逃げて逃げてその末に

中々収束しない熱愛報道。


そしてその話をした日から連絡の取れない名前。


会いに行こうにも、今は記者達が新たなスクープを狙って張り込まれているから練習所と自宅以外行かないでくれ、と


事情を知っているとは言え、これ以上の事態拡大を危惧したチーム側から言われ、俺はひたすらにメッセージを飛ばす事しか出来なかった。


姉ちゃんにも相談したが、とりあえず今は収束を待ちなさい。頭を冷やしなさい。と言われるばかりで、恐らく名前の事を何か知ってるのに教えて貰えずまた苛立った。


名前と話した最後の日、酷く傷ついたような悲しんだような声色をしていたと、今更になって気づき、自分の無神経さを恨んだ。


名前が返事をしないのは自分のせいなのだろう。なんとなく、そう感じる。


自分の行動に責任が持てていなかった。本当は何があったのか思い出せやしなかった。


しかし、相手側との連絡が取れ、事実として何も無かったと、目にゴミが入っているのを心配しただけだったとわかったのだ。


でもそれを伝えることすら俺にはできないし、傷つけたのはきっとそこじゃない。名前と言う、これ以上ない彼女がいるのに何が起きてもおかしくない状況を自ら作ってしまった事が、名前を傷つけたのだろう。


それだって、名前から突き放されてしばらく経って、少し頭が冷えてきてから気づいたことだ。


すぐに気づいてやれない自分の不甲斐なさに苛立ち、そしてこういう時だけ、わざわざそんな事言って俺を刺激しない名前の優しさに胸が苦しくなった。





あれから数ヶ月、ようやく事態は収束し俺もメディアから解放された。


そして俺はあの日以来名前と会うことも、話すことも、メッセージを見てもらうことさえ出来なかった。


ちゃんと、謝らせて欲しい。


もしかしたらもう俺の事なんて嫌いになったのかもしれない。そう自分で仮定しただけでも、胸がギュ、と痛んだ。


それでも謝らないと。そう心に決め、俺は宮城へと向かった。


しかし。


「あら、おかえり!!急に帰ってきてどうしたのよ。」


「ただいま。名前は?」


「え?名前ちゃんなら昨日から美羽ちゃんの所に行ってるわよ?聞いてないの?」


「は……?」


名前の母ちゃんの言葉に固まる。姉ちゃんの所……?


そして気づく。姉ちゃんはメディア側に近い人間で、俺がそろそろ動き出せると知っていた。だからその情報を得た名前は俺と会うのを避けるために東京に行った。


「………クソ!!」


「え、ど、どうしたのよ。」


「……悪い、もう東京戻る。」


「え!?今来たとこじゃない!」


慌てる母ちゃんを置いて駅に戻る。今から戻ればまだ今日中に会えるだろうか。





「名前ならいないわよ。」


「………は?」


だって、名前の母ちゃんはここにいるって、


「私がそろそろ記事のことも落ち着いてきたみたいよ、とは教えた。……それで話せてないならごめん。でも、」


私のところに逃げてきなさい、とか。あなた達が疎遠になるような事は言ってない。と困ったように眉を下げる姉ちゃん。


「……じゃあ、あいつ今どこに。」


「…わからないわ。昨日から私も連絡取れてないの。」


「え。」


「……飛雄、絶対話しなよ名前と。このまま終わらせたりしたら駄目。」


「………んなの、わかってる。」


とは言え姉ちゃんの家を出て、途方に暮れる。


そもそも宮城にいるのか東京にいるのかさえわからない。でも流石に平日になったら宮城に戻ってきてるだろうし、それを狙うべきか。


それにしても姉ちゃんにまで連絡を寄越さないなんて。あいつの様子が心配で仕方ない。





「なんでだよ……!?」


平日の昼間、練習のない日を狙って宮城に来て、帰ってくるであろう時間まで待っていた。なのに帰ってこない名前。


勿論電話にもメッセージにも返事はない。


俺も明日には練習あるので東京に戻らないといけない。あまり遅くまでここにはいられない。


もしかしてそれを想定して、残業や飲みに行ったり買い物に行ったり。とにかく帰ってこないようにしているのだろうか。


そう言えば酷く賢いやつだった。と思い知らされ腹が立つ。


とは言えここに居続ける訳にもいかないので、渋々俺は東京に戻った。





20時を周り、家に帰る。


予想通り飛雄は帰って行ったらしい。練習予定を把握していて良かった。


我ながら情けない。彼氏から逃げ惑う生活を送っているなんて。


でもそれほどに私はスキャンダルから受けた傷が深過ぎて、とてもじゃないが笑ってあげられそうになかった。


こんな話を感情のままに話してみろ、ろくな話し合いが出来そうにない。


早く自分の気持ちを落ち着かせなければ、弱っている自分で飛雄と会話なんて出来ないのだから。そう思ってはいるが中々飛雄から未だにやって来るメッセージの通知に怯える日々。


愛想、尽かされるよなぁ。こんなんじゃ。


飛雄から逃げているくせに、飛雄から嫌われることにも怯えている私。


ずっと、強く逞しく、そして笑っている姉ちゃんでいたかった。だから飛雄に弱っている面をそこまで多く見せて来れなかった。


それがこんな風に仇となってくるとは。頭を抱える。


大量に送られてきているメッセージ達も開けずにいて、今飛雄が何を思って行動しているのかもわからない。


飛雄の気持ちがわからなくて不安になる。


あんなに近くにいて、誰よりも飛雄の事をわかっているのは私だって自負していたのに。


今は誰より飛雄の事がわからない。


凄く凄く遠い人みたいに思ってしまって、もう二度と近くにはいけないのかもしれないとさえ思う。


唇を噛み締め、俯く。飛雄がよく座っていたソファーに腰掛け、顔を覆う。


すると堰を切ったように溢れる涙。ここ最近、泣いてばかりだ。


こんな私を見せられない。


いつから私は飛雄に笑顔を見せられない女になってしまったのだろう。