『ごめん、名前。こんな風に注目されるとは思ってなかった。』
そう美羽姉から送られてきて、なんの事?と思ったが、その後送られてきた画像を見て、固まってしまう。
『影山選手と共に雑誌に載った謎の女性。その正体は!?』
そう大きく書かれたネットの記事。
正体は!?って……ただの会社員ですよ、と苦笑いを浮かべてしまう。
「大丈夫、気にしてないよ。っと……。」
美羽姉にそう送り返して、会社に行くため家を出た。
◇
それから数日後、またしても美羽姉から送られてきた画像に今度は気にしてないよ、とは返せなかった。
『影山選手、熱愛!!お相手は雑誌の女性か!?』
熱愛。まぁ、熱愛だが。正解な訳だが、私が眉を寄せたのはそこではなく一緒に載っていた写真だ。
仲睦まじく腕を組む男女。片方はよく知る私の彼氏な訳だが、お相手は見知らぬ女性。
きっと何かしらの理由があるのだろう、そうは分かっていても、自分の彼氏が誰かと腕を組み歩いている写真なんて見ていて気持ちの良いものではない。
しかし、心配は特にしていなかった。気分は良くないが、自分のスマホに来ているおびただしい量の通知を見たら、むしろ笑みさえ浮かんでくる。
まずは大丈夫?と心配してくれる美羽姉に全然大丈夫!!と返事を返し、えらく言い訳をしている我が彼氏とのトークルームを開いた。
中身はと言うと予想通りすぎて、今度こそ声を上げて笑ってしまった。違うんだ、違う、本当に。と何度も送られてきていて腹が痛い。可哀想になるくらい許してくれ、と送られてきていて、つい通話マークをタップした。
『も、もしもし!!?』
「あは、あははははは!!!」
第一声からの慌てように堪えきれず笑ってしまった。
『………は?』
「あははは!!……ひいい、お腹痛い!!」
『……怒って、ねぇのかよ。』
「怒る訳無いじゃん!!あんなに言い訳メッセージ送り付けといて。」
『……でも、写真見たんだろ。』
「見たよ?何、本当に浮気したの?」
『してねぇ!!』
「でしょ?写真1枚より、今までずっと見てきた飛雄を信じるよ。」
彼は嘘なんて上手に吐けない。そんな大人になったのだ、浮気なんて向いてない。
『………ほんと、かっけぇよなお前。』
「は?え?何が?」
かっこいいって何が?
『…なんでもねぇ、ありがとな。信じてくれて。』
「ん、そんなことで一々落ち込まないの!心配しなくてもあんたの彼女は結構逞しいから!!」
そう言って笑い飛ばしてあげる。写真を見た瞬間、心臓が止まったような衝撃を受けたのは秘密だ。
『……おう。』
満足気な声を聞けて、私も安心する。きっと何か理由があって写真のような状況になってしまったのだろう。
記事が出て、衝撃を受けたのはきっと飛雄も同じで、すぐに私の事が心配になって連絡したのだろう。その心労は計り知れない。
出来ればこんな事は二度とごめんだが、有名人となってしまった弟もどきと付き合っていくには切っても切れないものだろう。仕方が無い、受け入れなければ。
そしてあの記事に関しては数日かけて、飛雄側とお相手の女性側、両方から否定の声があり、収束へと向かった。
◇
「あ、もしもし飛雄?今週末なんだけど、遊びに行ってもいい?」
『あ…………悪い、しばらく、会えねぇ。』
「……え?どういう事よ。」
あれから暫くして、言われた言葉を反芻する。暫く会えないって何。
『…その、また写真撮られて。今こっち来ると名前の写真まで出ちまいそうで…。』
「また撮られちゃったの!?」
間抜けめ。にしても私の事考えての事だったのか、優しい飛雄にほろりとしそうになる。
『悪い。……その、また記事出ても気にしないでくれ。』
「ん、わかった。飛雄もいい加減気をつけなよ?どんだけ女の人と遊んでんの?」
『遊んでねぇよ!!』
「うわ!?じょ、冗談じゃん、キレないでよ…!?」
怒鳴られて驚いてしまう。私みたいな図太い女じゃなかったら泣いてたぞ馬鹿野郎。
「じゃあまた落ち着いたら連絡するよ。」
『……悪い。……早く会いてぇ。』
突然の発言にきゅんきゅんしてしまう。くっそ、可愛いヤツめ…!
