「飛雄おおおお!!!来たよおおお!!!」
「うっせぇ!!黙っとけ!!」
「酷すぎん!?」
「こらこら影山、辞めなさい。こんにちは苗字さん」
「こんにちは!!」
「「「ちわーっす!!」」」
「ちわっす!!」
「大人しくしとけよ」
「了解!あ!ユニフォームじゃん!!かっこよ!!」
「苗字さん!俺は?俺はどうですか?」
「日向くんもかっこいいぞ!黒かぁかっこいいねぇ!!」
今日もサラサラつやつやな飛雄の髪を触りながら思う
「真っ黒な髪だから黒いユニフォームも似合うねぇ」
「セカンドユニフォームはオレンジだけど」
「えっ!!……似合わなさそう…黒ユニフォームの学校と当たらないといいね……」
「音駒高校来ました!」
「え!?じゃあ私は2階へ……」
「ちょ、気をつけろよ。」
「飛雄下で構えてて!!落ちたら受け止めて!」
「任せろ」
力いっぱい梯子を掴み、足を引き上げる。ひいい怖いよ。なんでここしか登れるところ無いの?階段無いの?
下を見れば手を広げて待つ飛雄。たぶんいつ落ちても受け止めてくれるだろうが、絶対馬鹿にしてくるので反抗心からなんとか登りきる
「登れたじゃねぇか」
「ぜぇ……ぜぇ……見たか……!」
「その程度でドヤ顔してんじゃねぇぞ」
ケッと吐き捨てて皆の元へ戻る飛雄。なんであんなクソガキになったかな??
◇
「おー間に合ったな!!……お?お姉さんは…?」
ぼけーっと2階から見てると後からやって来たお兄さん達に話しかけられる
「こ、こんにちは!えっと、影山の……あの黒髪セッターの……幼馴染です」
流石に全く知らない人に姉ですと言う勇気は無く、本当の事を言う
「おぉ!!あのすげぇセッターのか!俺は滝ノ上。あそこにいる烏養繋心と同じ町内会チーム組んでんだ」
「同じく嶋田だ、よろしく!お姉さん名前は?」
「苗字名前です!あのお2人は烏養コーチから練習試合の事を?」
「そうだよ、そっちは影山から?」
「はい。……なんとか。あの、良ければ連絡先交換してもらえないですか?出来れば試合とかの日程教えて貰えると助かります」
「え!!俺は全然いいよ!むしろこんな美人と連絡先交換出来るなんてラッキーだ!……日程教えるのは全然良いけど、なんでだ?影山から聞いたら良いんじゃ?」
「それが来て欲しく無いみたいで……いつも教えてくれないんです、今回はなんとか聞き出せただけで」
「そういう事ね、俺もいいよ!交換しようぜ!」
こうして滝ノ上さんと嶋田さんの連絡先を交換した。ふふふ、飛雄め、もうはぐらかしても無駄なんだからね!!
◇
「……………。」
「あいつら何やってんだか……いい歳して若い姉ちゃんにがっつきやがって」
「か、影山?顔がえらい事になってますけど大丈夫ですか?」
「……うるせぇよ」
2階から町内会の人達と話す名前が見える。町内会の2人は誰が見ても分かるぐらい鼻の下が伸びてる。
あぁもう、だから来て欲しくないんだ。すぐ名前は人の目を集めるから。
「影山、その、あいつらの事は悪い。後でちゃんと言っとくから今は試合に集中しろ」
コーチが申し訳なさそうに言う、当たり前っす
「勿論です、大丈夫です落ち着いてます。」
「影山、落ち着いてんのは分かるけど顔、強ばってんぞー?」
菅原さんに言われてしまう。仕方が無い、気分が良くないのは本当の事だ。
「すんません、なんとかします」
「なんとかって……」
「まぁ?影山くんがミスしても俺は寛大だから見逃してやんよ!」
ふざけた事をぬかす日向の頭を掴む。なんか言ってるが聞こえない。
◇
「やっぱすげぇよなぁあの速攻」
「そうですね……」
「苗字ちゃん?」
以前練習を見ていた時とは違って上から眺める。
あぁ、飛雄のトスを誰も打たなかった時もこうやって見てたなぁなんて悲しい思い出を思い出してしまう。
けれど今は日向くんがいるんだ、飛雄のトスを大事に打ってくれる人。
今日向くんとの速攻決めて嬉しそうに声を上げる飛雄に、誰も打ってくれなかったトスを上げた飛雄が重なる。
良かったね、良かったねぇ飛雄。
「……なんか、泣きそうです」
「えぇ!?ど、どうした!?」
「大丈夫か!?」
唇を噛み締めて堪える。うぅ、飛雄の成長が胸に染みるよぉ……姉ちゃん嬉しいよ……
「ライト!!」
「影山ラスト!!」
飛雄がトスを呼ぶ、あ……!
