姉ちゃんもどき襲来

「なるほど?それでリベロの西谷くんとエーススパイカーの東峰くんが帰ってきたと。ほええ青春だなぁ、自信を取り戻すエースかぁ。見に行けば良かったぁ。」


「なんで事あるごとに見に来ようとするんだよ」


「えぇ?そりゃ見に行きたいよ、飛雄はどんな人たちとプレーしてるのかなーとか飛雄はちゃんとコミュニケーションとれてるかなぁとか心配だもん。」


「心配すんな、問題ねぇから見に来るな。」


「ほんとかなぁ…?」


「………さっきからそれ何書いてんだ」


「うーんとね、はいこれ。西谷くんと東峰くんイメージしたんだけど似てる?」


「……逆だな」


「え?嘘、西谷くんはワイルドー!男気!!って感じじゃないの?」


「でも見た目は東峰さんの方がワイルドっぽい。西谷さんはもっと毛が逆立ってて……」


「ほうほう、こんな感じなんだぁ?他の人は?似てる?」


「全員分あんのかよ!?」


「飛雄が毎日バレー部の話するからさ?話聞くだけでどれだけ本人に似せれるかなぁと思って!」


「………結構特徴は捉えてる」


「マジ!?いぇええい!!」


「菅原さんはここに泣きぼくろがある、田中さんはもうちょっとつり目だ」


「ほうほう……」


「あと日向は髪の毛オレンジだ」


「オレンジぃ!?地毛!?」


「たぶん。月島はもっと……なんか髪の毛クルクルしてる」


「クルクル………?」


首を捻りながら、似顔絵を書き足していく名前


それらの横にそれぞれの特徴や性格、ポジションなども書いてあって、情報量の多さに驚く


「……俺こんなに話してたのか」


「そうだよ?飛雄はずっとそうじゃーん、なんでも姉ちゃんに話してくれる可愛い子じゃないか」


「姉ちゃんでも無ければ可愛くもねぇよ!!」


「可愛いに決まってんじゃん!!飛雄はずっと可愛いよ!!」


「うるせぇよ!なんでそこムキになんだよ!!」


「私は可愛い可愛い飛雄が自立するまではお嫁に行かないと決めてるのだよ」


「は?」


「知ってた?」


「……知らなかった、けど」


「でしょ?飛雄はたまに私の彼氏の事とか結婚の事とか気にしてくるけど、心配せずとも高校卒業するまでは結婚する気無いから安心して姉ちゃんを頼んなさい?」


「だから姉ちゃんじゃねぇだろ」


「私はね、自分でもハイスペックな自信があるのよ。だからいつか優しくてイケメンかつ億の男と結婚して玉の輿に乗るのよ!!」


「聞けよ。あとそれ何度も聞いた。」


「あれ、そうだっけ?」


ケラケラ笑う名前。俺が高校卒業するまでは結婚しないと決めているなんて初めて知った。


名前はいつもふざけて俺の事可愛いとか愛してるとか言ってくるけれど、その気持ちは本当だってわかってる。


俺は本当は名前が調理師になりたかった事を知っている。


しかし飲食店で働けば夜は遅く土日も休みでは無くなる。元々俺の両親が忙しく、姉ちゃんも家を出て東京へ行ってしまっていたので、


自分まで俺との時間をとれないと、俺が1人になってしまう。と心配してあっさりと調理師になる未来を諦めた。


本当はあっさり諦めていない事なんか知ってる。名前は簡単に辞めちゃえたよぉ、と言って笑ったが、それが最初で最後の俺に見せた嘘の笑顔だった事は忘れられない。


その事実は俺を苦しめる時もあった。名前の未来を奪ってしまったと悩む時もあった。しかしそれは悲しくも自信にもなった、名前の彼氏達へ名前は俺の為にここまでしてくれる。と言う自信。