「…うん、私も。あんまり無理しないようにね?」
『……ん、またな。』
「うん、またね。」
そう言って切った通話。この時はかっこよくて可愛い彼氏につい口元が緩んでしまった。
しかし数日後、飛雄の言う通り出てきた記事を見て私は以前のように笑い飛ばせ無かった。
前回とはまた違う女性。まぁまた何かしらの理由があったんだろう、と電話した時は思ったが、
この写真は、どんな理由があったとしても笑ってあげられない。
女性は後ろ姿だけしかわからず、写真には飛雄が身をかがめて女性に視点を合わせているように見える。
まるで、
『影山選手、路上での大胆キス!?』
写真1枚より、今までずっと見てきた飛雄を信じるよ。そうやって今回も思い込もうと、信じないと、と思っても写真とは無情で事実で現実で。
ピコピコと鳴るスマホ、なんだか全てが煩わしく思えてきて、誰からのメッセージかも見ずに私は電源を切った。
◇
テレビをつけても飛雄の報道が流れてしまい、見れなくなってしまった。
そもそも一人の時間が多くて助かった。笑顔を作る余裕さえない。
たった1枚の写真にダメージ喰らいすぎだろう、と我ながら情けなく思う。
昨日1日携帯の電源はつけられなかった。休みに入った今日。ゆっくりと誰にも干渉されない時間を過ごしてやっと、現実を受け止められてきた。
きっと、目にゴミが入ったとか、それを見てあげたとか。そんなんだろう。あいつが浮気なんて出来ないってちゃんと分かってる。大丈夫。
スマホを起動させて、メッセージを開く。
するとピコピコと煩いスマホ。飛雄からのメッセージを開けば最初こそ悪い。とかごめん。とかそんなのが続いていたが、途中から返事をしない事に腹を立てて怒りのメッセージばかりになっていた。
まぁ返事をしなかった私が悪いんだけどね。と思いながらも、あんな写真を撮られる飛雄にだって非があるんじゃないか。とか、
あんな写真を見て私が傷つかないとでも思ったのか、愛想をつかされないって思ったのか。そんな怒りさえ沸いてきた。
しかしここは感情的になってはいけない。相手は飛雄だ、弟もどきとして育ててきた飛雄。コミュニケーション能力が低い。私が、大人として対応しないと。
メッセージでは駄目だ、ちゃんと話さないと。
通話マークをタップする。
数回のコール音、そして繋がる通話。
『もしもし。おい、お前、』
「飛雄?」
『は?当たり前だろ。』
「返事しなかったのは謝る。」
『……おう。』
「でも、あの写真には流石に傷ついた。」
『……悪かった。』
「あれ、なんの写真よ。」
『……それが、わかんねぇんだ。』
「……え?」
『あれ何かの撮影の後で、飯食いに行って、酔っ払って。たぶんその時で。』
……それって、本当にキスしてたかもしれないって事?
「………お相手は、なんて?」
『それが、何のコメントも出してねぇ。俺は付き合ってないって否定してるけど、』
何のコメントも無い。
否定とも、終息を待っているようにも思えるけれど、
肯定にも見える。
「……なんで、そんな酔っ払ったの。」
『んなの覚えてねぇよ。飲みすぎたんじゃねぇのか?』
なんでそんな自分の行動に責任感が無いの。
何しちゃっても飲みすぎちゃって記憶ないなら許されるの。
なんで私がいるのに、ほかの女の子とそんな近づくの。
なんで、なんで。
「………………わかった。」
『おいそれより、』
飛雄の声を無視して切った通話。
すぐに着信が来るが、スマホをベッドに投げて蹲る。
駄目だ、今は話が出来る状態じゃない。
なんでなんで。と責めることしか出来ない。こんな事が言いたい訳じゃないのに。
飛雄だって酔っ払いたくて酔っ払った訳じゃないのに。
お相手だって否定のつもりでコメントを出してないのかもしれないのに。
頭の中にはキスしてる2人ばかりが浮かんできて、とても冷静じゃいられない。
あまりに胸が痛くて、痛過ぎて、零れ落ちた涙。
ずっと鳴り続ける着信音の中で、嗚咽混じりの泣き声が静かな部屋に木霊した。