スパイクを打った、ストレート。
久しぶりに見た……!うちの子なんでも出来ちゃうんです、凄いでしょ。と驚く烏野陣営にふふん!とドヤ顔をした。
◇
結果として烏野は音駒に完敗したが、良い練習試合になったようで皆満足気な顔をしていた。
飛雄もまた然りで、音駒のセッターさんを凝視していた。このコミュ障め……。
「さぁて帰るかなぁ。苗字ちゃんは?まだ残るのか?」
「はい、どうせなら飛雄と一緒に帰ろうかなって」
「え?一緒に住んでるの?幼馴染だよね?」
「あー……はい、色々あって一緒に住んでます」
へらりと苦笑いを浮かべる、詳細を話すと時間がかかるだろうし。
「そうなのかぁ、こんな美人と一緒に住めるなんて羨ましいぜ!」
「いやいやそんな……今日は連絡先、ありがとうございました!」
「いえいえこちらこそ。それじゃあ俺達はこれで。」
「はい、またの機会に。」
そう言って滝ノ上さんと嶋田さんを見送る。
すると入れ違いで音駒高校を見送っていた烏野高校の皆が帰ってきて、ミーティングを始めた。
インハイ予選が近いって言ってたし、より気合いが入っているようで心の中でエールを送る。
頑張れ皆。頑張れ飛雄。
私の中で最後の公式戦はあの記憶で止まったままだ。きっと飛雄は前に進めていると言うのに。
結局私は飛雄が可愛くて可愛くて仕方が無い。それ故に飛雄を手酷く傷付けられたあの試合は私にとっても大きく深いトラウマとなってしまった。
今となっては私の方が未だに引きずっていて、ビビっている部分も大きいかもしれない。
「……い、……おい!!名前!!」
「!!」
下から飛雄に声を掛けられていた。全然気づかなかった。既に飛雄の眉間には皺が寄っておりお怒りである。
「ご、ごめん!何?」
「何って、もう解散した。帰るぞ。」
「あ、そ、そうなんだ。今降りるね」
またも飛雄に下で一応構えて貰いながらゆっくり降りる。なんとか無事に降りられ、一緒に駐車場へと向かった。
「試合、見ててどうだった」
「え?……かっこよかったよ皆も飛雄も」
「そうじゃなくて」
「……ん?」
「あの頃とは違うって伝わったか」
「……うん、皆と上手にやってたね。飛雄のトスを大事に打ってくれる子もいたね。」
「おう、だからもう大丈夫だ。」
心配かけて、ごめん。そう言って頭を下げた飛雄。
心配はしていた、そりゃあもう凄く。高校でも二の舞になっていたら、王様って言われ続けていたらって。
でもそれは飛雄に伝わる程だったようで、彼にとっては負担になっていたかもしれない。
「……謝るのはこっちの方、ごめんなさい。飛雄に悟られてちゃ駄目なのに。」
「俺を心配してる気持ちだろ、謝るな。名前はずっと俺の事守ろうとしてくれてるから、わかってた。」
「……そっか。」
「ん。だからもう泣きそうな顔して試合見に来んな。」
「えっ」
「泣きそうな顔してるの見えてた。今度は笑って応援しろ。」
いいな。と言って私の頭を乱暴に撫でた飛雄。年下の癖に、なんか大人っぽい。
「……わかった、ありがと。」
「?何が」
「私の事全部わかっててくれて。」
「……こっちの台詞だ。」
珍しく素直なお互いに笑いながら、私達は車に乗り込み同じ家に帰った。