名前は本当に俺の事を大事にしてくれている、本当の弟のように。


でも俺は、弟じゃなくて、


「飛雄?どした?」


「っ!な、何が」


「ほらこれ、似てる?皆」


「……似てねぇ」


「えぇ!?さっき特徴捉えてるって言ったじゃん!」


わーわー喚く名前を見てたら笑えてきた。笑う俺を見て、名前も笑う。


いつまでもこうしていたいと願う事は、可愛くない弟になるのだろうか。





「こんにちはー………?」


「っ!?こ、こんにちは、どうしましたか?」


「ここって男子バレー部が活動してる体育館で間違いないですか?」


「そ、そうですけど……俺達に何か用でしょうか?」


「男子バレー部?」


「あ、はい。そうです。」


「…………澤村くん?」


「え!?な、なんで俺の名前」


「やっぱり!やったー!当たった!」


「え、ちょ、なんで俺の名前知ってるんですか」


「やっぱり似てるじゃん私の絵!もう、似てないなんて嘘つきよって……」


「あの………?」


「どうした?大地」


「あ!!」


「「えっ!?」」


「うーんとね、ちょっと待って……?……泣きぼくろ……菅原くん?」


「え!?なんで」


「当たってる?当たってる!?」


「………おい見ろ日向、なんかすげぇ美人がいる」


「ほ、ほんとっすね……!?すんげぇ綺麗……!」


「誰だ、誰なんだあの美女は。」


「ノヤ、落ち着け。鼻血出てるぞ」


「いや田中さんも出てますよ!!」


「!?ちょ、2人とも大丈夫っすか、鼻血!」


「影山、見ろ。流石にお前も狼狽えるであろう美女がいる。」


「は………?」


田中さんが鼻血を垂れ流しながら指さした方向を見ると


「!!!?」


「ね、当たってる?」


「は、はい……でもなんで俺の名前」


「それはねぇ、とび」


「おい!!!!」


「うわぁ!!?」


「か、影山!どうしたんだよ」


名前の肩を勢い良く掴む。なんでいんだこの人は。


「なんでいんだよ!?」


「飛雄がチームメイトと仲良くやってるか見たくて来ちゃった!」


「可愛こぶってんじゃねぇぞ……?」


「いだだだだ!?暴力反対いい!!」


「か、影山……この人は…?」


「影山が……美女と知り合い……?」


「紹介しろ……今すぐ紹介しろ……!」


「田中、西谷その顔やめろ!?」


「君たちが田中くんと西谷くんか!ちょっと似顔絵と違ったなぁ」


「田中さんはもっとつり目だって言っただろうが」


「言ってたねぇ……ここまで凛々しいお顔だとは思わなかったな」


「凛々しい………!?」


「西谷くんもこんなにおめめ大きいとは!迫力あるかっこいいお顔だねぇ」


「かっこいい………!?」


「お姉さん……」


「名前を聞いてもいいですか………?」


「おいお前ら!!跪くのやめろ!?」


「う、うぉう。熱烈な方々だね…?」


「……割といつも通りだ気にすんな。…えっと、この人は苗字名前です。家が隣で俺のおさなな」


「姉ちゃんです!!」


「「「お姉さん?」」」


「違ぇっつってんだろ!?そもそも苗字から違ぇんだから皆混乱すんだろ!!」


「でも姉ちゃんだもん!!私は飛雄の姉ちゃんだと思って生きてきたし!!」


「知るか!!実際は家が隣の幼馴染だろうが!!」


「びええええ!!!姉弟だと思っていたのは私だけだったのかああ!!」


「ずっとそう言ってんだろうが!!」


「……え?結局どういう事なんだ?影山?」


「俺が正しいです、血は繋がってないですし。隣の家に住んでてちいせぇ頃から一緒にいるだけの」


「姉ちゃんです!!」


「いっぺん黙れよ名前」


名前の頭を抱え込む。こいつが話すと拗れる、黙っとけ。


「影山……よくそんな美人に酷い言葉かけれるよな…」


「お前が潔子さん見ても動じない理由がわかったわ……小さい頃からこんな美人と過ごしてたらそりゃ慣れるわな……」