がある人達がいて、プロの世界なんだなぁとそこに混じる飛雄を見て感慨深く思う。


小さい頃、歳の離れた美羽姉の後をついてまわり、何度も転んで何度も大泣きしていた。


夜ご飯がカレーじゃなくて泣いてた。美羽姉に置いていかれて泣いてた。私が遊びに来なくて泣いてた。


なんだかんだ言って泣き虫だったかもなぁ、ほろりと思い出す。


そして今、立派になった背中に小さく縮こまり泣いてた背中が重なる。


飛雄がここまで来るまでの軌跡は知っている。段々色んな困難を乗り越えてここまで来たってちゃんと知っている。


そして思う、大きくなったね。と。


本当に大きくなった。可愛い弟だと思っていたのに気づけば背も抜かされ、口説いてくるまでになった。成長期は侮れなかった。


なんとなく全体を眺めていたが、ふと飛雄の方を見るとなんだか人に囲まれている。


今は休憩中のようで、皆タオルやらドリンクやら持って和気あいあいと会話している。


飛雄………日向くんいなくても人と会話出来てる……!!


高校生の時は基本的にずっと日向くんとセットだったので、彼と別れてからの人間関係が地味に心配だった。


試合を見に行くことは何度かあったが、試合中はまた違うコミュニケーションだろうし、普段一人ぼっちじゃないか気になっていた。


しかし今の様子を見ると、ちゃんとアドラーズの皆さんに溶け込めているようで、姉ちゃんは嬉しい!!


しみじみ思っていると、突き刺さる視線。なんだ、と下を見ると飛雄と飛雄の周りにいた人々に凝視されていた。え!?


暫く見つめられ、あたふたと慌てたがその内練習再開の笛が鳴り彼らはコートに戻って行った。


なんだったんだ、全く。不躾に人をじろじろと見よって。






「苗字さああん!!ちわっす!!」


「ちわっす日向くん!!この間の試合ぶりだね!元気だったー?」


練習が終わり、お昼休憩に入ったようだ。日向くんが駆け寄ってきてくれた。


「はい!影山と付き合ったんですね!!おめでとうございます!」


「あ、は、はい!ありがとうございます!」


「影山、ずっと、苗字さんの事好きだったから安心しましたよ俺!」


「……やっぱり飛雄ってそんなに分かりやすかった?」


「?…はい!少なくともバレー部はほぼ全員察してましたね!」


「……………そっか。」


「え?」


「……私は飛雄を見ているようで見ていなかったみたい。」


「……………え?」


「飛雄からの好意に全然気づけなかったんだぁ、飛雄が高校卒業するまで。」


「えええ!?そうだったんですか!?」


練習所内のベンチに座り、深く頷く。むしろ周りから私はどんな風に見えていたんだろう、好意に気づいていて飛雄を拒絶しているように見えてたのだろうか。


「で、でもじゃあ逆になんで好意に気づけたんですか?」


隣に日向くんが座る。高校生の時より遥かに大きくなった体は彼の成長を物語っている。


「卒業した時に、ちゃんと告白されて。冗談とかじゃないってちゃんと言われて……それでやっと……なんだろ、恋愛対象として見た、と言うか。」


「なるほど……そもそも影山は苗字さんの中では恋愛対象外だったんですね?」


「そりゃそうでしょ、弟だもん。夏ちゃんの事恋愛対象として見れる?」


「む、無理ですよ!!夏は妹ですし……」


「でしょ?そう言う事だよ……最初はびっくりしてひっくり返るかと思った。」


「確かにそう考えるとびっくりしますよね……よく付き合うまで来れましたね?」


「いや本当によくここまで来れたよ……飛雄を育てるまででも大変だったのに、そこから今度は彼氏にしてくれだなんて頭回んなかったよ…」


「そりゃ悪かったな。今度は旦那を目指してるけどな。」


「「!?」」


突然後ろから聞こえた声に日向くんもろともビクッ!!と体を震わせる。


「と、飛雄……いつからいたの。」


「告白されてやっと恋愛対象として見たって所から。」


「いたなら話しかけろよ……」


「話しかけようと思ったら俺の話してたから聞いてた。」


どこまでもマイペースなヤツめ……と飛雄を2人でじとーっと見つめる。?マークを飛ばしまくるこいつは相変わらずコミュ障だ、コミュニケーション能力低すぎ。


「おい、食堂行くぞ。行きたがってただろ。」


「あ!行く!!」


「俺も一緒していいっすか??」


「いいっすよ!おいで!!」


「あざっす!!……いいだろ、影山ぁ?」


「………。」


「ゴルァ!!睨まないの!!」


「いくら苗字さんと2人が良いとはいえ、食堂だと色んな人来ると思うぞ??さっきだってお前質問攻めにあってただろ」


「え?そうなの?」


さっき飛雄が囲まれてたのは質問攻めにあってたからなの?仲良しだからじゃなかったの?


「……ん、あの美女は誰だって色んな人に。」


「美女て!!」


業界人と会ったことがある人ばかりな世界で、美女と言われるのはなんだか恥ずかしい。ば、馬鹿にはされてない……?え?されてる…?


「だからお前と苗字さん一緒にいたら色んな人来ると思うぞー?それなら俺がいた方がまだマシじゃね?」


「………………………おう。」


「決まりな!!」


眉間にたっぷりと皺を刻んだ飛雄に対してにかぁっ!と笑顔を浮かべる日向くんは、飛雄の扱い方を熟知している。凄い、飛雄マスターだ。


さ、行きましょう!と日向くんに手を引かれ、私たちは食堂へと向かった。